19.爺の頑張り
カエデ様がエルファンド王子に告白なさったのは午前。
それから私はもう本当に大忙しでした。
倒れるわけにもいかない私に、優しいメイドたちから差し入れを貰いました。頑張ります。
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急きょ、陛下と皇后さまと謁見しました。
急ぎましたのに情報はすでに回っておりまして、特に皇后さまが「ふふふふ」と笑っておいででした。
私は、改まった服に着替えました。
きりり。
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本日の戦後処理の会議は、休息をかねてという名目で、簡易的なパーティに変更させていただきました。
変更については、昨晩のうちに連絡をしており、皆さまにご了承いただくことができました。
連日の会議で、皆さまも大変お疲れだったのでしょう。
そのパーティのために、ユリ様にもお越しいただきました。ユリ様にも、昨晩のうちに、リューエア様から予定をお伝えいただいております。
「任せて! 私、コンパニオンとかキャンギャルとかバイトしてたし!」
ユリ様は満面の笑みで仰いました。
仰った事がちょっと爺には理解できませんでしたが、頼もしさを感じます。
「セバっちゃん、いつもと服の雰囲気が違うね?」
と、カエデ様が仰り、リューエア様が少し首を傾げられました。
『どうして、カエデはこのような反応を?』と、不思議に思っておいでなのだと私には分かります。
そんなリューエア様に、私は片目をつぶっておきました。
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パーティは簡易的ながら、賑やかに楽しいものになりました。
会議に出席される方々に、ユリ様、カエデ様、リューエア様、エルファンド王子に皇后さまもご参加です。
他国の方々は、特に『戦場の女神』と噂された、美しいユリ様に会いたいとよく口にされておられました。簡易パーティへの急な変更を皆さまご了承くださったのは、ユリ様の出席をお伝えした事が大きいと私は思っております。
本当に、ユリ様さまだと思っております。
前回に比べて参加人数も格段に少なく落ち着きある雰囲気の今回で、皆さまはそれぞれ、時の人となったユリ様とゆっくり接することが出来て満足そうでした。
カエデ様はというと、一人に声をかけられて、その人が去れば他の人に声をかけられて…といった具合です。カエデ様のお立場は『憩いの水球』の盗難と奪還両方に関わった独特なものですから、皆で取り囲むというよりも、個人的に話を聞いてみたい、という心境になるのかもしれませんなぁ。
リューエア様は、自ら他国の方々に向かわれ、一人一人に、丁寧にお辞儀をしておられました。このような場に出る場合、リューエア様は、まず謝罪をするべきお立場になるのです。
爺はその様子を心を痛くして見ました。あれほど手を焼いたリューエア様ですが、今は親しみを感じるからです。彼は決して戦争を起こそうと画策したわけではなかった。広い視野を持ち改善を考えられる頭脳を持っていた。けれど、まだ子どもで利用される可能性を知らなかった。
それを、このパーティで、参加者が感じてくれることを祈ります。
さて、私は、パーティの中で、他国の皆さまの滞在をあと3日ほど延ばしていただけないかお尋ねして回りました。予定では、戦後処理などを話し合う期間を10日間としていたのです。明日が最終日のはずでした。幸い、全員の方々からご了承をいただくことができました。
元々スケジュールが押していたので、皆さま分かって下さったようです。さらに他の予定も詰め込ませていただこうと思っております。
そんな中、皇后さまがエルファンド王子を連れて途中から参加されました。なお陛下はもともと参加しておいでです。
皇后さま、王子、それぞれが他国の皆さまと交流をします。
基本的に、皆バラバラで、他国の皆さまたちと接する形です。
皇后さまも参加してから少し経った頃です。皇后さまはスっと私のところにやってこられました。
そっと耳打ちされます。
「カエデで良い。廊下で、ぐんと」
皇后さまは、万が一を考え、私にのみ伝わるよう、言葉少なくお話になっております。
私は苦笑し、短く返答します。
「予定が狂い」
皇后さまはそれに返されます。
「結果良かった。私にも。彼らにも。そうでしょう」
「ならば良かった。けれど」
「分かっています」
皇后さまが私にのみ表情が見えるように扇を使いながら、笑まれます。
「ムソンルージ様。あなたの奥様に、私が仕込まれたことを全て仕込んで差し上げましょう」
皇后さまは、私のみに聞こえるよう、そっと小さな声で意地悪そうに仰いました。
私はやはり苦笑で返します。
「どうぞお手柔らかに」
そんな会話を私と皇后さまがしているとは露知らず。
エルファンド王子のご様子を見やると、皇后さまがよく言い含められたのでしょう、他国の方々をもてなすよう努めておいでです。
しかし、気を抜くとすぐカエデ様を目で追われております。
カエデ様もそれに何度か気づかれて、離れている場所ながら、ニッコリ笑顔を返されます。
王子は動揺して首まで真っ赤になり、その後でニコリと破顔しておいでです。が、このパーティの意味をハっと思い出されるのでしょう、口元を手で抑え、表情を抑えられるよう努めておいでです。
全然隠せておりませんぞ。
きっと他国の方にもバレバレでございましょう。
私の傍の皇后さまもその様子を目に留め、王子を小さく笑い、肩をすくめられました。
「あの子、もう手遅れね。まさかあんな風になる子だとは思わなかった。それにしてもまた厄介な子を好きになること! 遺伝でしょうか?」
皇后さまは私をからかいの目でご覧になります。
困りましたな。やはり私は苦笑を返すのみです。
皇后さまはそんな私をさらにからかわれました。
「ムソンルージ様。私が王家に嫁ぎましたのは、あなたの奥様に憧れていましたからですのよ。あの方が義母上になるのをすてきだと思いましたの。ミリデテイア様のように私もなりたいと願いました」
「そんなことを言って。陛下が自分の立場はとお嘆きになりますよ」
と私は申し上げておきました。
皇后さまはニヤリと私に笑われました。
「あの人なら何を言っても大丈夫です」
この国は建国の女神さまの国。女性が強くなりますなぁ。
おやひょっとして、カエデ様もこのようにおなりになるのですかなぁ。
数時間のパーティは、それぞれじっくりとした交流を持ちながら、無事に終了いたしました。
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カエデ様にもお話した私の『武勇伝』でございます。
いえ、私個人の思い出話で、たいそうなものでもないのですよ。
私は、この王家に代々使える執事の家に生まれました。
私は、王家にお生まれになったご息女様に仕えました。
私はその方に恋をしました。
けれど身分の違いで早い段階から諦めるようにいたしました。
好きなまま、傍にいる。それを私の幸せと思うようにいたしました。
お年頃になりますます美しくなった王家の姫。
ミリデテイア様は建国の女神さまの生まれ変わりとされます。
王家に生まれるのは男児が多い。男児のみの場合は出生順に王位継承権が。
ただし、女児が生まれた場合。その子は『建国の女神さまの生まれ変わり』。
必ずその子を王位につけます。
男児は、正室に建国の女神さまを迎えて、王となる。陛下と呼ばれる存在になる。
女児は、生まれながらに、王となる。女王と呼ばれる存在になる。
つまり、ミリデテイア様は、生まれながらに、次期の王なのです。
けれどミリデテイア様は私を伴侶に選んでくださいました。
当然周りは猛反対いたしました。貴族が反対したのです。
けれど、ミリデテイア様は、王家に生まれた女性。
次期とはいえ、男性で王となった父上様よりも、権力をお持ちの身分でした。
彼女は自ら動けない私の手を取り、自らの立場を利用して、貴族たちの反発を全て彼女から見た正論で跳ね返しました。
彼女は私を、彼女の隣に導きました。
私ができたことは、ただ。
明日が結婚式という夜に、『光輝の白壁』で、彼女に求婚した事でした。
強く輝く彼女は、私にとって眩しくて。その場が彼女にふさわしいと思ったのです。
そして、権力も地位も何も持たない自分も、また真っ白だと思ったのです。
私のすべてをあなたに捧げると、そう決意して。
ミリデテイア様は、臆病で愚鈍な私に、嬉しそうに笑ってくださいました。
こうして、私は、女王の夫となりました。
正式に王となった彼女を、私は伴侶として支えました。執事では無く、女王の夫として、政務の補佐をし、他国との交流を持ちました。
彼女はとても剛毅な女性でした。
聡明さもありましたが、決断力と行動力が優れた女性でした。快活でした。
彼女は強く国を総べました。
そんな彼女は、10年ほど前に逝ってしまいました。
女王がいなくなった私が、王の隣の椅子に座る事などあり得えません。
私も引退を決めました。
息子が王位を継ぎました。娘は生まれなかったので。
私は、執事に戻らせてもらいました。
息子たちの間に生まれた孫、エルファンド王子のお傍に仕え、成長を見守って余生を過ごしたいと思ったのです。
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カエデ様には、私が王家に入った人間である部分は、まだ内緒にしてお話してしまいました。
出来る限り、「セバッちゃん」と気安く親しく呼んでくださる期間が長く続けば良いと、爺が思ってしまっただけでございます。
『武勇伝』はお話申し上げております。
リューエア様のお手紙に、私の心が動いたからです。




