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夢のツインタワー(30) 株式交換

株式交換


 4月になった。翡翠不動産と日本観光センターから、またプレスリリースがあった。予想したとおりの株式交換である。翡翠不動産による観光センターの完全子会社化を6月の定時株主総会で決議するとのことである。ここまでは、まずは予想通りではあった。

 驚いたのは、その交換比率である。観光センター株式2株に対し、翡翠不動産株1株を割当てるという2対1の交換であった。当時の翡翠不動産の株価は1200円程度であったから、観光センター株式を約600円と扱っていることになる。630円だったTOB価格よりも、さらに不利な条件で株主から株式を取上げるというわけである。

 観光センターの取締役たちに良識や株主利益の尊重を求めるのは無理とはわかっていたが、どこまでも恥知らずな連中としか言いようがない。

 TOBの価格を設定するのは、翡翠不動産側であって、観光センターの役員たちが口を差し挟む余地はない。ただ、会社の資産価値を無視したTOB価格に無条件に賛成した態度は気に入らないが、しかしそれでも、TOBに応じるかどうかは、株主次第であって強制ではない。価格が低すぎるなら応じなければいいのである。

 しかし株式交換は違う。総会決議が成立すれば、株式交換によって強制的に他社の株式に交換されるのである。

 観光センターが保有する資産内容を無視し、自社株主の利益を踏みにじるような交換比率に賛成した観光センター役員たちの行為には我慢がならなかった。

 自社よりも、あるいは自社株主よりも翡翠不動産様のご利益・ご意向に沿うように全力を尽くす、これが彼らの行動原理である。

 株式交換比率については、佐々木ともどのような比率になるのか、議論はしていた。翡翠不動産の株価が1200円程度だから、任意であったTOB価格に若干の上乗せをした1対0.6ぐらいだろうか、3対2なら、異議なく応じるつもりでいた。

 しかしTOB価格を下回る交換比率には我慢ならない。これでは、「翡翠様に逆らう者は結局損をする、おとなしく言うことを聞きなさい。」と言われているかのようである。

 我々はまだましだった。買値は200円台だから、納得がいかないと言っても、十分な含み益を抱えての不満である。

 植村ファンドは、果たしてどうするのであろうか。

 植村ファンドが集中的に買い集めたのは、TOBの前後の期間であり、TOB価格630円を上回る650円ぐらいで買い集めていたはずである。取得株数は83万株、取得総額は約5億4千万円。実質600円の評価で翡翠不動産株に換えられては、数千万円の含み損が発生してしまう。

 我々は、法廷での戦いを継続することを決意した。これを見過ごせば、資産の潤沢な会社に親会社があれば、どんなに理不尽な資産収奪をしても、TOBからの株式交換によって、すべてをチャラにできるということになってしまう。

 これでは個人投資家がとんなに有望な銘柄を発見しても、その親会社による理不尽な利益・資産に対してなす術がないということになってしまう。商法を盾にとことんまで戦い抜くしかなかった。


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