21.リューエア様とカエデ様について
会議の始まり。
まず私、現陛下の父、ムソンルージが発言させていただきます。
「今回集まっていただいたのは、今回の戦の発端となった、我が国での『憩いの水球』盗難に関わった二名、メドオール家のリューエアと、異邦の地から来たというカエデ、についての処罰をどのようにするか、ご相談したいと思ったからです」
その会議は、私が主導を握る形で進めました。
引退した私がシャシャリ出てきた状態です。本来は陛下が進めるべきでしょう。
けれど私が進めた方が良い。
「まどろっこしい事は良い、ムソンルージ殿。希望を述べてみろ」
私の旧知の仲の老王が、唸るように言います。
彼は味方でも敵でもありません。公平です。けれど存在的に、発言が重い人物です。
「…先に状況を述べさせていただこうかと」
「時間がない。早く進めようではないか。希望を述べてみろ」
私と老王の会話に、他の参加者はどちらに落ち着くのか、伺うように聞いています。
私は、老王の発言に、分からないように注意を払いながらも微弱に分かるため息をつきました。
結論から話すとは。
「分かりました。私の希望です。メドオール家の長男リューエアは、相続権を剥奪。加えて、」
「もっとざっくりと、ぶっちゃけて言え。その方が皆に伝わりやすい」
やれやれ。形式を重んじようと思ったのですが。
しかし彼は敵ではないのですし、何か考えがある可能性もございます。ご提案に沿いましょう。
「では」
私は言いました。
「リューエアは、罰として貴族の地位を剥奪します。メドオール家から町の館も没収。けれどリューエアは得難い人材だと判断します。そこで王家の使用人として扱いたい」
「なるほど、ではカエデは」
「彼女は、ぶっちゃけますと、我が国の王子エルファンドの嫁にもらいたい」
「ははは」
老王が笑いました。
老王が先に笑ったので、『嫁にもらいたい』という私の発言を聞いてざわっとなりそうだった他の参加者の気配に戸惑いが生まれます。
老王は笑いながら言います。
「王子が惚れているからか」
「ぶっちゃけますと、そうですな」
「だが罪人だろう」
「本当にそう言えましょうか」
「つまり?」
「彼女は純粋に、それぞれの友人を助けたいと動いた。常人にはない行動力を持ち、成功させる手腕を持っていた」
「それは確かだ」
老王はクスリ、と笑いました。
そして、右手を軽く挙げて仰いました。
「このドルガンは、ムソンルージ殿の希望する内容で良い。ただし、希望に沿う礼を我が国に求める」
え。まさか。
私は耳を疑い、目も疑いました。
まさかこんなに早く。詳細に説明する手順も踏まず。賛同されるとは。
老王は、
「ではワシはこれで失礼する。午後にも会議があるのだし」
と椅子からヨッコイショと立ち上がられます。
私が少しの驚きのまま、無言でその動きを見つめますのを、老王はフと笑い、この会議に出ている皆を見回していいました。
「この人が本気で説得に出てくる。詳しく聞くまでもない。ムソンルージ殿の希望どおりにしかならん。まぁ、気の長い皆さまは詳しくを求められよ」
私は思わずニと笑ってしまいました。さすが長い現役時代を付き合ってきただけのお方だ。評価してくださっている。
そうです、私は、折れる気は無い。多少の譲歩の余地は、もちろん設けてありますが、それは二人の対処の部分ではなく、老王が言う『礼』の部分に設けてある。
「あぁ、『礼』については、午後の会議に盛り込んでもらおう。では皆さま、お先に失礼する」
***
基本的に毎日行われている『戦後処理』の会議が長引いているのは、戦いに加わらなかった他国とのバランスを踏まえつつ、被害を受けた部分をどのように補い、またどのようにうまく利益を得、どのように負けた国を扱うか、というところの調整が難航しているからです。
老王の言った『礼』というのは、戦による取り分をその分多くするように求めるものです。
きっと、何らかの希望を午後の会議に出してくることでしょう。
そちらは陛下に任せる事になっております。
けれど、この件についての『礼』の形は、考えて用意してございます。
***
老王以外の皆さまは、詳細な説明を求められました。当然です。
私は、説明をしました。皆さまがすでに知っておられることも、改めて説明しました。
リューエア様が若くして他国を心配された事。
カエデ様はユリ様の意識が戻らないのを戻そうとされた事。
二人は純粋に協力し合ったという事。
皆さまが手放しで絶賛されるユリ様は、リューエア様とカエデ様がいたからこそ現在のように元気でおられるという事。
それから、カエデ様は、リューエア様が真剣に他国の民の困窮ぶりを助けたいと、リューエア様の屋敷の祈りの間で祈られていた時に、異常な魔法と共に姿を現された事実。
姿を消された時も、王家の祈りの間であった事実。・・・なお、これはリューエア様とカエデ様への事情聴取で、成功率を少しでも上げるために、来た時と同じ状況で魔法を再現されたという事が分かっています。
本来ならそこで終わっていた。
けれど敵国が、リューエア様を裏切り、戦を起こした。
リューエア様の危機。ユリ様とカエデ様が、再び祈りの間に現れ、我が国に加勢したという事実。
ユリ様は、敵の進行を遅くして、士気を高められた。
カエデ様は、敵地にたった4人で乗り込み、むしろ率先して『憩いの水球』を奪還された。
それぞれの資料も提出します。
ちなみに主にエルファンド王子のここ連日の調査結果です。
王子自身がリューエア様を始め、カエデ様やユリ様への事情聴取を行われていますが、私情を挟むような馬鹿な真似はされません。冷静に客観的に証拠を集めて報告にまとめておられます。
リューエア様の屋敷の祈りの間で、リューエア様が世を憂い祈る中、カエデ様が突然現れた時の再現映像や、敵国とリューエア様の間の記録。カエデ様が王家の祈りの間から去られた時の映像もお見せします。
そして、リューエア様が昨日、カエデ様のために私のために記された剥き出しの手紙さえも。
***
リューエア様からの手紙には、カエデ様を案じてカエデ様のために、このような事が書いてあったのです。
カエデ様も2年前半の事から随分悩んでおられると。今更自分から告白などできないと言われるのを、リューエア様は後押ししたいと思っておられると。
リューエア様は、カエデ様から告白できるよう、後押しのためにも、私の話をしてほしいと。
そして、私が、王族の者であると、知らせてほしいと。
リューエア様はカエデ様を得難い人間だと書かれました。
カエデ様がリューエア様の事を、純粋に信じて動いてくれたと。
2年半前、カエデ様は、王子や私にすべてを打ち明ける事もできたのです。
なぜなら、カエデ様は打ち明けることで、正当に『目覚めの羽を球状にしたものに憩いの水球の水を垂らした品』を手に入れて帰る事もできたからです。
リューエア様は、カエデ様を脅したわけでもなく、何かを引き換えにしたわけでもない。
リューエア様は、もし『憩いの水球』を持ち出すことが難しい場合は、カエデ様だけでも願いを果たす事ができるようにと、戻るための魔法紙などの手段をカエデ様に先に全て持たせていたのだそうです。
けれど、カエデ様はリューエア様の思いのために『憩いの水球』を王家から持ち出し、リューエア様に渡す手段を取った。
リューエア様とカエデ様は、ただ思いを共有し合って、協力し合ったのです。
子どもゆえの純粋さで。難しく考えてしまう大人にはできない、羨ましく思える素直さで。
リューエア様は付け加えて書いておいででした。
奪還の際に、もっとも敵地において行動したのは、ユリ様ではなく、カエデ様だと。
『それは、まるで、建国の女神さまのようではありませんか』
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参加者の一人が尋ねられました。
「『礼』をどのように考えておられるのでしょうか」
私はお答えしました。
「リューエアの頭脳は素晴らしい。彼を王家の使用人とし、技術者として、彼の理想を実現する技術を開発してもらいます。リューエアの開発した技術を、皆さまにも等しく提供いたします。少なくともすでに、今の技術より高い効果のでる農業系技術が独自に開発されていました。全て提供、貢献させましょう。あなた方の土地もより豊かになるでしょうし、敵国の地にも使えましょう。まぁ、バランスを見ながらですが…全体が富めば良い」
「リューエアは分かった。カエデにおける希望を叶えるメリットは我々にあるのでしょうか」
他の参加者が尋ねました。
「単純な話です。ウチの王子が皆様に協力的になるかどうかですな」
と私は答えました。
「は」
「皆さまに承認いただけたなら、エルファンドは皆様に厚く感謝し、決してその心を忘れることは無いでしょう。その心は、我が国とあなた方の国の在り方に反映されましょう。王子が次の王なのですから」
「・・・なるほど」
「カエデの件も含めて、リューエアからの技術提供が『礼』になります。彼にはかなり期待が持てますので。もし皆さまがサポートくだされば、より効果が望めるのではと思います」
その上で、申し上げました。
一つの側面から見た事実を。
「今回の戦は、敵国が若者の気持ちを裏切った事が原因。悪者は内部にではなく、敵国にいる。敵国の王家が悪なのです。私たちは、手を取り合って、それに打ち勝った」
分かりやすい結論。
勝者の結論。
私には、この結論を用いるぐらいの能しかございません。
だからこそ余計に思うのです。
リューエア様のような人が王子を支えてくださり、同じような状況に、よりよい解決法があるのなら。
彼らに新しい解決法を見せてもらいたいと。
私は、幼いけれど眩しくも見える、若者たちに期待をしてしまうのです。
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結論を申し上げます。
私の希望は通りました。




