8.爺 決意する
王家の秘宝が盗まれて、側室候補にと来た正体不明の女の子の行方が分からなくなってから。
2年が経ちました。
今、私たちの国は、隣の国との戦争に突入しています。
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私たちの国が、小国ながらも長く平穏に続いているのは、周りの国と、バランスの良い状態に長くあったからです。
どこの国も同じ程度。突出して力が強かったり弱かったりする国がない。だから戦争にもなっておりませんでした。
それが、私たちの国の隣の国が、突然力を持ってしまったのです。
力のバランスが崩れた理由は、隣の国が、突然豊かになったからでございます。
隣の国は領土は広いのですが、砂漠が多く、緑が少ない国でございました。
その領土に、突然、水が湧き、緑が溢れたのです。その国は潤いました。潤い、急に力をつけ、武力を育てたのです。
我が国は侵略を受けています。その国と接している領土は、メドオール家の土地でした。
そこで今、戦いが起こっています。
メドオール家ご当主から国へ救援要請が届いています。
王子は、戦争の知らせが入った時、無言でした。
国の秘宝『憩いの水球』が失われてから、私たちは調査をしました。けれど、問い詰めても、結局メドオール家は、私たちに正直に答える事がなかったのです。ご当主夫妻は本当にご存じない様子には思えました。
ずっとうまく逃れつづけたのは、今は15歳となられたリューエア様。感心するほどの聡明さです。
そして、こんな結果を招いた。
隣の国で、『憩いの水球』が使われた。
そして、メドオール家は、自分たちの中では、解決できなかった。
私たちに、国に、助けを求める事になった。
メドオール家の災難は、私たちの国の災難です。
私たちは、取り戻すために戦います。
国同士のバランスを。そして、『憩いの水球』を。
私は王子に申し上げました。
「私も、共に参ります」
王子は、要請をうけて、国として、兵を率いて戦いに行かれるのです。
「ムソンルージ。あなたはダメです。そもそも体も鍛えておられないでしょう。戦地など不向きです。戦地に執事は不要です。あなたはここにいてください」
「いえ、エルファンド王子。私も、参ります」
「いいえ、ダメです。許可しません」
「いいえ。私は同行いたします」
「どうして!」
王子は叫ぶようにお怒りになりました。
私はお答えしました。
「私が行きたがる理由は、お分かりのはずです、エルファンド王子。私はただ、自分のために行きたいと願うのです。ただお会いしてみたい人がいるのです。どうぞお許しください」
噂が届いているのです。
戦地、すでに兵の指揮をとっておられるメドオール家のリューエア様。そのリューエア様のお傍に、まるで女神様のような人がいると。
金色に輝く大鎌を持った、長い黒髪の勇ましくも凛々しい若い女性。
王子も思われませんでしたか?
リューエア様の隣に、特異な女性。もしや万が一にも、それはカエデ様では、と。
冷静に考えれば、違う可能性の方が高いのでしょう、けれど。
私は絶対、行きますよ。
王子はもうカエデ様の事はお諦めで、整理されたご様子ですけれど。
でも、お相手選定のお話を出すと口を利いてくださらないぐらい、不機嫌になられるではないですか。
皇后様とは、ついには何度も口ゲンカまでなさった。
まだきちんと思い出になっていないでしょう。ずっと引っかかっておいででしょう。
王子はまだ、心の中で、カエデ様に手を伸ばしておいででしょう。もしかしてと、思っておいででしょう。
王子はロマンチストですからなぁ。
王子、けれど。
私がついて行きたいと思うのは、ただ、私が、お会いしたいからだけなのです。
私のためにでございます。
悩みを話さずに一人去られたことを、お叱りしたい。そして、無事であると知りたい。
違う方かもしれない。ならそう分かるだけで満足です。
万が一にもカエデ様ならば、会えるのならば。
私は申し上げました。
「エルファンド王子。もし王子が許可を下さらなくても、私は今回、私の意志を通しますよ」
「・・・・。勝手にしてください」
王子は眉をしかめて仰いました。
「はい」
さぁ、準備をしなくては。
私は、カエデ様かもしれない方に会いに行きます。




