20.報告
静かな夜。
エルファンド王子は、カエデ様を誘われたのでしょう。
『光輝の白壁』ならぬ『赤薔薇の白壁』の前にて。
王子はカエデ様に跪いて、カエデ様に求婚なさいました。カエデ様の告白のお答えとして。
カエデ様はワっと王子に抱き付かれて、王子は危うくバランスを崩してしまうところを堪えられて、そのまま二人で抱き合って喜ばれました。
赤薔薇に相応しい明るさと華やかさをまとって、お二人はニコニコしながらキスなさいました。
とても楽しく幸せそうなご様子でした。
***
…という映像を、私、ムソンルージは、鳥がさえずり始めた早朝に、見ております。
本日は簡易パーティを設けた日の次の日でございます。この映像は、昨晩のものでございます。
私は思わず頭を抱えました。
いえ、良いのですよ、お二人がすっかり想いを通わせられたのは!
そこでは無いのです、私の頭が痛むのは。
王家のしきたり…婚姻がはっきり決まるまではキスも禁止など…も別に構いません、これを知る関係者が口をつぐんでおけばいいのですから!
そこでは無いのです!
私が思わず呻いてしまうのは、自分の時も、こんな風に、私の義父や義母…つまり当時の陛下と皇后さまがチェックされていたのだとハッキリ実感できてしまったからでございます。
二人きりになるように計らいこっそり求婚いたしましたのに…翌朝には具体的に話が広まっていたのでございます。誰が一体見ていていたのだろう、と驚愕しましたよ。
理由はコレです。
えぇ。王家…つまり現在で言うと、私と、陛下と、皇后さまと、王子。それぞれが各人で持っている諜報部隊です。
彼らは、それぞれの主のルールに則り、レポートを毎日提出してまいります。それは、時に、映像であったりします。
私はため息をつきながら、書面になったレポートを手に取りました。
王子はその後、カエデ様をお部屋にお送りするべく、カエデ様のお部屋に向かわれたと報告があります。他、いろいろ。当然ですが、王子以外の事も書いてあります。
「王子…告白も、お部屋でされましたら、私たちに見られることもありませんでしたのに…」
私は、ここにいない王子に向かって、呟いてしまいました。
諜報部隊は館のあらゆるところで諜報活動をしております。しかしそれではプライベートが保てません。
ですから、昔から、王族同士で協定が結んであります。
部屋の内部の出来事は、事件や調査などのために主が求めない限り、提出されない。
部屋の外、つまり廊下や庭などの出来事は、主が決めたルールに則り、都度提出される。
ですから、カエデ様からの告白も、『祈りの間』…つまり『部屋』…で行っていただく予定だったのです。
それが、結果『廊下』での告白になりました。
つまり、陛下と皇后さまに、自動的に速やかに報告がいったのです。少なくとも皇后さまには映像報告もあった様子。
ただ、皇后さまは、具体的に知られたからこそ、不満を持っていたはずのカエデ様に好感を持たれました。
ですから、『廊下』になってむしろ良かったのでしょうかな…。
ちなみに、王家には、なぜそんなことに、と思ってしまう様々なしきたりが隠されてございます。
この諜報部隊の事も、女王の夫となって初めて明かされ、私は本当に度肝を抜かれました。
例えば、私の奥様…ミリデテイア様は一体どのように私の気持ちに気づかれたのか不思議に思っておりました。私は恋心を隠しておりましたから。
が。
彼女と話した後に部屋を退出して。彼女がいない様々な場所で。私の気持ちが表れた行動なども報告されていたのでしょう…。そう分かった時の恥ずかしさと言ったらありません。
王子は存在を知っている上に扱っている側なので良いとして、カエデ様が王家に入られた時に、驚き恥ずかしい思いをされないために…と思ったのですが。
カエデ様、情報が筒抜けになり…本当に申し訳ございません…。
ただし、安全対策として、諜報部隊の存在は必要なのですよ。
***
さて、見事な思い出の場所ですからなぁ、あの『赤薔薇の白壁』は。
見られても構わないと選ばれたのかもしれませんな、王子は。
やれやれ。
爺の方が、自分の昔を思い出したりで恥ずかしい思いをしてしまいますぞ。
***
さて、日課の『諜報部隊からの報告』に目を通しながら、私は身だしなみを整えます。
本日は、執事ではなく、陛下の父として、改まった服装に。
部屋にある私の大切な奥様の肖像画に微笑みます。
「行ってきます、私たちの孫のために」
***
今日も朝から、老王との朝食です。
私の改まった姿に、老王はニヤリと笑います。彼とは旧知の仲なのです。
***
老王のお部屋から退出すると、メイドのエルザが私を待っており、エルザからも王子とカエデ様の仲が進展したと報告を受けました。
それにしても、あれほど悩んで止まっておいででしたのに。
一瞬で幸せにおなりですなぁ。
しかしまぁ、私もこれで迷いなく進めます。幸せを一瞬で終わらせないために。
***
午前中のうちに。
私と陛下とで、戦後処理とは別件の会議を開かせていただきました。
議題は、我が国の内部に関する事。
『戦の発端となったリューエアとカエデを、どのように処分するか』
我が国のミスによって起こってしまった戦。他国も被害をこうむった戦。
その引き金になった二人。厳しく罰せられる対象になる二人。
私は、私たちは、必ず槍玉にあげられる立場にある二人を、なんとか助けたい。
他国からの反発は必至でしょう。
けれど、近くに集う今ならば。事情を事細かに説明でき、情に訴える事のできる今ならば。
二人についての事柄を、相談することで、承認してもらいたいのです。




