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夢のツインタワー(13) 搾取

搾取


 2004年7月30日だった。午後4時ごろ、佐々木からの電話が鳴った。

「藤堂さん、ひどいことになりました。」

「どうしたのですか。」

「またやりましたよ、あいつら。」

「あいつらって、観光センターと翡翠のことですか。」

「そうです。さっき会社から発表がありました。」

「わかりました。私も内容を確認します。また後で連絡します。」

一旦、佐々木からの電話を切って、大急ぎでジャスダックのHPから観光センターのプレスリリースを検索し、開いてみた。

 両社による、新たな不動産取引の発表であった。取引内容のあまりの愚劣さに、怒りが沸騰した。



『 固定資産の譲渡及び譲受について  株式会社日本観光センター

  今般、当社は次のとおり、固定資産の譲渡及び譲受を決議しましたので、お知らせします。

1.固定資産の譲渡物件及び譲受物件

 ①譲渡資産 : 日本観光センタービル敷地借地権

           譲渡割合 借地権の28.17%

           譲渡金額 10,827百万円

   ②譲受資産 : 同場所に建築中の土地建物の24.28%

           譲受金額 10,827百万円           』


観光センターが保有する八重洲口借地権を翡翠に売却して、同じ金額で翡翠の保有する不動産を買入れるという取引の形態は、4年前の2000年の取引とまったく同じであった。

問題は、その取引の金額である。

2000年の取引価額は、3700㎡の借地権47%が205億円というものだった。1㎡当りにすれば、『205億円÷0.47÷3700=1178万8千円 』となる。一方、今回の取引価額は、『10,827百万円÷0.2817÷3700=1038万8千円』である。前回の取引に比べ、実に11.9%も低い価額で取引することになっている。

 この間、2000年から2004年まで、この日本観光センタービル前の路線価は8,710千円/㎡から9,010千円/㎡に上昇している。上昇率は3.44%である。

 2000年の取引単価に、この路線価上昇率を考慮した適正取引価額は、127億1011万5千円である。実に18億8千万円も割安で叩き売るということになる。

 特に2004年の年頭からは、「脱デフレ」という言葉が使われ始め、東京都心部の一等地から、まず地価相場が上昇し始めたというのは、新聞の経済面や経済誌などでもよく報じられていることである。

 地価上昇が顕著になっている都心の超一等地の借地権を、わざわざ4年前より1割以上も低い評価で叩き売らねばならない理由などあるわけがない。

 このプレスリリースでは、取引の理由として、以下のように発表されていた。


『 固定資産譲渡の理由

今般、平成12年9月の翡翠不動産株式会社との共同事業合意に基づき、「新東京駅八重洲口周辺共同開発事業」に同社と一体で参画するとともに、同社へ当社敷地の借地権の一部を譲渡し、同事業により開発される土地建物の一部を同社より取得いたします。』


 新東京駅八重洲口の再開発計画はすでに決定しており、翡翠不動産と一体で参画するということは、2000年に借地権を譲渡した時点で決定している。それが「共同事業合意」である。

 2000年の取引理由が「共同事業として連携を強化するため」というものだった。

 その取引によって、翡翠不動産はすでに同場所の借地権47%と底地の権利を保有しているのである。今さら「一体で参画するため」というのは、取引目的の説明になっていないことは明らかだった。

 要するに、前回取引から4年が経過して、資産潤沢なる子会社に親会社が、またたかりたくなったから、というだけのものである。

 前回、2000年の取引で翡翠不動産は、含み損を抱えた芝の土地を法外な高値で観光センターに買わせたため、八重洲の借地権は妥当な時価で買取っていた。今回は、法外な高値で買わせる土地がないため、八重洲の借地権を不当に安い価格で買うということだろう。

 親会社の100%子会社ならともかく、子会社とて上場企業であり、一般株主も数多く存在するのである。親会社への不当利益供与など許されるはずもない。こんな取引は絶対に容認することはできない。


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