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夢のツインタワー(17) 週刊東亜経済

週間東亜経済


 公判の数日前に、観光センター取締役である被告たちの依頼を受けた代理人弁護士たちから、答弁書が送られてきていた。常盤門法律事務所の4名の弁護士によって構成されていた。

 答弁書の内容は、ほぼ予想通りであった。


要旨は、

1 原告側は監査役への請求を行っておらず手続に瑕疵がある、

2 「回復できないような損害が発生するおそれがある場合」とは、役員が財産を隠匿したり、無資力になったり、会社の債権が時効になってしまう場合などを意味するものであり、取引の中止を目的として提訴できるように意図されたものではない、

3 取引を中止させたかったなら272条によるべきである、

4 翡翠不動産との取引は適正である、などであった。


 初公判の10月6日、私と佐々木は揃って法廷に出席した。その場において、裁判官の勧めもあり、ひとまず提訴を取下げることにした。

 そして、改めて監査役への請求からやり直し、捲土重来を期すこととした。


 裁判所を後にした私と佐々木は昼食をとり、それから東亜経済新報社の本社ビルに向っていた。

 実は初公判のこの日、経済系報道機関として、最も著名な東亜経済に情報を提供する約束をしていた。第1回公判では、仮に提訴を取下げても、必ずやり直すつもりだったので、それを前提とした情報提供である。

 これは、佐々木の提案だった。彼は東亜経済新報社の記者に知人がいるということで、連絡を取ってもらうことにした。

 その日の午後2時から約1時間、東亜経済新報社の本社ビルで、担当記者と我々との会合が開かれた。

 応対してくれたのは、週間東亜経済編集部の山野雄一郎記者、岡山広行記者、堤公夫記者の三名であった。佐々木の知人が山野記者であり、岡山記者、堤記者はこのような経済スキャンダルの記事を担当するとのことだった。

 岡山記者・堤記者は、このような複雑な経済事犯に慣れているらしく、不動産取引を装った不当利益供与の構図をすぐに理解していた。

 実質的親会社が、子会社に自社の関係者を役員として送り込み、子会社との間で自社に有利な取引を繰り返す。それが100%子会社ならばともかく、上場企業である以上、他の株主の利益を侵害するものであり、許すことはできない。

 このような全体の構図を十分に把握した彼らは、個別取引の公正性(不動産の評価額など)を調査し、さらに公平を期すため観光センターの役員への取材をしたうえで記事にすると約束してくれた。

 我々から情報提供を受けたからといって、我々の味方をしてくれるわけではない。あくまでジャーナリズムとしての公正中立な立場で取材をして、記事にするということである。

 説明を終え、会議室を出てビルを後にしようとする我々を、岡山記者が出口まで見送ってくれた。ビルの階段を下りながら岡山記者が私に尋ねた。

 「先ほど訊き忘れましたけれど、弁護士は依頼しないのですか。」

 「候補はいるんですが、まだはっきりとは決めていないんですよ。記事にちょっと付け加えておいてもらえますか。『弁護士募集中、熱意のある人求む』って。」

 岡山記者の笑い声を背に、東亜経済ビルを後にした。

 私は佐々木に言った。

 「あの様子なら、きっと記事になるでしょうね。」

 「記者たち、かなり真剣に聴いていましたから。」

 「話がスムーズに通じる感じがしましたよ。」

 「だいたい、経済事件というのは、こういう複雑な構図の中に隠れるものでしょうからね。慣れているのでしょう。」

 「とにかく記事が楽しみになってきました。」

 この2ヵ月余り後、東亜経済の特集記事は発表されることになる。


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