表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

14.爺 王子を捕まえた

さて。夜になりましてございます。

すでに真夜中、廊下に最低限の灯りはともしてありますが、すっかり暗くございます。


「…なぜムソンがここにいる」

「用足しに起きまして、偶然でございます」

「……嘘でしょう」

「本当でございます。今日は多く飲みましたので」


私の姿を目に留めたエルファンド王子は、大変不服そうにされました。

ここは、カエデ様がお泊りになっているお部屋の前、館の廊下でございます。


えぇ、カエデ様は館に泊まられる事になりました。

ちなみにユリ様の方は、リューエア様のところにお帰りになりました。

どうやらリューエア様が強くユリ様に戻られることを希望されたそうです。ユリ様を王子の側室に…と期待が高まっている事をリューエア様もご存じでしょうから、強く阻止されたのかもしれません。

こうして、ユリ様は帰られましたが、一人、カエデ様は残られたのでございます。


そして、今。

歳なので尿意のために真夜中に必ず一度は目を覚ます爺は、なにかそういう気がいたしまして、カエデ様のお部屋の前にて少しあたりを見張っていたのでございます。えぇ、なにか王子がカエデ様のところに行かれそうな気が。長年の勘でしょうな。


アタリでした。


王子は私がカエデ様の部屋の前にいるのを大変嫌そうにご覧になっておられます。


私は申し上げました。

「王子、こんな夜中に、年若い娘さんのお部屋を訪れるとはいただけません」


「あのですね、ムソン。やましい事などありませんよ」

「ふむ、さようでしょうか」


「カエデがまた泣いていないか気になって様子を見に来たんですよ! 本当に」

「それにしても遅い時刻ですなぁ」


「そんな時刻になぜあなたが起きているんです!」

「だから、用足しに目が覚めるのですよ、爺になりますと」


なんだか悔しそうに王子が私を睨んでおられます。

残念でしたな。見つけてしまった以上、言わせていただきます。


「王子、今日はもう遅いですから、カエデ様にお会いになるのは明日以降になさい。今日はカエデ様も慣れないパーティでお疲れでしょう」

「・・・だから泣いていないかと思って・・・」


「こんな遅くにお部屋に行っては、カエデ様を驚かせてしまいますよ。明日の朝に様子をうかがってあげなさい」

「・・・・はぁ・・・なんでムソンがここに・・・」

王子はガックリと肩を落とされました。


そのまま王子が立っておられるので、ふと思いついて私は申し上げました。

「王子、せっかくこんな時間に起きておられるのです。爺は少しお話を聞かせていただきたいです」

「なんの話ですか?」

ものすごく嫌そうに王子が聞き返してこられます。


「…戦場のお話を…。報告は伺っておりますが、個人的に聞かせていただきたく思いました」

「……。えぇ…」


「『憩いの水球』の奪還のお話を、聞かせてもらっても宜しいでしょうか?」

「…それこそ今にしなくとも」


私は少し申し訳ない気持ちになりまして、微笑みました。

「いえ、せっかくこのようにお会いできました事ですし。それに、二人でお話する時間など、少し持てそうにありませんからな」

「…なるほど」


まだこれからしばらく、王子も私も、忙しい身の上ですから。


***


王子の部屋にお邪魔致しまして、それぞれ椅子に座ります。

王子は私を気遣ってひざ掛けを持ってきてくださいました。お心づかいの暖かさが老体に染み込みますなぁ。


それぞれ多忙、今日も疲れておりますから、多くの時間は取れません。

さっそく、私がお尋ねして促すままに、王子は『憩いの水球』の奪還時の事をお話くださいました。


「そうですね…。もともと、カエデたちは、町に溶け込んで、どこから豊かになっていったかなどを聞き込んで場所を絞り込んでいたようです。メドオール家の者も一人一緒に行動していました。ジャキリという名の技術者です」

「ふむ」


「私とシュレイが合流しましたが、どうもかえって身動きがとりにくい状態になったようです。敵の町は男がほとんど兵に出ていて…男3人が明らかに目立ちました。…話し合って、私とカエデが連れで、二人が護衛、『カエデが我儘を言って、旅で町に寄っている、どこかの貴族っぽいご一行様』…という設定をとりました。髪の色なども全てジャキリが魔法で変えてくれた」

「なるほど」


まずは聞き込みで、どこに『憩いの水球』があるのか場所を絞って行かれたのですな。


「大まかに場所が絞り込めたら、私の方で、どちらの方向にあるか感覚で絞っていきまして…。最終的に絞ったところに、カエデが単身で乗り込んで掘り出しました」

「なんと、カエデ様おひとりで?」


「えぇ。『憩いの水球』の性質からして湖の底にあるものですが、向こうも警戒していました。カエデはリューエアの持たせた『豊土とよつち御手みて』を所有していますから、掘り出してもらいました。…一人でならいけるが、三人も連れていくのは難しいと言われて…」

「そうでしたか…」


少し黙り込まれてしまいます。


私は他の者が言いにくい事をポツリと申し上げました。

「王子…あまり役に立っておられませんな?」

「酷い」

王子は苦笑されました。


「そう言われるほどに役立ずではないです。『憩いの水球』の場所を可能な限り絞り切る必要があった。最終的に警戒が厳しい地でかなりピンポイントで場所を絞り込めたのは、まぎれもなく私が役に立ったからです。だから私が合流したことは正しかった」

「そうでしたか…」


「はい。ただ…結局、一番危険な場所で動くのは、カエデになる事が多かった。女性だから町で一般人に溶け込みやすいからとか、『豊土とよつち御手みて』を持っているとかで…」

「…そうでしたか…」


「あぁ、他の二人も良かったです。メドオール家のジャキリは、遮音や視覚誘導も得意で、技術が非常に高かった。彼は必要不可欠でした。当家のシュレイも体力があり腕が立つので、護衛としてとても安心できました。国境付近など移動にとても困りましたが、戦力の薄いところや突破方法を話し合えて助かった。四人になって動きづらい事もあったでしょうが、全員が、いて良かった」

「そうでしたか…」

私はしみじみとお話を聞いておりました。

本当に、役目を果たされて皆無事にお戻りになり、良かったです。建国の女神様に心から感謝いたします。


「・・・カエデ様は、よくお泣きになりましたか?」

私の言葉に、ピクと王子が反応なさいます。

先ほど、王子がカエデ様のお部屋の前を訪れて、『泣いていないか』と心配されておりましたので、気になって聞いてしまうのでございます。


王子は思い出されたように下を向いて少し黙った後で、

「はい。えぇ…再会した時は、会話が成立しなかった…。えぇ、時折泣きますね」

「あぁ…」

なるほど、そうでございましょうなぁ…。パーティで私に会った時にも、あれほど大泣きされたのですから。


「二人で話ができる事もよくあったので…。始めの頃はとにかくすぐボロボロ泣いて。もう謝罪ばかり」

少し王子は思い出して、少し苦そうに笑われました。なぜだか寂しそうにも見えます。

「まぁ『憩いの水球』奪還のための話題の方が重要だったものですから、その合間に、ポツポツとね」


「…仲直り、されましたか? 今日のパーティで随分親しくなっておられましたなぁ」

「仲直りと言うか。まぁ」

王子は言葉を濁されました。


うむ、どうされたのでしょう。


「・・・ムソン」

と王子はポツリと仰いました。

「カエデは、全く別の世界から来たと、言っています。全く別のところだと。聞いていますか?」

「え・・・いいえ?」

別の世界? どういう事でしょう。

「いえお待ちください…そういえばユリ様も少し変な事を言われたような…」

そんな気がしないでも無いような…。


「つまり…またカエデは去っていくのではと思います。元の場所に」

「…え?」

またあれほど仲の良いご様子ですのに?


私の顔に、思いが現れていたのでしょう。

王子は私の顔を見ておられました。真顔でございました。


王子が黙っておられますのを、私はお尋ねしてしまいました。

「王子は、今も、カエデ様に、側室に来ていただきたいと思っておられますか?」

「それは、好きかどうか、という質問でしょうか」

「はい、そうです」

「今も…」

王子は目線を落として呟かれました。


沈黙がおりますのを、私は返事をお待ちしました。


「2年半前、求婚を断られました。それでも良い雰囲気だと思っていた。けれど、カエデは去った。事情があったとしても、その事実は私には変わらない。再会してまた、結局、自分は好きなままだ。期待してしまう。それで…」

王子はゆっくりと静かにお話されました。

「今も、あの2年半前と同じ…。私が好きなだけ。無理だと知っても、好きで自分が傍にいたいだけ。カエデはまた去るでしょう。私は、選ばれない」


私が言葉を失くしてお顔を見つめるのを、王子は気づかれて、泣き出す寸前のように笑まれました。

私は、言われた事をすぐに理解できず、混乱していました。


「側室に入ってくれると、良いのに」

本音を、冗談のように仰いました。



その感情を、私も身に染みて存じておりますよ。

好きだけれど、どうすることもできないまま、そのまま傍にいる気持ちを。よく存じておりますよ。



王子。困ったところが、似てしまわれましたなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ