夢のツインタワー(23) 再提訴
再提訴
年が明けた。2005年1月、週間東亜経済の新年第1号は、翡翠不動産と観光センターの疑惑を大々的に報じた。
結果的にはこの記事が、観光センターの莫大な簿外資産の存在を広く知らしめることになり、後に「大株主」が登場するきっかけとなるである。
一般的な投資家であれば、この記事によって観光センターの資産に気づかされたとしても、翡翠との複雑な関係を考えれば、観光センター株式に投資することには、逡巡を覚えるだろう。だが、後の「大株主」には、そのような逡巡はあり得ない。
年末には、監査役への提訴請求から60日が経過していたため、いつでも提訴できる状況になっていた。
私は、改めて伊阪弁護士に対しメールで質問を送った。訴訟代理を依頼することは可能かどうか、受けてもらえる場合、着手金その他費用はいかほど必要かということである。
伊阪弁護士からの回答は、着手金500万円、その他鑑定費用等は実費で請求する、とのことだった。
翡翠不動産代表取締役会長や元副社長を被告とするわけだから、相手方は商事法務に精通した大手法律事務所の弁護士を依頼してくるだろう。手ごわい相手にベストを尽くすには、一人では困難であり、知人の弁護士と共同で引き受けなければならないとのことだった。着手金は、その2名分であった。
伊阪弁護士は、不動産鑑定が必要になるケースを特に心配していた。不動産の価額が適正か否かを争う裁判ならば、不動産鑑定士による評価が立証に必要となるのではないか。100億を超えるような物件では、その鑑定費用だけで、大変なことになるのではないか、ということだった。
株主代表訴訟の場合、原告が勝訴しても、原告には1円も入ってくることはない。原告が勝訴するということは、会社が役員らによって損害を受けた事実を認められたということであり、賠償金を受取るのも会社である。
原告が代理人弁護士を依頼した場合、弁護士の報酬と訴訟の遂行に必要とした経費は、会社が受取る賠償金から支払われる。しかし原告が敗訴した場合には、これら費用はすべて原告の負担となり、1円も補償されることはない。
私は佐々木と相談した上で、結局弁護士を依頼せず、本人訴訟で闘い抜くことを決めた。敗訴して、費用持ち出しになる場合は仕方ないとしても、訴訟が中止させられるリスクを考えたからである。
翡翠不動産には、いざとなれば自社の会長である江田や元副社長である佐藤らを、代表訴訟から守る「裏技」があった。私も佐々木も、その「裏技」が行使されるリスクは承知していた。
もちろん、だからと言って、代表訴訟を躊躇うことはない。不当な搾取を許す気は微塵もない。
伊阪弁護士は信頼に足る人物ではあったが、訴訟の遂行において、一切の見解の相違が生じないとは限らない。どうせ提訴するなら、自分の思うところを忌憚なく主張してみたいという思いもあった。
私は佐々木と提訴のタイミングについて、打ち合わせていた。
提訴時に記者会見すれば、翡翠と観光センターの不透明な関係を世間に広く知らしめる効果があると考えていた。記者会見場所は、東京地裁の記者クラブか、東京証券取引所の中の記者クラブである「兜倶楽部」の会見場がいいだろうとのことだった。
1月中は、3月決算企業の第3四半期決算発表が多いため、少し時期をずらして、2月初旬に東京地裁に訴状を提出し、その直後に兜倶楽部で記者会見して発表しようと段取りは決まった。
兜倶楽部は、報道各社が幹事役を持ち回りで担当していた。我々は幹事担当の新聞社に連絡を取り、記者会見場を予約した。
訴状の作成は、前年に一度作成しているので、今度は楽だった。もちろん文書を入念にチェックし、推敲を重ねたことは当然である。
2月7日、午前10時に東京地裁に以下のような訴状を提出し、受理された。




