サウンド
私の中に入ってくる音はいつだって真っ直ぐに突き刺さってきた。
幼稚園の時の記憶で残っているものが3つある。
1つは病院の匂い。
まだ幼かった私はそれを“病院の匂い”として覚えていたけれど、きっとそれは
消毒と薬とそれから、いろんな人たちの雰囲気が入り混じって感じたものなんだと思う。
2つ目は心臓の音。
ある日、狭い病室でお医者さんに聴診器をつけてもらった。
医者「おとうさんの心臓、もしもししてみる?」
母「まぁ、そんなこと良いんですか?」
医者「えぇ、どうぞどうぞ。」
医者「おとうさんの心臓、どんな音がした?」
私「ドキ…ドキ…っていってる!」
医者「じゃあ、こっちはどうかな?
おとうさんと同じ音かな?」
私「ちがう!トキ…トキ…っていってる!」
医者「あ、よくわかったね!おとなのひとの心臓の音と、こどもの心臓の音はちがうんだよ。」
3つ目は母の顔。
あんな顔を見たのはきっと、あれが最初で最後のことだと思う。
幼稚園から帰ってきて、その日は母の仕事も休みで、
夕ご飯を食べて、2人してダラダラとテレビを見ていた。
母の携帯が鳴った。
会話の内容は聞こえないし、聞いたとしても子供の私には分からないだろう。
そう感じていた。
でも、それは違った。
母の顔が一変した。
それは、何か助けを求めているかのようで、
何故か焦っているようで、
そして、泣きそうだった。
そこからの記憶は覚えていない。
あの日について、覚えているのは母の顔だけだ。
あれから12年が経った。
あの日から、私は変わってしまったのかもしれない。
どこにでもありそうな、ありきたりなことがきっかけで
私の性格も、将来も、変わった気がする。
左手首のあたりを押さえて、血の流れを感じ取る。
ドキドキか、トキトキか。
「多分、トキトキだ。」
最後に笑いながら呟いた。
もう住み慣れた1人きりの家に赤い黒い血が飛んだ。
不思議なことに音は何も聞こえなかった。
初めてお話を書いた、ということもあり、読みづらい点も多々あったと思います。
でも、読んでくださってありがとうございました!