プロローグ
残酷な描写は一応、です。
露骨な部分はないので安心して読んでください。
・プロローグ
散々な最後だ。
朦朧とする意識の中で僕は自分の今までの人生を振り返った。思えば、誰かに頼ったおぼえがない。自分の気持ちを偽り隠し、好きなものひとつ言えなかった。逆にそれに向かって悪意ある言葉を吐いたものだ。…そうでなければ、とても安心できなかった。
自分の好きなものを知られるということは自分の弱点を晒すことのように思われた。だからなのだろう。こんな結末を迎えてしまったのは。
頭から血が流れているのがもう分からない。痛みもない。ただ、どこか遠くのほうへ意識が落ちようとしている。
・
何もかもがいい条件過ぎた。
三部屋+ダイニング、キッチン、お風呂もトイレもあって、家賃は二万円だ。俗に言う、三LDKだよ。あ。なら相当な僻地なんだろう、友人に自慢してみたらそういっていたが、僕は鼻で笑ったね。都心の一等地に立つマンションの最上階だ。歩いて三分のところにはコンビにもある。文句なしさ。・・・いや、その条件にはさすがにぼくも驚いたんだよ、九条君。しかし、彼らもプロだった。きちんとぼくにも分かる格安の理由を作ってくれていたんだよ、彼らは。つまりだね、その部屋のベランダのフェンスにはダサい看板がでかでかと掛っていたんだよ。彼らはこういった。この看板をつけるのはこの土地を譲ってもらう条件だった。当初はそこまで邪魔な条件ではないと思って承諾したが、この看板があっては嫌だと入居者がつかない。そこで、値段を安くしているのだと。ぼくがその場で契約を交わしたのも仕方のないことだとは思わないかい?
頭が痛い? それはきっと風邪だろう。
そうかい、昨日連絡をもらってからずっとか。
・・・きみも大変なんだな。
それで、まあ本題だ。
他ならぬきみに頼みがある。
この事件の真犯人を捕まえてくれないかなぁ。
わたしは本堂慶介に警察署のガラス越しにこう頼まれたのだった。
本堂慶介について知る者は一様に彼についてこういうだろう。
・・・週一の迷探偵と。
面会室を出たところに、高そうなスーツを着た男がいた。
こぎれいな身なりをした彼は、綺麗な歯を見せて笑い、手を上げる。
「やあ、九条さん。相変わらずお美しいですね」
頭痛が増したような気がして、私は彼を避けて通り過ぎようとした。しかし池澤もなれたものである。あっさりとその行く手を阻んだ。
「こんにちは」
「・・・エリート刑事さんが、所轄の私に一体何の御用ですか?」
「まさか! 用がなければ、ぼくはあなたの美貌を拝めないとでも言うのですか?」
「当然です」
こういったからかいに全然慣れない私が生真面目に返すと池澤はわざとらしいため息を吐いた。
「知らなかった。きみが所轄に行っても愛していけると思っていたが、障害はここからもう既に始まっているのか」
「まず、わたしのことを気にかけていただかなくて結構です」
「そうはいかない。ぼくは君という大変有能な部下を失って、毎日とても悲しんでいる。食事も満足にのどを通らない。これは恋の病だな」
「・・・夏ばてですね。最近、暑くなってきましたから」
「・・・きみ、慶介に似てきたかい?」
「わたしに週に一回、必ず事件にぶち当たる性質があるのかどうかは判断しかねます。現職の刑事なんで」
体質か性質かが事件を引き付けているかどうかは判断がつかない。
しいて言えば、本堂慶介に出会ってから私が関わる事件は少し質が変わっただろうか。
「そう。それで今回はなんなんだい?」
「彼、本堂慶介は殺人事件の重要参考人です」
わたしは幾分重苦しい声になって、そう口にしたのだった。
こんにちは。雨羽と申します。
この作品は本当はもっと別の作品になる予定で書いていた「何もかもが良い条件過ぎた」からの四行から生まれたものです。
私もこのように違った作品になったことは驚きです。
一応、テーマはお菓子と森だったのですが、森はいったいいつ出てくるのやら・・・((;'∀')汗)
2014年3月2日のオールジャンル同人即売会Nichi Market ニチマーケット参加予定です。
当日は小説の新作を発表したいと思います。
ぜひ、お越しいただければいいなと思います。
詳細は決まり次第ご報告予定です。