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怖い部屋 ー見慣れた空間に潜む恐怖と謎の短編集ー  作者: 深水 紗夜


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最後のトリック・オア・トリート

日付が変わる直前、ハロウィンの仮装をしたカイトは、迷子の少女ミサを伴って古い住宅街をさまよっていた。ミサはぼろぼろの天使の仮装をしており、手に提げたバケツは空っぽだった。

「ごめんね、ミサちゃん。もうほとんどの家が電気を消しちゃったみたいだ」カイトはため息をついた。

「ううん…あの家…」ミサが指差した先にあったのは、街の端に立つ、異様に大きな黒い屋敷だった。窓は全て閉じられ、庭には枯れた蔦が絡みつき、まるでゴーストそのもののようだった。

「あそこは…ちょっと怖いけど、行ってみる?」

ミサはこくりと頷き、カイトの手を引いて屋敷の重い鉄門をくぐった。

玄関の扉をノックすると、ゆっくりと扉が開き、そこには何の仮装もしていない、白髪の老婦人が立っていた。彼女の顔は蝋のように白く、目に感情がなかった。

「…トリック・オア・トリート」カイトはかすれた声で言った。

老婦人は表情を変えず、ただ奥を指差した。「さあ、お入り。お菓子はもう、**『あの部屋』**にしかないのよ」

不気味な案内に、カイトは不安を覚えたが、ミサの目を輝かせた顔を見て、後には引けなかった。

屋敷の中は、家具がほとんどなく、寒々としていた。老婦人は二階の廊下を指し示し、再び言った。

「一番奥の部屋よ。絶対に、二人で入って、一人で出てきてね」

その言葉の不気味さに、カイトは鳥肌が立った。

二人は二階の廊下を進んだ。廊下の壁には、一枚の大きな油絵が飾られていた。そこには、老婦人と同じ顔の女性と、彼女に寄り添う幼い少女が描かれていた。少女の顔は、なぜかミサの顔によく似ていた。

廊下の一番奥、扉には何も書かれていなかったが、微かに甘い匂いが漏れていた。

「お菓子だ…!」ミサがバケツを抱え、扉を開けた。

部屋の中は、再び予想外だった。そこには、大量のカラフルなキャンディの山と、一つの小さな鍵が置かれたテーブルがあるだけ。そして、部屋の隅に、もう一つの扉があった。

「やったー!」ミサはキャンディの山に飛びつき、一心不乱にバケツに詰め始めた。

カイトは不安を感じながらも、テーブルの上の鍵を手に取った。それは古びた真鍮製で、何かの箱を開けるためのもののようだった。

「カイト、早く!向こうの部屋にもお菓子があるかも!」ミサが指差すのは、部屋の隅にあるもう一つの扉。

カイトは頷き、その扉を開けた。中には、薄暗い空間と、三つの木箱が置かれていた。

「これだ!」カイトは手に持った真鍮の鍵を、一番大きな木箱に差し込んだ。鍵はぴったりと合い、箱が開いた。

箱の中には、キャンディではなく、古い日記帳が入っていた。カイトは急いでページをめくった。それは、廊下の絵に描かれていた少女の母親、つまり老婦人の若かりし頃の日記のようだった。

*「10月31日、娘のミサが迷子になった。どうしても見つからない。この屋敷の周りの森で、**『甘いもの』*に引き寄せられて…」

「どうしても、ミサを一人にしたくない。永遠のトリック・オア・トリートをさせる方法を見つけた。必要なのは、『純粋な仮装』と、『開けるべき鍵』、そして*『犠牲者』**」*

カイトの心臓が早鐘を打った。ミサ。そして、彼女のぼろぼろの天使の仮装。

カイトは急いで最後のページを読んだ。

「『あの部屋』に客が来たら、娘を解放する。ただし、客が『娘の望むもの』を与えてから。娘は永遠にお菓子を探し続ける…そして、新しい『お菓子』に化けて、一人で外に出る。可哀想な犠牲者。私の娘を、また一人にしてしまうなんて」

「ミサ!大変だ!」カイトは振り返って叫んだ。

しかし、部屋には誰もいなかった。カイトがいた扉の向こう、キャンディの山があった最初の部屋は、もはや空っぽだった。

代わりに、カイトが最初に開けて入ってきた玄関側の扉が、わずかに開いているのが見えた。

カイトは気づいた。

「絶対に、二人で入って、一人で出てきてね」

老婦人が言った「あの部屋」とは、屋敷全体のことだったのだ。

ミサがカイトから離れ、一人で外に出るという「望むもの」を、カイトが別の部屋の扉を開けている間に叶えてしまった。

カイトは狂ったように階段を駆け下り、玄関の扉に手をかけた。外に出れば、ミサがいるはずだ。

しかし、扉の隙間から、バケツを持った少女の小さな足が、ゆっくりと遠ざかっていくのが見えた。

「ミサ!待って!」カイトが扉を開けようとすると、扉の内側のノブに、小さな紙が挟まっているのを見つけた。

それは、ミサが持っていたものと同じ、ぼろぼろの紙片だった。走り書きで、こう書かれていた。

「おにいちゃん、バケツが空っぽになっちゃったから、あたらしいキャンディをもらいに行くね。トリック・オア・トリート!」

そして、その紙切れの甘い匂いが、カイトの鼻腔を突いた。

カイトが最後に見たのは、廊下の油絵だった。描かれていたミサによく似た少女の顔が、わずかに、そして不気味に、カイトの顔に変わっていた。

そして、玄関の扉は、音もなく閉まった。

今夜も、屋敷の「あの部屋」には、新しいキャンディが一つ、補充されたのだった。





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気づかないうちに、誰かがすでにあなたの部屋に潜んでいるかもしれません。

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