最後のプレゼント
12月24日、午後11時。
古いアパートの一室で、美咲は小さなクリスマスツリーに灯りをともした。百円ショップで買った安物だが、暗い部屋では十分きれいに見える。
ベッドの上には、丁寧に包装された小さな箱が一つ。
「今年も来てくれるかな」
美咲は誰にともなく呟いた。
五年前のクリスマスイブ。当時付き合っていた恋人の拓也が、交通事故で亡くなった。彼女に会いに行く途中、雪道でスリップした車に轢かれて。ポケットには、美咲へのクリスマスプレゼントが入っていた。
それ以来、毎年クリスマスイブの夜になると、拓也が訪ねてくる。
ドアベルは鳴らない。ノックの音もしない。気がつくと、彼はそこにいる。生前と変わらない笑顔で、「メリークリスマス」と言ってくれる。
最初は怖かった。でも今は、この日だけを楽しみに一年を過ごしている。
午前0時。
空気が冷たくなった。息が白く見える。
「来てくれたんだね」
美咲が振り向くと、拓也が窓際に立っていた。いつもの優しい表情で。
「メリークリスマス、美咲」
「メリークリスマス。今年もプレゼント、用意したよ」
美咲はベッドの上の箱を差し出した。拓也は嬉しそうに受け取ったが、すぐに寂しげな表情になった。
「美咲、俺、もう来られないかもしれない」
「え?」
「君が前に進めないから、俺はここに留まってる。でもそれじゃダメなんだ。君は生きなきゃいけない。新しい恋をして、笑って、幸せにならなきゃ」
美咲の目から涙がこぼれた。
「でも、私…あなたしか…」
「嘘だよ。君は優しいから、俺のために自分を縛ってるだけだ」拓也は微笑んだ。「職場の田中さん、いい人じゃないか。君のこと、ずっと気にかけてくれてる」
美咲は驚いて顔を上げた。そういえば、最近よく声をかけてくれる同僚がいる。優しくて、真面目で。
「俺が君にあげたかった最後のプレゼントは、これだよ」
拓也は美咲の頬に触れた。冷たいけれど、確かにそこにある温もり。
「『幸せになっていいよ』っていう、許可。もう俺のことは忘れて。思い出にしていいから」
「忘れられないよ…」
「忘れなくていい。でも、過去に生きないで。前を向いて」
拓也の姿が薄くなっていく。
「ありがとう、美咲。君を愛せて、本当に幸せだった」
「私も…私も愛してる」
拓也は最後に笑顔を見せて、消えた。
部屋に残された美咲は、しばらく泣き続けた。そして、ふと気づく。
ベッドの上の箱が、開いている。
中には、五年前に拓也が彼女に贈るはずだった指輪が入っていた。そして、手紙。
『美咲へ。君と結婚したかった。でもそれが叶わないなら、せめて君には幸せになってほしい。誰かいい人を見つけて、笑顔でいてください。それが、僕の一番の願いです。愛してる。拓也』
美咲は胸に手を当てた。痛い。でも、何か温かいものも感じる。
翌朝、美咲は田中に電話をした。
「あの…もしよかったら、コーヒーでも飲みに行きませんか」
電話の向こうで、田中の嬉しそうな声が聞こえた。
窓の外は、静かに雪が降り始めていた。




