夢のツインタワー(21) 帳簿閲覧④
池野が言った。
「誠に申し訳ありません。やはり帳簿の一部が抜けておりました。」
よくぞヌケヌケと言えるものだ。
佐々木が言った。
「だから何度も言ってるじゃないですか、あなた方、我々に肝心な部分を隠すつもりだったんだろ。」
「いえいえ、そんなつもりはございません。会計担当者のミスでございまして、お詫び申し上げます。」
池野の顔が卑しく、貧相に見えて仕方なかった。
今度は私が言った。
「それでどうしてくれるのですか。今から帳簿を出されても、もう時間がありませんよ。私は大阪から来てるのですよ。何時まで残業しろというつもりですか。帰れなくなったら、セレスシティ・ホテルの部屋でも用意してくれますか。」
池野は、さすがに引きつった表情をしている。
「おっとあかん、あかん、そんなことを言うたら、株主による会社への利益供与の強要になってしまうな。池野さん、今の言葉は取り消しておくよ。」
佐々木が、笑い声を上げる。
池野が言った。
「こちらの不手際ですので、今日は無料でコピーを進呈します。帳簿を改めてコピーしますので、今日はそれをお持ち帰りください。」
「じゃあ、そうさせてもらおうか。ところで念のため訊いとくけど、それぐらいなら、利益供与にはならんやろうな。まさかコピー代相当額が株主への利益供与ということになったら大変や。」
また佐々木が笑っている。
「もちろん利益供与などではございません。ただ今からコピーしますので、少々お待ち下さい。」
それからしばらく、応接室でコピーを待つことになった。
石井が、最初に我々の閲覧用に出した帳簿コピーを片付けながら、何やらぼやいている。
「あ~あ、さっさと最初から出せよ、まったく」と言っているようだった。
池野らが、インチキな帳簿を提出したために、我々からさんざん呼びつけられ、佐々木に怒鳴られ、何度も使い走りさせられた愚痴を言っているらしい。
「君も大変だったな」、私は本心でそう思って声をかけた。
「まったく、参りますよ。」
「あんなインチキな帳簿で、我々をごまかせると思ったのは誰やねん。」
「さあ、それはわかりませんよ。」
「社長直々の指図と違うのか。」
佐々木は笑うが、さすがに石井は黙っている。
池野が新しいコピーの束を抱え、応接室に戻ってきた。
「大変お待たせいたしました。こちらをお持ち帰り下さい。」
「これでまた、大事な部分が抜けていたら、大変やで。」
「とんでもございません。」
東京地検に告訴するとまで言ってある。今度はコピーがそのまま証拠になるわけで、いくらなんでもこの期に及んでデタラメはしないだろう。
帳簿の閲覧は、私よりも佐々木が興味を示していたので、彼に預け、分析を任せることにした。
これでもう用はない。くだらない言い争いで疲れたが、まあ成果はあった。
私と佐々木は観光センター本社事務所を後にして、JR田町駅方面に向った。




