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23.発表とスピーチ

「ムソンルージ様、立てますか? 謁見用バルコニーまで車いすでお運びしますからこちらに!」

エルザが勢いよく鋭い声で指示してきます。


「ムソンルージ様、ゆっくり声を出していただけますか?」

とリューエア様。


私はゆっくり声を出しました。

「あ、あ・・・話せますな・・・みなさん、一体・・・」


「良かった! お願い、ムソンっちゃん! 今カエデたちの発表してるんだ、でもなんか皆ザワザワしてる、カエデの事よく思われてない、ムソンっちゃん、紹介してくれるよね、ちゃんとカエデの事!!」

と必死な形相のユリ様。

「カエデが良いやつだって、皆に言って! どんなに頑張ったか、カエデがどんなに一生懸命に皆のために動いてくれたか、どんな子かって、言って欲しい!」


「・・・今、カエデ様の発表・・・?」

今は何日でしょう・・・? まだ頭がぼうっとします。


「ムソンルージ様! お願いします、車いすに運びますよ、セドナ、アイファーレ、来て、お抱えするわよ、はいっ!」

「うっ」

私は迅速に行動するエルザと二人のメイドによって抱えられ、車いすに乗せられます。


「ムソンルージ様!」

車いすに乗った私に覆いかぶさるようにして、エルザが私と目を合わせてまいりました。

「正念場です、エルファンド王子のため、カエデ様のため、ムソンルージ様のお力を発揮してくださいませ! スピーチを頼まれていたのでしょう!? 今その時です!」


エルザの肩の上、部屋に飾っている奥方様の肖像画が見えました。

彼女は普段通りに勝気な目で私を見つめていました。


「行きますよ、ムソンルージ様! 振り落されないでくださいませ!」


まだはっきりしない視界で、肖像画のミリデテイア様が笑われたような気がいたしました。


〝いってらっしゃい、私たちの孫のために”


***


車いすで恐ろしいスピードで運ばれます。

転びそうなぐらいなのに、なぜだかどんどん体が軽くなってまいりました。

車いすと並走してリューエア様がしきりに何かブツブツと呟き、時折私の頭に手を当てたり胸元に手を当てたりなさいます。


ユリ様も走ってついてこられて、後ろから、状況を訴えてこられます。

「戦争の事とか会議の発表は終わったの! それで王様がエルファンド王子の側室の発表をした! カエデを紹介した! でも空気が超悪いの!」


ガラガラガラガラ・・・


「皆まだバルコニーに出たまんま、様子を落ち着かせようとしてる! ムソンっちゃん!」

「立てますか? 支えを、エルザさんすみません私たちは出ていけない、支えを…」

「いきますよ、ムソンルージ様!」


ワァっと視界が広がりました。

青く澄んだ空、流れる穏やかな雲、そして私の家族の背中、息子に義娘に、孫に、孫のお嫁さん、そのすぐ前にバルコニーの手すり、ざわめいた空気、たくさんの人々のいる気配、私たちの国の皆。


私の到着に息子たちが驚いて振り返ります。


私は微笑みます。

嘘のように体が楽ですな。

「エルザ、大丈夫です、下がっていなさい」

ここは本来エルザが立ち入って良い場所では無い、立ち入ってしまうと後で問題として咎められてしまいます。

「見送りありがとう」


エルザは少しためらった後に私の指示に従いスッと身を引いて下がっていきます。


私は歩きます。歩くことが出来ます。不思議ですな。少し動かしづらいけれど、進むことができます。

歩むにつれて、バルコニーの向こうに大衆が押し寄せているのが見えてまいります。

それからバルコニーの両側広がって、残って下さっている他国の方々のお姿も見えます。


息子たちが私の登場に気づき、振り返っています。少し驚いた顔をしています。

上空に何か動きが感じられて少しだけ上を見ます。

あぁ、発表時によく使用する、映像拡大技術を今使っているのですな。

バルコニーの様子を、一部切り取って、大きくして皆によく見えるようにしているのです。


上をチラとみてしまったせいで、眩暈がしました。

おっと、やはり不調であることを自覚しなければなりません。

早く私の仕事をすること。無駄な時間はありません。


おっと


「セバッちゃん!!」

あっという間に体を支えられておりました。おや?

「大丈夫? 寝てなくていいの!?」

カエデ様ですな。

おや? 支えられているという事は…おっと視界が少し低い位置になっております。ちょっと倒れかけてしまったようです。いけませんな、思うよりやはり体は動かしづらい状態のようです。調子に乗ってはいけませんな。


カエデ様が私を支えて立たせようとしてくださいますが、カエデ様の力ではちょっと難しいようです。

「セバっちゃん、大丈夫だから、安心して寝てていいよ!」

カエデ様は酷く心配して泣きそうにそう仰いました。


おっと


「ムソン」


ぐっと私の体が支えられました。視界も通常の位置に戻ります。

「大丈夫ですか。寝ていなくても大丈夫なのですか」

「王子」

「セバっちゃんすごい汗かいてるよ、早くベッドに戻んなきゃ!」

「ムソン」

王子が私をじっと見てこられました。

「ムソン、いけますか」

「大丈夫でございますよ」

と私は王子に申し上げました。


王子はうなずき、私の体を支えながら、バルコニーの手すりへと連れて行ってくださいます。

カエデ様は心配そうに私と王子をチラチラ伺いながら、王子と私に合わせて、王子とは逆側から私を支えてくださりました。


バルコニーにいる皆が、私を見守っているのを感じます。

手すりの傍にいき、民の様子を目にします。


決して祝いの空気では無い。

それでいて、私の登場に、私が何を言うのか注目している。


カエデ様のためのスピーチ。

あぁ、あんなに毎晩考えましたのに、思い出せませんな。

あんなに長文を工夫して考えて、あんなに頑張って覚えましたのになぁ。


私の額に背中に足に、汗がにじんでいます。


今私がつむげる言葉を口にしましょう。


私たちを支えてくれている、皆に向かって。


***


「皆さん。いつも私たちを支えてくださっているみなさん。

 私たちの孫のエルファンドに、とてもお慕いする方ができました。ずっと悩んでいるのを傍で見ておりました。結構ツライ思いをしていたようです」


私の言葉に、左で支えていたエルファンド王子の顔がカァッと気まずそうに赤く染まりました。ははは。


「王子がずっと好きだったのがこちらのカエデ様です。とても元気で、それでいてとてもお優しい方です。私は私の大切な奥方様のミリデテイア様を思い出すことがあります」


隣のカエデ様が、キョトンとなさっておいでです。

「…孫? ミリデテイア様… って…」

と目をパチクリして呟いておいでです。


「皆さん。ご存じのとおり、私、ムソンルージは、うっかり風邪をひいてしまいまして…このざまです。それでもぜひ皆様にお願いしたい。皆さま、エルファンドとカエデ様を、どうか祝福していただきたい。見守っていただきたい。私の余命が尽きても、皆さまが二人を支えていっていただきたい」

私は目の前に広がる民の皆々を見つめます。


「貴族でない私を女王ミリデテイア様の夫として下さった時。後ろ盾などない私を、みなが、後ろ盾となってくださった。あなたがたがいてくださったから、私はあの方と、心からお慕いする方と一緒になり、やっていけた」

私は思い出します。

私が選ばれたことを、貴族の反対以上に、喜び応援し、力をくださったこの国の民を。

何かがあった時、この国の民は私の一番の味方となりました。

彼らはいつも私を励まし、支えてくれました。言葉で行動で表して、私に親愛の情を向けてくれました。


「どうぞお願いいたします。カエデ様もまた、後ろ盾のない方なのです。この方の心根の良さは、私が保証いたします。とても真っ直ぐな方なのです。とても勇敢です。とても情け深い方です。その結果様々に行動して巻き起こってしまった事は不幸です。けれど決して悪人ではありません。彼女はどれだけ涙を落としたか。ハンカチなどで吸いきれない。傍にいた私は保証します。とても良い子です。だからエルファンドも悩みながらカエデ様を諦める事ができなかった」


皆がただただ私の話を聞いていてくれるのを感じます。


「カエデ様もずっと悩んでおられたようです。ずっと王子を好きでいてくださったようです。やっと先日、両方が好き合っているのに、悩んでしまっていたお二人が、やっとカエデ様が告白されることで想いを通わすことがおできになりました」


皆の雰囲気がふわと動きます。場の雰囲気が柔らかくなってきていると感じます。

私は調子に乗って暴露します。

「王子はカエデ様の告白に真っ赤になって動揺して嬉しくて泣きそうになっておられました」


どよっと、バルコニーの下の皆が笑います。

「・・・ムソンルージ!」

隣で私を支えてくださっている王子が、顔を真っ赤に、私を窘める小声をお出しになりました。

ははは。申し訳ありませんな、口がすべっておるのでございます。


「王子が照れて真っ赤だよ!」と皆の中から声が聞こえました。

このバルコニーの様子は、拡大した映像でも皆に見せていますからな。ちなみに国全土のポイントポイントで同時に流しているものです。国で皆が見ておりますなぁ。


「皆さま」

私は改めて皆に呼びかけました。

「どうぞ、エルファンドとカエデ様の事を、どうぞよろしくお願い申し上げます。私、ムソンルージの、心からのお願いでございます」

私は、ゆらりと揺れる視界に少し無理をして、皆に向かって頭を下げました。


両側の王子とカエデ様も頭を下げられます。



少し静かな時間があってから。

「分かった!」

「ムソンルージ様ー!」

「おめでとうございます!」

「任せて!」

「めでたい!」

などなど


目の前の民から、様々な祝いと応援の声が沸き上がりました。


私が頭を上げて見渡す空気は、祝いの声に包まれておりました。


良かった、これで、安心できる。


「ムソンルージ、ありがとうございます。お爺様!」

王子が、頬をいまだに赤くしたままで、潤ませた目で私にお礼を言ってこられました。


「あの、あの・・・あのさ」

カエデ様が、落ち着かない様子でおられます。


私と王子がカエデ様に目をやります。


「あのさ」

カエデ様は、パチパチと大きく瞬きを繰り返して、仰いました。

「あの、えと、セバっちゃんとエルフは、おじいちゃんと孫なの?」


「・・・知らなかったのか、カエデ」

と王子が少し驚いて答えられます。

「ムソンルージは、執事だけれど、私の祖父だよ」


「うええ!」

カエデ様は驚かれます。

大丈夫ですかな、その表情。今、この様子も全て拡大映像で国中に流れているはずなのですが。

私は少し心配しながら、カエデ様に向かって微笑みを見せました。


「・・・じゃあ・・・」

カエデ様は、私の体を支えながら、どんどんお顔を明るくされます。

「じゃあ、エルフと結婚したら、私、セバっちゃんの孫になるんだ! じいちゃんがセバっちゃんになるんだ!」

「そうだね」と穏やかに王子。

私もそうですな、とほほ笑みます。そうです、カエデ様は、本当に私の孫になってくださるのですなぁ。


「嬉しい! セバっちゃん! 嬉しい!」

カエデ様はピョンと飛び上がりかけて、私の体を支えている事に気づかれたのでしょう、ぐっと私の体を支える手に力を籠めてから、チュっと私の頬にキスをくださいました。


「!」王子が驚き。

「!」私が驚きつつ喜び。


ワアっと、拡大映像を見ていた皆が、歓声をあげました。

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