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12.爺はさまざまに再会する

『憩いの水球』の盗難に端を発する戦争は、それから、半年ほどで収束いたしました。


陛下が戦地で指揮を取り、王子が『憩いの水球』の奪還に動き、皇后さまが国政や他国との調整をなさいました。私は皇后さまを補佐いたしました。補佐は私の習熟分野の一つでございます。


戦争を収める事ができたのは、他国の協力があったからこそでした。

皇后さまから連絡と要請を受けたまわりの国々も、制圧に乗り出しました。なぜなら『明日は我が身』ですから。

敵の国の兵力は分散していき、確実に削がれていきました。


その上に、王子たちが『憩いの水球』を取り戻すことに成功なさいました。

正式な所有者は『憩いの水球』の効果を巻き戻すことができます。王子は状態を巻き戻し、隣の国に現れた豊かな緑と湧き出る水を消しておしまいになりました。

土地が再び砂漠となった事は、敵の兵の心を折ってしまったようです。


敵の国は、小国ながら豊かな土地の多い私たちの国を手に入れることさえできれば後は勝てると思っていたようです。スピード勝負の戦でした。けれど、叶わず。敵は負けました。


王子たちはこれからしばらく、協力し合った周辺の国々と話し合ったり、負けた敵の国をどのように扱うかなど、戦後の処理に忙しくなる事でしょう。


しかし、まぁ、そんな事は一先ずおいておきましょう。

なぜなら本日は、勝利祝いのパーティなのです。


そして、このパーティには、カエデ様もご出席なさるのです!


***


「あー、ムソンっちゃん!」

パーティ会場で、にこやかに私にお声をおかけになったのは、ユリ様でした。

上品な深いブルーの色のドレスを着ておられます。胸元には金色のカマキリがブローチのようについていました。動いています…こ…これは…? いえ気にしません。


「ユリ様。ご無事でなによりでございます」

「うん、ありがと。ムソンっちゃんも元気で良かった」

ユリ様はにっこり微笑まれました。相変わらずの女神様的なお美しさです。周りの男性陣がユリ様を見惚れている気がいたします。


それにしても、いつの間に、私を『ムソンっちゃん』と呼ぶようにされたのでしょう。半年前は『セバっちゃん』と呼んでおられたのですが。

私が不思議に思いましたら、ユリ様がイタズラっぽく笑まれました。

「エルファンド王子にね、『彼はムソンルージという名前だ、勝手なあだ名で呼ばないでいただきたい』って注意されたからね。これから『ムソンっちゃん』て呼ばせてもらうね」

と仰いました。

「なるほど、そうでございましたか…」

私にも立場がございますので、王子は呼び方の注意をされたのでしょう。

「ふふー」


ユリ様が笑顔のまま、首を傾げてお見せになります。

「たぶんねー、エルファンド王子様は、私がカエデと同じように呼ぶのが嫌なんだよねぇ。ふふふー」

そ、そうでございますかな。

もしそうでありましたらば、申し訳ございません。なんだか子どもな王子をお許しください。


「そうです、ユリ様、あちらにケーキをご用意しておりますよ。どうぞお召し上がりください」

戦場でお会いした時、ケーキを食べたいとユリ様は仰っておりました。

ユリ様に館に来ていただけて本当にうれしく思います。


「うん、願いが叶って嬉しいわー」

ユリ様はニコニコおっしゃって、

「ほら、リュー! 行くよ!」

と傍の男性の服の裾をグィっと引っ張られました。


えっ、リューエア様!

私は驚きました。

そこにおられたのでございますね…。おかしいですね、気がつきませんでした…。

…私、こんなにお傍におりましたのに気付かないなどと失態でございます…。


「ムソンルージ様。この度は大変お世話になりました。そして改めてあなたにもお詫び申し上げます。本当に…」

おや? 気配が通常に戻りましたな。もしかして、気配を薄くするような魔法をおかけになったのかもしれませんな。

リューエア様は私に頭をお下げになりました。袖はグィグィとユリ様に引っ張られたままでございます。


半年ぶりに見るリューエア様は、痩せて尖ったお顔をされておいででした。

リューエア様は現在15歳。成長期なのに、このご様子に私は心配してしまいます。

「リューエア様。その件は、私にはもう謝罪なさらなくて構いません。それに今、リューエア様のご心情をお察しした動きがございます。このパーティにも、だからこそリューリア様にも出ていただくのです。それよりもリューエア様、きちんと食事を取られておられますか? どうぞここのお食事もお召し上がりくださいね。あまり自分を追い込まれますと、ユリ様が心配されますよ。あなたの方がユリ様に支えられてどうされるのです?」

私の言葉に、リューエア様は目を伏せ、少し遠慮した笑みを浮かべられました。

「お言葉、ありがとうございます」


「ちょっと、リュー、私、先に行ってケーキ食べてるから」

ユリ様は私たちの間に流れる静かな気配を読まれたのか、リューエア様の袖をお放しになり、一人でケーキの並ぶテーブルに向かわれました。


私たちはそのお姿を目で追いました。すると案の定、たちまちのうちにユリ様は、周りの男性たちから声をかけられ始めました。

まぁ、そうなりましょうなぁ。


ユリ様は、戦地の女神として大変有名になられた方です。

ユリ様ご自身は、あれは単純なハッタリで単なるパフォーマンスだ、とおっしゃっているご様子ですが、しかし実際ハッタリだったとしても、ユリ様は鎌で風をおこし、敵陣の侵攻の速度を遅くするのに大いに貢献されました。敵がスピードを重要視した今回の戦争で、とても大きな功績となっています。また、その威風堂々としたお姿を兵に見せることで、士気を高められたのです。それだけでも周囲の評価が高いのです。


そして、まだお若くお年頃で、基本的にニコニコ笑顔を振りまかれるお美しい方です。さりげなく周りの空気を読み、その場に合わせて動くこともできる事を、私たちはすでに知っております。

つまり、ユリ様の人気は、王子をしのぐほどに高くなっているのでございます。


なので、まぁ、ユリ様がパーティで一人で動かれますと、次々にダンスに誘われたり話しかけられたりされますのは、当然のことでございますなぁ…。


「リューエア様、ユリ様のお傍におられなくて宜しいのですか?」

私は、動揺したお顔でユリ様とその周りを取り囲む男性方を見つめるリューエア様にお尋ねいたしました。


「……」

リューエア様は少しだけ迷われるように瞳を揺らされましたが、すぐに私に一礼を取られ、ユリ様の後を追って行かれました。

「ユリナ…!」


ユリ様は、リューエア様が来られたことに気づかれて、少し嬉しそうに笑まれました。


うむうむ。私は一人で頷いてしまいました。

あのお二人は仲良くてなによりでございます。

リューエア様がご状況や年齢差から少し気弱になっておられますが、ユリ様にはそれも可愛く好ましいのかもしれませんなぁ。


さて。ユリ様にリューエア様がこのようにおられるということは…。

カエデ様ももうおられるはずです。どこにおられるのでしょうか。


会場に目を配りますと、壁際に立っておられるのを発見いたしました。


おや、エルファンド王子が。カエデ様のところに向かわれましたな。


うむうむ。そうですか。ならば爺は見守らせていただきましょう。

…と思いましたら、カエデ様と私、目が合ってしまいました。


カエデ様は泣きそうなお顔になり、私を見つめて来られます。

王子も気づいて私をご覧になります。


では、私も王子とカエデ様の元に参る事にいたしましょうか。


***


「セバっ、ちゃん、うえー…」

私が近くに参りますと、すでにカエデ様は泣き始めておいででした。


カ、カエデ様!


王子は、カエデ様の頭を撫でて慰め始められました。

おや、なんでしょうな、そのスキンシップ具合。

まぁ、『憩いの水球』奪還で行動を共にされましたから。すでにまた打ち解けられたのでしょう…。それは良い事でございました。


未だ顔をグシャっと崩して私を見つめてお泣きになるカエデ様に、私はお声をかけました。

王子はまだ大切そうにカエデ様の頭を撫でて落ち着かせようとしておいでです。

「カエデ様。お久しぶりでございますなぁ…爺は、ずっとお会いしたいと思っておりました。お会いできて本当に嬉しく思います」


私の言葉を聞いたカエデ様は、余計にお顔を崩されました。

「うぇー、セバっちゃんー、ぅうー」


ボロボロ涙を落として、自分の涙を指で払おうとなさいますが、とても追いつける涙の量ではございません。

「カエデ、これを」

王子が見かねてハンカチを差し出されます。


カエデ様は涙のように声もポロポロこぼしながら、そのハンカチを受け取られます。

そして、そのハンカチを広げると、顔全体を覆ってしまわれました。

広げられたハンカチには、目と思われる部分から涙でシミが広がっていきます。


カエデ様、カエデ様。爺にはカエデ様のお顔が全く見えません。

それに、私まで涙が出てしまいますぞ。


王子は、柔らかい表情をしてカエデ様の頭を軽くポンポンと叩かれます。

それから私の様子をチラと目に留め、私の様子に仕方なさそうに苦笑なさいました。


やっと、またこうやってお会いできましたなぁ。

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