タイムリミットの四十八時間
こうして、事件の取り調べは一段落着いた。
警察の取り調べ事情について、一般人はどれくらい知っているのだろうか。
ざっと挙げても犯人が捕まってからの行き先は三つある。留置所、拘置所、刑務所である。もちろん、刑務所に入るのは、最後有罪が決まってからだ。留置所と拘置所は警察署内にある。簡単に区別すれば留置場は逮捕した被疑者を捜査や取り調べのために警察署においておくための場所で、拘置所の方は裁判中に刑が決まるまで住むことになる場所だ。本堂慶介は犯人として捕まったわけではないが凶器から指紋がでてすぐに留置場にいれられた。留置場に被疑者を入れておくには期限がある。
四十八時間だ。
四十八時間後には送検と言って、警察は被疑者を検察に送ることになる。なにか理由がない限りこれは変わらない。そして大変なのは本堂慶介と直に関わったことのある人間には彼を留置場に入れておくのもやむ負えないことのように思えるが、第三者が見たらただの人権侵害で、事実そうなのだからどうしようもないということだ。拘置所の役人も少しは本堂慶介という人間を知っているようだけれど、警察が人権侵害を堂々と見せてきたら、多分彼らはこちらを訴えるだろう。それぐらいには自分の正義感と現在の地位は惜しいはずだ。
だから本堂慶介は波風を立たないように、なんの問題にもならないうちに、言い逃れができるうちに留置所から解放される。どうするべきかもわからないし、解放されることはいいことのはずなのに、そもそも前提である本堂慶介を捜査の正当性の確立のために閉じ込めるという状況が腹立たしいために、納得いかない。警察陣に覚悟が足りないと思ってしまう。
それはそれとして、時刻は夕方五時過ぎ、冴部紗日和の家を出て直帰を許可された私は時計を見つめていた。
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事件発生から三日後の夕刻、本堂慶介が任意の事情聴取という取り調べを受け始めてから、四十八時間たったとき、留置場の扉が開いた。
「証拠がゴルフバットの指紋だけのままだからな。しゃばへ戻れ」
「ふむ。今回は聴取の延長はなしか」
顔見知りの留置官は頷く。
「今回は殺人事件と規模がでかいわりに、ラッキーだったな」
「不幸中の幸いかな。でも正直一度でいいから聴取でかつ丼を食べてみたいな」
留置管は残念なものを目にしたような眼をする。
「いや、常連さんだから知ってると思っていたんだが、前の日に頼んでくれりゃあお前さんの自腹で次の日の昼はかつ丼でもなんでも好きなもん食えるぞ」
本堂慶介は驚愕のあまり口を開けた。