夢のツインタワー(18) 帳簿閲覧①
帳簿閲覧
10月6日の初公判において提訴を取下げた我々は、その1週間後、予定通り監査役への提訴請求の文書を送付した。
提訴請求から60日を経過して、会社が提訴しない場合に、株主代表訴訟を提起できるわけだから、12月中旬には提訴可能になるということになる。
また、監査役への提訴請求と同時に、会計帳簿閲覧請求の文書も送付していた。
2回目の提訴においては、前回の提訴よりもさらに主張を確固たるものにしなくてはならない。そのため、私と佐々木は観光センターの帳簿閲覧を求めていた。
商法では、第293条ノ6において、3%の株式を保有する株主に会計帳簿及び会計に関連する資料の閲覧を認めている。私と佐々木、そして彼の親族を合わせた株式数は、全体の3%に達しており、連帯して請求することで帳簿閲覧は可能となっていた。
293条ノ6第2項では、閲覧を請求するには請求の理由を書いた書面を会社に提出しなくてはならないと定められているため、その手続を取ったわけである。
この帳簿閲覧を強く求めたのは、私よりも佐々木であったが、簡単には実現できなかった。
この帳簿閲覧を巡っては、株主と会社の間で、権利行使を認めるかどうかで争われるケースも多い。ちょうど、我々が請求する数ヶ月前に、それまでの判例よりも大幅に株主側の権利を認めた判決が出されていた。
非上場の有名化粧品会社において、株主が帳簿の閲覧を求めた件について訴訟で争われ、地裁では、帳簿閲覧請求の理由を裏付ける客観的事実が存在していることが必要として、株主の請求を棄却していた。
それが第二審では、事実が客観的に存在することを立証する必要まではない、と逆転していたのだった。この判決が出されたのは、わずか数ヶ月前だった。
画期的な判決というべきだった。例えば、会社の経営陣に背任などの違法行為の疑惑がある場合、株主はそれを調査するために帳簿閲覧するのである。疑惑ではダメで、事実として立証されていなければ帳簿閲覧をできないというなら、それは本末転倒というしかないのだが、これまでの判例ではそうなっていたのである。これまで裁判所が、いかに株主の権利を蔑ろにし、取締役を優位に配慮してきたか、象徴的な判例であった。
実はこの判例については、過去の親族との闘いにおいても、当時依頼していた弁護士からも聞いていた。帳簿閲覧をして、取締役の責任をさらに追及しようという私は、その手続きについて相談したのだが、弁護士からは、「それではダメなのです。帳簿閲覧を請求するには具体的な理由だけではなくて、それを裏付ける材料がいるのです。」と言われていた。
取締役の責任を追求する材料を得るために会計帳簿を閲覧したいのに、材料がなくてはダメだと言われて、必ずしも納得したわけではなかった。しかし、判例からすれば、その弁護士の説明はやはり正しく、おかしいとすれば、それは判例の方だったわけである。
その判例が改まっていた。帳簿閲覧の理由を具体的に書面で提出すればよくなったのである。
佐々木は、前々から観光センターの会計帳簿を閲覧したいと強く希望していた。私はその弁護士の発言から、心の中に疑問符を抱いていたのだが、判例が改まったことで、請求しやすくなったことを喜んでいた。
最初に請求したのは、8月下旬であった。これも法律書を参考に作成した書面を送付したのだが、会社側は「請求が具体的でない」として拒否してきた。そこでさらに具体的に、
「代表取締役佐藤守夫、同専務取締役河内博史、取締役江田雄一郎(翡翠不動産代表取締役会長)、取締役北川和夫(翡翠不動産取締役事業本部長)の4名に対する株主代表訴訟に関する調査のため、翡翠不動産との取引内容について会計帳簿を閲覧する」
として、行使を認めさせていた。
会社側と打ち合わせて決定した日時は、2004年11月30日、午前10時から午後5時までだった。
その日も、私は早朝の新幹線に乗り、東京都港区にある日本観光センターの本社事務所に向かった。本社事務所は、港区で同社が営業する芝セレスシティホテルの西側に所在するビルの5階に入居していた。
そこで、佐々木と芝セレスシティホテルのロビーで、午前9時50分に待ち合わせていた。