24.回復
側室発表の日は過ぎて。
私、ムソンルージは、それからまた5日間ほど寝込んでしまいました。
やはり年をとりますと回復がなかなかですなぁ。
ちなみに、主治医に酷く怒られました。そう言われましても、あの場に出る事ができていなければ私はきっと深く自分を悔やんでいた事でしょう。許していただきたいです。
寝込んでいる間、私が、「これで心置きなくミリデテイア様に会いに行ける」と思ったからでしょう、何度も奥方様の夢を見ました。私たちはとても楽しく笑って過ごした覚えがございます。
そして私はすっかり回復いたしました。
いえ、良いのですが。
そのままお迎えに来ていただけるかとちょっと期待などしておりました。なんだか複雑な残念な…。
いえ良いのですよ。
『まだお仕事があるでしょあなたには!』などと、あの方なら仰りそうです。
***
「ムソンルージ! 元気になって良かった!」
「セバ・・・じゃなかった、ムソンルージっちゃん! 良かったぁ、風邪治ったね!」
エルファンド王子とカエデ様が、一応まだベッドにて静養中の身の私のお見舞いに来てくださいました。
「いえ、本当にご心配とご迷惑をおかけしてしまいました。もう出歩いて大丈夫なほどに回復しておりますよ」
王子とカエデ様は、とても仲良さそうに寄り添っておいでです。
私はその様子を目を細めて微笑ましく見てしまいます。
良かったですなぁ。
私の看病に時折来てくれるエルザやメイドたちの報告と言うか世間話で、王子とカエデ様のご様子もそれなりにすでに聞いております。
私は倒れておりましたが、あの発表をもって、王子とカエデ様はご夫婦として過ごされるようになったそうです。
国を挙げての祝いやパーティなどはしておりませんが、陛下と皇后さまと王子とカエデ様でちょっと豪華にお食事を取られたそうです。
王家の祈りの間にて、建国の女神さまへ側室を迎えた旨の報告の儀式も済ませられたそうです。儀式には、参加のためにわざわざ残って下さった他国の方々、王家に関わる者たち、そしてリューエア様とユリ様も立ち会われたそうです。老王は、私が倒れているので私の代わりだと言って参加してくださったそうです。有難い事です。
国の民も、温かく見守ってくれているようだ、という話です。
エルザたち曰く、「ムソンルージ様にキスしたのが良かったですね」と。
ははは。
私は、貴族では無い、一般の身分から王家に迎え入れられた身です。
私はその事で多くの民から応援や支持を受けました。今もそのように慕ってくれていると感じます。
その私がカエデ様のお人柄を保証し、今後を頼んだ。
そして、カエデ様は、私が王家の者だと知らず私を慕ってくれていた。皆の目の前で、計算もなく喜びのままにキスをした。顔をぐしゃぐしゃに崩したような笑顔を見せられた。
エルザに言わせると、『庶民の代表である』この私に、カエデ様が純粋な子どものような好意をお示しになった。
皆が目にする事のできたカエデ様の行動が、表情が。
そして、いつも品よく笑っている王子の、照れて崩れた様子や挙動不審な様子が。
皆を打ち解けさせた。
見守ってやってもいい、と思った。
あぁ。本当に、ようございました…。
「カエデ様、暮らしにご不便なことはございませんか?」
私はお尋ねします。
「うーん、不便といえば…」
「なにかあるのかカエデ! なら、まず私に言ってほしい!」
カエデ様が何か思い出すようにされるのを、王子が驚いて訴えられます。
ははは。そう言われればそうかもしれませんな。
爺のシャシャリでるところでもありませんな。
「王子は頼りになっておりますかな、カエデ様」
と私は質問を変えてみました。
「うーんと、案外、頼りにならないかも…」
「えっ、そうなのか!?」
「うん、エルフ、まさか虫が苦手とは思わなかったよ」
「…でも頑張って採ってるだろう…」
・・・どういう状況の話でしょうか。まぁ深く尋ねないでおきましょう。
しかし祝いたいだけですのに、なぜか締りのない会話になりますなぁ。
「・・・カエデ様、けれどお幸せそうですな」
と私はちょっと王子のために尋ねてみました。
「うん」
カエデ様は笑われました。王子の腕を取り、手を取って指を絡められます。
握られた手に、王子も表情を緩めてカエデ様をご覧になり、二人で顔を合わせて微笑まれました。
あぁ、良かったです、うんうん。
「エルファンド王子。カエデ様。本当におめでとうございます」
私は心から申し上げました。
「ありがとう、ムソンルージ。あなたのお陰です。どうぞこれからも私たちを見守って、さまざまに教え支えていただきたい。そのためにもどうぞ無理はなさらないで、どうぞ長生きしてください」
と王子が柔らかな雰囲気と共に、真っ直ぐに請うように、言ってくださります。
おぉ、なんだか、爺は生きている甲斐がございますなぁ…。
長生きはするものですなぁ…。
「セバ・・・じゃない、ムソンルージっちゃん! あのね、私、じぃちゃんっていなかったの、だから本当に嬉しいの、大好き、これからたくさん遊ぼうね!」
とカエデ様。
握った王子の手をブンブン振りつつ、にこにこ笑って私をお誘いくださいます。
ははは。そうですなぁ、楽しそうですなぁ。
王子が苦笑なさいます。
「前から思っていたけれど、カエデは、祖父という存在に随分夢とあこがれを持っているね」
「えぇ? エルフ、ムソンルージっちゃんって、かなり憧れじぃちゃんポイント高いんだよ、すごいんだよ、分かってないからだよ」
カエデ様は子どものように口を尖らせてお答えになりました。
王子は仕方なさそうに笑っておられます。
しかし王子、聞きましたよ、メイドたちに。
発表のあの時、カエデ様が皆の前で、爺にだけキスしたので実は拗ねておられるらしいのです。
今もちょっと妬いておられませんか?
ははは。
私は爺として、孫を可愛がらせていただきますよ、精進なさい、王子。
お二人は私の傍で仲の良いご様子をいろいろ見せてくださったあと、私の体を気遣って退出していかれました。
退出時、カエデ様は、にっかり笑って、大きくブンブンと手を振ってくださいました。
そのご様子に楽しくなりながら、一方で思い出します。
今のご様子も爺としては大変楽しくて良いのですが、カエデ様は王家の、未来の王の妻となった方です。
身に着けるべき事柄…礼儀や歴史がたくさんあります。
これから、色々お教えする事がございますなぁ。
まぁ、それもきっと楽しい事でしょう。
***
リューエア様とユリ様の事です。
このお二人は、主に私の主治医から、ものすごく叱られて数日間外出禁止の刑が出たらしいです。
大変申し訳ない事ですな。
なお、エルザたちの行動は、リューエアとユリ様が強く命じたという事になっており、エルザたちにはおとがめが出なかったそうです。この点だけでも、お二人が配慮くださったのだと感じられます。
ぜひお礼を直接申し上げねば…と思います。
事前に老王が私に話していた通り、リューエア様は、ユリ様のお体を心配して、様々に技術を調べておられ、それこそ戦地からユリ様を補助できる技術は少しずつ使われていたそうです。
それを、あの日、発表の様子を別の場所から見ていたお二人が、私を急いで呼びに動き…どうやらユリ様が強くそのように求められたのでリューエア様も応えて動かれたようですが…リューエア様が私に、ユリ様のために色々持っていた知識を使って、私の体を一時的に楽にしてくださったそうです。
リューエア様もちょっと無理をなさったらしく、外出禁止になった数日間で体調を崩され、ユリ様が看病なさった、と、後でお聞きしました。
本当に申し訳ない事です。
そして、お二人のご助力を、私は心から感謝いたします。
あの時、お二人が無理やり私を起こし、連れて行ってくださって良かった。
あの時に国の民がカエデ様を受け入れてくれる事が、とても重要だったのですから。
***
さて。リューエア様が、そのような技術をも習得されていた理由は、ユリ様のお体が純粋に心配だったからです。
自分と協力しあったカエデ様の大切なご友人。共に戦地で戦うと言ってくれた人。
そのうちに、ユリ様が傍にいなくなる可能性が怖くなった。
お体のためにユリ様が元の世界に戻ってしまうのではと心配した。
そして、リューエア様はユリ様に訴えられたそうです。
あなたの健康管理も、心を尽くして、一生傍で見ますから、と。
まぁ他にも色々、ユリ様に告白めいた言葉を一生懸命言われたそうで、ユリ様もそれに心を動かされたようで、健康面もリューエア様にお任せすると決められたそうです。
カエデ様もユリ様も、それなりに、こちらにずっといてもいいように手配をしたうえで、こちらの世界に来たそうです。けれど、ユリ様の場合は、半信半疑、本当に別の世界に来れるとは分かっていなかった。思っていなかった。
カエデ様とユリ様は、同じ魔法で同時に、この世界に現れました。
リューエア様はそれを知ってすぐに、また魔法紙にその魔法を『再現魔法』を使って移されました。
1回の魔法。1枚の魔法紙。つまり、使えるのは1度きり。
カエデ様は、ユリ様にその紙を渡されました。もしユリ様が危険だったら自分を置いて帰って欲しいと頼まれたそうです。自分には責任があるからそれで構わないと。
ユリ様は、その紙を使ってしまうと、カエデ様に戻る手段がなくなると気づいておられました。
だからずっと使わず持っておられます。
そして、カエデ様は、もう元の世界に戻らない事を決意された。
ユリ様は、まだ手元に魔法紙を持ったまま。
カエデ様がここに残っておられるので、ユリ様もまだ残っておられるのです。
どう・・・されるのでしょうかなぁ。
お体は、リューエア様がいろいろ健康状態を気遣っておられて、問題はないそうです。
しかしあのお二人は・・・どうされるのでしょうかなぁ。




