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22/26

22.それぞれの計画

次の日です。私は、皇后さまに急に呼びだされておりました。

「会議も、残り3日で終わりですね、ムソンルージ」


「えぇ。あと少しですな」

私もお答えします。ちなみに、今日は普段通り、執事の服を着ております。昨日が特別だっただけなのです。


さて今日からが、延長していただいた3日間の始まりです。

恐らく戦後処理の会議は、昨日急に私が設けた午前中の会議の内容を踏まえて進んでいる事でしょう。無事に終わる事を願うばかりです。


皇后さまは閉じたままの扇を口元に当てつつ、声をかけてこられます。

「昨日の午前中、ドルガン様が尋ねてこられましたの」

「おや。ドルガン様が」

つまり私と旧知の仲の老王の事です。午前の会議で先に退出されて、すぐ皇后さまのところに行かれたのでしょうか。一体…。


「エルファンドとカエデの事で、アドバイスをしてくださったのです」

「そうでしたか…」

なんという迅速さでしょう。さすがですな。私は驚くばかりです。


皇后さまは、口元に当てた扇を軽く開かれました。

「『カエデを嫁にするならさっさと発表してしまえ。さもなければ、どんどんこじれるわ。傍目から見ればユリナの方が「王家の嫁」に相応しい。美人に戦功に人気者。なにより、あの娘には王者の資質がある。大勢の前に立ち慣れとる、華もある。あれは完全に人の上に立つ側の人間だわ。まぁだから、「ユリナ推し」が出る前に、さっさとカエデで発表してやれ』」

「おぉ、皇后さま、ドルガン様の口真似が上手ですな」

私の賛辞に、皇后さまは嬉しげにニコリとほほ笑まれました。

「お褒めいただき光栄ですわ。私こういうの得意ですの」


それから皇后さまは、扇を全開に広げられ、お話を続けられました。

「さて、私、ドルガン様のアドバイスを受けましてね。ちょっと考えてみましたの。私としてはユリが嫁でも構わないわねぇと」


えっ、何を仰いますか今更!


皇后さまは私の表情を見て目を細められました。笑っておいでです。

「ほほほ。私を鬼だとでも思っていらっしゃるのかしら。大丈夫ですよご安心ください。せっかくのムソンルージの案ですもの。何より当人たち…エルファンドとカエデ、それからユリ、気持ちがねぇ、やっぱりありますものねぇ」

「はぁ…」

私は不安になってまいりました。


「ほほ。少しからかいが過ぎましたかしら。それに、実は、ユリは別に頼まれていますからね。側室はカエデ。それで良い。決まりです」


…んん? 何でしょう。気にかかる物言いをなさいますなぁ。ユリ様について何かが決まっている…?


「さて、私はもう手配に取り掛かっております」

「…はぁ」


皇后さまは扇を少し閉じられ、私に少し差し向けられました。

「会議期間終了の2日後に、国民に、この度の戦についてと会議での決定事項、そして、王子の側室にカエデが入る事を発表します。王家の謁見用バルコニーで」


えっ。

「2日後ですか? また急な」


「えぇ。会議終了後の2日後なら他国の皆さまも一部は残ってくださるでしょう。他国の方々が立ち会われると、全ての発表は厳格さを持ちますから、本当は、戦関連の発表は最終日や翌日が良いぐらい」

皇后さまは少し思案するように宙を見つめられました。

それをすぐ私に目線を戻されます。


「けれど同時に側室発表もしたい。状況やユリの人気から見て、戦関連の発表から側室発表の間を空けるほどに、ユリを側室にと求める声が強まるでしょう。ですから、時間を空けるわけにはいきません。つまり、戦関連の発表と同時に側室についても発表するべきです」

皇后さまは真剣なお顔のまま、ふっと、一息つかれます。


「しかしさすがに最終日や翌日では準備の時間が無さすぎます。2日後でギリギリ間に合わせましょう。それから、戦の直後なのですから財政面から出費も抑えたい、それにカエデの状況を考えると、式は慎ましくした方が反感も持たれないでしょう。ならばもういっそ発表だけで済ませて良いぐらい。どうせ数年後はカエデには『建国の女神様の王冠授与式』があるのですしね。そこでパァっと祝う事にして、今回は発表に留めましょう。ささやかでも式を、などと考えだすと、結局時間がかかってしまいますからね」


皇后さまは時折考えるように宙に目線をやりながら、私にお考えを話されつつ、私がうんうんと頷いているのを確認されています。


皇后さまも色々お考えになっているのですなぁ…。

私は皇后さまを頼もしく思います。


「さて、それでです、あなたを今ここにお呼びしたのは、頼みたいことがあるのです、ムソンルージ」

改まったように、皇后さまが仰いました。


「はい、なんでしょう?」


「エルファンドの側室にカエデが入る。その発表を、あなたからしていただきたいのです。頼まれていただけますか」

皇后さまが、じっと真剣なお顔で私を見ておられました。


私は頭を下げてお答えしました。

「かしこまりました。心を尽くさせていただきます」


***


皇后さまとのお話が終わり、私は通常のお仕事に戻りながら、考えます。

つまり今日からみると、4日後に発表を行うという事です。

それまでに、カエデ様をご紹介するスピーチを考えておかないといけません。


皇后さまが私に、カエデ様の紹介を頼まれたという事。

つまり、私にこそできる事。


側室発表の際に民が不満を表明しないか、拒否しないか、という事。

それが、皇后さまが危惧されている事なのです。


民へのカエデ様の紹介文を、しっかり考えないといけません。

夜寝る前の時間でまとめていきますかな。


さぁ、会議期間ももう少し。頑張りましょう。


***


翌日、老王と朝にお会いしました。

単純に交流の時間でございます。


老王は、珍しく仕事のお話を持ち出されて、リューエア様をやたら褒めておられました。


なんでも、戦後処理の会議にリューエア様を呼び、色々皆で質問したそうです。

結果、参加者の度肝を抜くほどに秀でていたそうです。


例えば、老王が試しに頼んだ『離れた土地でも、声と映像を送り合い話ができる道具』を、翌日の会議には作って持ってくる、等。

まさか翌日に試作品を持ってくるとは思っていなかった参加者は驚いたらしいのですが、リューエア様は『映像記録装置を流用したので…それほど驚いていただく品ではありません…』と、謙遜では無く困惑気味に答えられたとの事です。

いや末恐ろしいですな。


「あとな、アイツ、ユリナの体を気遣ってるらしくてな、色々気の利いたモノを作っているぞ。体内魔力の多少の乱れならば落ち着かせる術はすでに見つけておる。医療分野にも展開できそうじゃ」


そうでしたか。

そもそもユリ様は大きな事故にあって、検査を受けておられたというお話でした…。

戻らなくても大丈夫なのでしょうか…。

こちらの医療技術が、ユリ様のところより進んでいると良いのですが…。


うーん、老王にこぼしてみますかな。

「ユリ様は元の世界に戻ろうと思ったりされないのでしょうかなぁ…」

「んー? ユリナだけか? カエデは大丈夫なのか。側室にまでしといて、また消えられたら知らんぞー」

と老王。


うーむ。

「カエデ様は、ずっとこちらにいると仰っています。王子の傍にずっといると」

「そうか、そりゃ良かったな」

ははは、と老王は笑われました。若さがうらやましいとか言っておられます。


「まぁ、とにかく、カエデ様の事は私は安心しております」

礼儀作法や歴史地理など、お教えする事は多うございますけれど。


「そうか。ユリナは違うのか?」と老王。

「直接お伺いしたことがありませんなぁ」

「聞いても良いと思うが」

「うーむ、そこは個人の自由ですからなぁ、私が踏み込むところではない気がいたします」

「そうかぁ?」

と老王。


老王は、ワシャワシャとアゴヒゲを撫でながら、唸るように仰いました。

「ワシとしては、ユリナにもずっといてもらいたい。その可能性は気にかかるところだな。あぁ、そうだ、昔からの付き合いで教えておいてやる、ムソンルージ殿。極秘事項じゃ。誰にも、王子にもまだ言うなよ。戦後処理メンバーの、極秘議事録にのみ記した話題だ」


はい? なんでございましょう。


「数年、様子見するがな。うまいこと行けば、リューエアとユリナ、ワシらが貰うぞ」


はい? 何を仰っているのでございましょう。


私の耳を疑うようなことを、老王は話し出されました。


***


さて、会議の延長の3日間は、つつがなく過ぎていきました。やっと会議が終了したのです。

本当に忙しい日々でした。これで終わり。やっと穏やかに戻れるはずです。


私は、ほっと、安堵してしまいました。

うっかり、安堵してしまったのです。



明日が発表の日、という日の朝。

疲れがどっとでてしまったのでしょう、激しい頭痛と体の痛みで、私はベッドから起き上がれなくなりました。


***


「ムソンルージ様、後は私たちにお任せください、ゆっくり休んでいてくださいませ」

とエルザやメイドたちに労わってもらい、

「後は私たちがやっておきます、父上はどうぞ体を休めてください」

と陛下たちにも労わってもらい、私は、自分の部屋のベッドで休ませていただく事になりました。


あぁ、しかし、寝込むのが発表の日でなくてまだ良かったです…。


今日はゆっくり早く治して、明日の発表には、皆にカエデ様を紹介しなくては…。


***


喉が痛みます。色々腫れているのでしょう、頭もガンガン痛みます。


医者が薬を処方してくれました。しかし即効性を感じません。


頭が痛い、間接が痛い…


ケホゲホ…


***


うーんうーん


水が欲しい、だが頭が痛くて動きたくない、喉が渇きました、誰か傍にいますかな、

「い゛ぅ…」

声が出なくなっているではありませんか…なんということ。


「どうされました。お辛いのですか? お水飲まれますか?」

誰の声か分かりませんが、誰かが傍についていてくれるようです。


私が頷くと、水差しで水を飲ませてくれました。


少しスッキリしました。しかし辛い…苦しい。


もう眠るしかありません、早く治らなくては…。


***


「・・・様。・・・様が、これをと・・・」

誰かが私の傍で話しています。私は眠っていたようです。なんでしょうかな…。


『・・・殿・・・聞こえるか・・・あぁ本当に風邪の様子じゃな。全く無理するからだ、ジジイのくせに・・・』


おや、気のせいでしょうか。老王の声が聞こえます。少し遠くに聞こえますが…。

私がうっすら目を開けて様子を見ますと、私の目の前に何か桃色の光が浮かんでおり、そこに老王の姿が小さく浮かんでおります。

「・・・?」


『これはリューエアの試供品よ。風邪がうつってはいけないからと見舞いに行けないもので、テストついでに使っている』


「・・・・ぅ」


『あぁ、声を出さずとも良い、とにかく早く治れよ、ジジイがベッドにいる光景は心臓に悪いわ。おいムソンルージ殿、まだくたばるには早いぞ、早く回復されよ』

それから老王は、『引退したお前と現役のワシとでは鍛え方が違うわ』だの『例の会議で意気込み過ぎだ』だの、こちらが返事をできないのを良い事にさんざん言いたいことを言われまして、私も目を開けるのがつらくなって閉じてしまいました。

まぁ心配してくださったのですな…。


それにしても、今は何時ぐらいになっているのでしょうかなぁ…。


ずっと眠っているような気がいたします…。


***


「ムソンルージ様、ちょっと起きられますか。何か食べた方が宜しいですよ」


目を開けると、マスクをしっかりかけたメイドのエルザが私の顔を覗き込んでいました。


やはりまだ声が出ません。

食器を持とうと思いましたが、手がだるくてツライです。

エルザが首を傾げて、すりおろしリンゴを食べさせてくれました。

ありがとう。

しかし相当気恥ずかしい。


また眠ってしまいましょう…


***


夢を見ました。

私の大切な奥方様が、『光輝の白壁』を背景に、庭で一人でお茶会をしておいでなのです。


庭は明るく柔らかい光に満ちて、その中にいる私の奥方様は若い頃の姿をなさっておいでで、傍に置いたテーブルの上にはスコーンやジャムなんかを置きながら、優雅に紅茶を飲んで楽しんでおられるのです。


夢だ、と私は気づいておりました。

それでも夢であなたに会えるとはなんと幸せなことでしょう。

私は確かな足取りで奥方様の傍に近づきます。

これは夢ですから、私も若々しい姿になっておりますように、と自分に願います。


「ミリデテイア様」

私がかけた声に、彼女は、声がかけられるのを知っていたように笑って、私をにこやかに振り向いてくださいました。

「お元気でいらっしゃいますか」

と私は夢の中の人に尋ねます。


ミリデテイア様は満足そうに笑みながら、私に尋ねられました。

「最近はいかが? ムソンルージ様」


私は笑いました。奥様が私の名前に「様」を付ける時は、楽しんで私をからかっておいでの時なのです。


「いろいろと忙しかったですよ。戦が起こって大変でした」

私は答えました。


ミリデテイア様は目を丸くなさいました。

「戦! まさか本当に起こるなんて! 大丈夫でしたの!?」

私はなだめるようにお答えします。

「戦の結果としては、他国の協力を仰ぎ、勝ちました。しかし戦後処理が大変です。いろいろ大変ですよ」

「そうなの…。なんてことでしょう」

「はい」


ミリデテイア様は、紅茶に口をつけて、少し考えをまとめておられるご様子です。

そんな奥様に、私は良いご報告をいたしました。

「ミリデテイア様。私たちの孫のエルファンドが、人間のお嫁さんを貰いますぞ」

ちなみに王子には、すでに建国の女神様がご正室におられますので、『人間』のと表現しています。

「あ」

ミリデテイア様はニヤリと笑って私をご覧になりました。

「それ、知ってるわ。気になって、ずっと見てたから!」


「おや。そうですか。カエデ様をずっとご覧になっていたのですか?」

「あなたが気にかけているからどんな子かしらって思ったのよ」

その答え方がちょっとわざとらしくツンケンしていて、私には面白く思えました。

「そうでしたか」

「何を笑っているのかしら」

「いえ、妬いてくださっているなら光栄ですが、決して浮気などではありませんからね」

「当然です」

ツーン、とした振る舞いで気位高そうに紅茶をまたお飲みになってから、ミリデテイア様はまた私をニヤリとご覧になりました。


「ムソンルージ。私ね、別にあなたが後妻を迎えても構わないのよ?」


私は苦笑いたします。

「そんな、畏れ多い事はいたしませんよ」

「あら本気で言っているのよ。私を心の狭い女と思わないでちょうだい」

「そんな風には思っておりませんよ。ところで、ミリデテイア?」

私は、敬称無しで奥様の名前を呼びました。

奥様はふと首を傾げて私を見つめてこられます。


私は、テーブルの傍、空いている椅子に目を向けました。

「私も、ご一緒させていただいても?」


私の大切な奥方様は、私を窘めるように優しげに、私の顔をじっと大きな目で見つめられました。

「あら、まだダメよ。ムソンルージ、あなたは、まだ、お仕事中でしょう?」


え。


***


「ムソンルージ様!」

「目開いたよっ!」

「本当に!? いけますか、いけそうですか!?」


・・・・なんでしょうか、騒がしい・・・。


「ムソンっちゃん! ムソンちゃん!! ちょっと、リュー、まだ意識朦朧!」

「ムソンルージ様! ユリナ、そっちの小箱をとって、紫色の方だ!」

「うんわかった、紫小箱! 紫小箱!!」

「ムソンルージ様、お返事いただけますか、すみませんエリザさん、水差しを!」


・・・おや? ユリ様にリューエア様の声がすぐ傍に…。


「はい水差しです! 飲ませて宜しいですか?」

「お願いします! ムソンルージ様! 聞いておられますね、カエデたちの一大事です、起きてください! お願いいたします!」

「リュー、はい小箱!」


私が目を開けると、すぐリューエア様が覗いて必死に話しかけてこられます。

ユリ様の声も大きいです。すぐ傍におられるのでしょうか。

それから、エルザの声もします。と、口に水差しが当てられました。水を飲みます。


あぁ、スッキリする…。


「ムソンルージ様、お返事ください!」


リューエア様の声に、ふっと、肺のあたりの苦しさが軽くなりました。

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