夢のツインタワー(3) 「簿外資産」
簿外資産
なぜ、佐々木がこの会社の株に目を着け、私もそれに応じたのか。それは、この会社が保有する莫大な隠れ資産の存在にあった。
日鉄の子会社として発足した日本観光センターは、新東京駅構内八重洲口の使用承認を得て、同場所に自社ビルを建設した。これが何を意味するかというと、同場所の借地権保有を既成事実としているということだった。
借地権の所有根拠が日鉄による「使用承認」であったため、借地権の取得について金銭対価がない、つまり借地権の取得原価がないという事実があったのである。
そのため、日本観光センターは株式上場企業でありながら、その貸借対照表にはこの借地権は載っておらず、新東京駅八重洲口構内3700㎡の借地権という莫大な不動産権益が「簿外資産」となっていたのである。
一般に「簿外資産」というと脱税によって蓄積した隠れ資産という印象が強い。しかしながら取得原価のない資産であれば、それはやはり貸借対照表には載らないため、「簿外資産」となるのである。
最初に佐々木からこの会社の話を聞いたとき、あまりのことに「そんなことがあり得るのか」と半信半疑であった。しかしもちろん佐々木の言うことに間違いはなかった。話を聞いたしばらく後に、この会社を調査して、その事実に相違がないことを確認するのである。
調査とは、まず八重洲口の不動産登記事項証明書を入手することだった。これにより、日本観光センターが八重洲口3700㎡の土地に借地権を保有していることが、疑いのない事実であることを確認する。
この八重洲口借地権が簿外資産であるがために、この会社の本当の資産価値は気づかれず、市場において割安に放置されていたのだった。