夢のツインタワー(24) 訴状
『
請求の趣旨
1 被告4名は、訴外株式会社日本観光センターに対し、連帯して金18億8311万5千円及びこれに対する本訴状送達の翌日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
請求の原因
1(当事者)
(1)原告藤堂弘士は6ヶ月前から引き続いて、訴外株式会社日本観光センター(以下、日本観光センター)という)の普通株式20万1千株(発行済株式総数の約1%)を所有する株主である。
原告佐々木毅は同じく16万1千株(発行済株式総数の約0.8%)を所有する株主である。
(2)被告佐藤守夫は昭和37年4月に訴外翡翠不動産株式会社(以下、「翡翠不動産」という)に入社し、平成11年6月に同社代表取締役副社長に就任した。日本観光センターには平成13年6月に取締役に就任し、15年6月から代表取締役社長を務めている。
被告河内博史は昭和43年4月に翡翠不動産に入社し、平成11年6月に同社の子会社である訴外翡翠不動産住宅販売株式会社常務取締役に就任した。平成15年6月に日本観光センター代表取締役専務取締役に就任し、現在に至っている。
被告江田雄一郎は昭和26年4月に翡翠不動産に入社し、昭和62年6月に同社代表取締役社長に就任、平成10年6月に同社代表取締役会長に就任し、現在も同職にある。平成10年6月から日本観光センター取締役を務める。
被告北川和夫は昭和48年4月に翡翠不動産に入社し、平成15年4月から同社関連事業本部関連事業部部長の職にある。平成15年6月から日本観光センター取締役を務める。
(3)日本観光センターは昭和26年3月、東京都千代田区丸の内1丁目8-3に資本金1億円を以って設立され、昭和29年10月から貸室・ホテルの営業を開始している。
現在は、東京都港区芝3丁目51番地で「セレスシティ・ホテル」を営業
するほか不動産賃貸業等を営んでいる。
本社事務所は東京都港区芝3丁目芝ASビルに所在する。
日本観光センターは、平成12年12月に翡翠不動産に日本観光センタービル敷地借地権の47%を205億円で売却している。
従って、同取引後の日本観光センターの同敷地に於ける借地権保有割合は53%であった。当該地はJR新東京駅八重洲口に面した、所謂超一等地と呼ばれる場所に所在する。
(4)日本観光センターの筆頭株主は、発行済株式総数の38.52%を所有する翡翠不動産である。
また現在、日本観光センターの代表取締役2名の両方は翡翠不動産出身者であり、同じく取締役9名のうち4名が翡翠不動産の出身者及び在任者であり、さらに、監査役3名のうち2名が翡翠不動産の出身者及び在任者である。
日本観光センターにおける翡翠不動産の影響力の大きさは、出資関係、役員構成から明らかである。
2 被告らの任務違背
(1) 上記3で述べたように、平成12年12月、日本観光センターは翡翠不動産に東京都千代田区丸の内1丁目、同中央区八重洲1丁目に所在する日本観光センタービル借地権の47%を205億円で売却している。
原告は平成15年12月、不動産鑑定士に評価意見を求めたところ、当該借地権について204億円という評価意見を受けている。
上記取引は同評価意見とほぼ一致する価額であり、当該取引が公正であったことが認められる。
(2) ところが昨年7月30日には、日本観光センターが所有していた同場所借地権53%の内28.17%を、翡翠不動産に108億2700万円で売却するとの決定が発表され、同年8月31日付で契約が締結された。
これは、平成12年の取引価額単価を約11.9%も下回る不当な価額である。平成12年に於いて、同場所の路線価は1㎡当り8,710千円であった。昨年に於いては、同場所の路線価は同9,010千円であり、約3.44%の上昇が確認できる。
平成12年の取引価額に、この路線価の上昇率である約3.44%を考慮すれば、当該借地権の公正な価額は127億1011万5千円であると算定され、被告らは日本観光センターの貴重な資産である当該借地権を18億8311万5千円も不当に低い価額で売却してしまったことは明白である。(別紙1)
逆に翡翠不動産は、新東京駅八重洲口前という超一等地の借地権を18億8311万5千円も安く入手できたことになる。
(3) そもそも当該借地権取引は、その目的が不明である。日本観光センターは資金繰りに窮している訳ではなく、路線価(相場)が上昇しているというのに、同じ当事者間で同じ場所の借地権を1割以上も低い価額で売却しなくてはならないような理由は存在しない。
昨年7月30日付の発表では、「固定資産譲渡の理由」として「今般、平成12年9月の翡翠不動産株式会社との共同事業合意に基づき、『新東京駅八重洲口周辺共同開発事業』に同社と一体で参画するとともに、同社へ当社敷地の借地権の一部を譲渡し、同事業により開発される土地建物の一部を同社より取得いたします。」と記されている。八重洲再開発事業に「同社と一体で参画する」というのは、平成12年に決定済みであり、今回の取引が必要になる理由にはなり得ない。そして「同社へ当社敷地の借地権の一部を譲渡し、同事業により開発される土地建物の一部を同社より取得いたします。」という部分は今回の取引の概要であって、理由の説明にはなっていない。
つまり当該借地権取引においては、翡翠不動産への不当利益供与こそが、その真の目的とするところであり、日本観光センターとして取引の理由を説明できようのないことが明白になっている。
(4) 当該借地権取引は昨年8月31日に締結され、引渡しは平成19年に行われる事が公表されている。しかしながら3年先の引渡しのために、昨年8月に契約を結んだ理由も説明されていない。仮に何らかの理由で契約する必要があるとしても、取引価額については、引渡しの数ヶ月前の時点での適正な価額を用いることが妥当である。
都心の超一等地の地価は明らかに上昇傾向にあり、平成19年には現在よりも更に地価が上昇していることが容易に想定できる。3年先の引渡しのためにわざわざ慌ててこのような契約を結んだ事実からも、翡翠不動産への不当利益供与こそが、当該取引の真の目的であることが明らかになっている。
(5) 以上の通り、翡翠不動産出身、在籍の日本観光センター取締役が、商法254条ノ3に定められた忠実義務及び善管注意義務に違背し、翡翠不動産に不当な利益を供与したことは明白であり、被告らは、日本観光センターに対し、18億8311万5千円の損害賠償責任を負っている。
3 本訴提起の経緯
原告株主2名は、昨年8月9日付で同内容の株主代表訴訟を提起している(平成16年第17030号損害賠償(株主代表訴訟)請求事件、甲第15号証)。これは、被告らに対し賠償を請求するよりも、不当取引を取り止めさせることを目的としたものであった。しかしながら、昨年8月31日付けで同契約が締結されてしまったため、原告らは、同年10月6日に同訴訟を取下げた。
原告らは、平成16年10月1日付書面により、日本観光センターに対して、被告らの同社に対する取締役としての責任を、会社として追求するように請求した。同書面は、同年10月2日に日本観光センターに到達している。なお、同年10月8日には、先に提起した株主代表訴訟を取下げた事実も通知している。
その後60日以上が経過しているが、日本観光センターから被告らに対して損害賠償請求の訴訟は提起されていない。
4 結論
よって、原告2名は、商法267条に基づく株主の代表訴訟として、被告らに対して、日本観光センターに、損害賠償金として金18億8311万5千円及び、これに対する訴状到達の翌日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求めて本訴に及ぶものである。
なお、日本観光センター定款には商法266条に規定された、取締役会の決議を以って賠償責任を軽減する定めはない。
別紙
日本観光センタービル敷地借地権適正価格算定式
20,500,000千円 ÷ 0.47 × 0.2817 × (9,010千円÷ 8,710千円) = 12,710,115千円
(平成12年取引価額から全体価値を算定し、本件取引割合に路線価上昇率を乗じた。)
損害賠償額
12,710,115千円 ― 10,827,000千円 = 1,883,115千円 』




