プロローグ
「株を買うなら、バカでも経営できる会社を探しなさい。
いずれ、そういう人間が経営者になるのだから」
― ウォーレン・バフェット
プロローグ
JR関東株式会社、新東京駅。
言わずと知れた首都の玄関口であり、東海道・北陸・東北新幹線の起点であり、日本有数の乗降客が行き交う巨大ターミナルである。
ほぼ南北に連なる路線に沿って位置するこの巨大駅は、必然的に出入り口が東と西を向くことになる。西側の出入り口は、丸の内に面するため丸の内口と呼ばれ、東側出入り口は八重洲口と呼ばれる。
現在、この八重洲口では地上43階建て、高さ210mにもなる2棟の超高層ビルの建設工事が進んでいる。南北に連なる線路と駅に沿って建設されるため、建設工事の段階では、それぞれ北棟、南棟と呼ばれている。
北棟と南棟は、完成後には大屋根を備えた空中通路で結ばれる。
テナントとしては、デパートをはじめとした商業施設が入居し、さらに抜群の立地条件を活かした高機能のオフィスビルとして、超一流企業の入居が予定されている。
まさに首都の玄関口に相応しい夢のツインタワーである。
この北棟建設地の権益を巡って、ただの個人投資家に過ぎない私が、投資仲間である佐々木毅と二人で、国内最大手の不動産会社である翡翠不動産に対して、ドン・キホーテのような無謀な戦いを挑んだことなど、もはや誰の記憶からも消えようとしている。
そもそもごく一部のマスコミで報じられただけの騒ぎであり、当初から知る人は少なかった。
完成する巨大ツインタワーの威容の前には、取るに足りない些細な出来事であるが、今一度、私はあの戦いを振り返ってみたい。
ツインタワーは、今後数十年間にわたって、あるいは世紀を超えて、その威容を誇示し続けるであろう。
その陰に、孤独な戦いを挑んだ二人の男がいたことを記しておきたいのである。




