パーティールーム13
ハロウィンの夜、私と親友の美咲は廃ビルの最上階にいた。
ここは昔、パーティー会場として使われていた場所だ。今は誰も使わない。理由は簡単。10年前のハロウィン、ここでパーティー中に13人が行方不明になったから。
「本当にやるの?13号室の儀式」
美咲が囁く。彼女はジャック・オ・ランタンの小さなランタンを持っている。オレンジ色の光が、彼女の魔女帽子を不気味に照らしていた。
「せっかくのハロウィンだしね」
薄汚れた廊下を歩く。1号室、2号室…12号室。
そして、その先に。
13号室のドアは、真っ黒に塗られていた。ドアノブは錆びついた鉄製で、人の手の形をしている。まるで本物の手が、ドアに埋め込まれているように。
「儀式のルール、覚えてる?」美咲が確認する。
「午前0時に、かぼちゃの灯りを持って13号室に入る。そして13人分の名前を呼ぶ。最後に自分の名前を言えば…」
「10年前に消えた人たちに会える」美咲が続けた。「そして、一つだけ願いが叶う」
時計が0時を指す。
ランタンの炎が、風もないのに激しく揺れた。
手の形をしたドアノブが、ゆっくりと動いた。自分で。
ギィ…
ドアが開く。
中は真っ暗だった。でも、奇妙なことに気づく。
部屋の奥に、13個の椅子が円形に並んでいる。そして各椅子には、ハロウィンの仮装をした人形が座っていた。
いや、人形じゃない。
よく見ると、それは本物の人間だった。ただ、微動だにしない。呼吸もしていない。まるで時間が止まっているように。
「これ…10年前の…」
美咲の声が震える。
人形たちは全員、こちらを見ている。目だけが、ゆっくりと私たちを追う。
「始めよう」
なぜか私はそう言っていた。まるで何かに操られているように。
ランタンを床の中央に置く。炎が緑色に変わった。
「一人目、佐藤健太」
私が名前を呼ぶと、椅子に座った一人の口が、わずかに開いた。
「二人目、田中美穂」
また一人の口が開く。中から黒い霧が漏れ出す。
「三人目、鈴木…」
名前を呼ぶたびに、部屋の空気が重くなる。13人の口から溢れる黒い霧が、部屋を満たしていく。
「十二人目、山田裕子」
あと一人。
その時、気づいた。
円形に並んだ椅子は、実は14脚あった。
一つだけ、空席がある。
そして、その椅子の背もたれに、私の名前が彫られていた。
「美咲…これ…」
振り返ると、美咲がいない。
代わりに、彼女がいた場所に、古びた黒いローブを着た何かが立っていた。フードの影に顔はない。ただ、骨のような白い手が、空席を指さしている。
「最後の名前を呼べ」
かすれた声が響く。それは何千もの声が重なったような、おぞましい音だった。
「そうすれば、お前の願いを叶えてやろう」
私の口が、勝手に動く。
「十三人目…」
違う。これを言ったら終わりだ。でも声が止まらない。
「…美咲」
その瞬間、円形の椅子の一つが動いた。
そこに座っていたのは、美咲だった。さっきまでの美咲と同じ、魔女の帽子を被った姿で。でも彼女は微動だにせず、ただこちらを見ている。
目だけを動かして。
黒いローブの存在が笑った。
「さあ、最後の名前だ。自分の名前を呼べ。そうすれば、願いが叶う」
空席が、私を待っている。
部屋の壁に、古い文字が浮かび上がった。血のような赤い色で。
「ハロウィンの夜、魂の収穫。13人揃えば永遠に、14人目は次の語り部」
椅子に座った13人が、同時に口を開いた。
「座れ」「座れ」「座れ」
何千もの声が重なり、耳を塞ぎたくなる。
私の足が動く。空席に向かって。
「ダメ!」
美咲の声が聞こえた。でも彼女の口は動いていない。声は頭の中に直接響いている。
「あなたが座ったら、私たちは永遠にここに…!逃げて!まだ自分の名前を言ってない!」
あと三歩。二歩。一歩。
椅子の座面に、私の名前が浮かび上がる。まるで待っていたように。
黒いローブの存在が、私の肩に手を置いた。
氷のように冷たい。
「さあ、名前を」
私の口が開く。
「最後の名前…」
ランタンの炎が、一瞬激しく燃え上がった。
その光が、壁の落書きを照らす。
子供の字で、こう書かれていた。
「10年前、ここで友達に名前を呼ばれた。僕は逃げた。でも友達が代わりに座った。ごめん。でも、次は君の番だ」
私の体が、椅子に沈む。
「…私の名前は…」
気がつくと、私は13号室の椅子に座っていた。
体が動かない。呼吸もできない。でも意識ははっきりしている。
目だけが動く。
ドアが開いた。
二人の高校生が入ってくる。一人は悪魔の角をつけている。もう一人はかぼちゃのランタンを持っている。
「すごい…本当に13人いる…」
「儀式、やってみようよ」
違う。ダメだ。逃げろ。
でも私の口は動かない。
彼らがランタンを床に置く。炎が緑色に変わる。
「一人目、佐藤健太」
私の隣の男性の口が、わずかに開く。
「二人目、田中美穂…」
また始まった。
永遠に繰り返される、ハロウィンの儀式。
13人を集める。14人目が来る。14人目が座る。そして新しい13人になる。
いつか、美咲の番が来る。
いつか、私も解放される。
でも、その時には何人が…
窓の外を見る。
街は、今日もハロウィンを祝っている。
笑い声が聞こえる。
まもなく、新しい獲物が来る。
翌朝、二人の高校生が行方不明になったというニュースが流れた。
最後に目撃されたのは、廃ビルに向かうところだったという。
その日の夜、13号室に新しい椅子が二つ増えた。
15脚目と16脚目。
部屋は拡張し続ける。
ハロウィンが来るたびに。
もうすぐ、あなたの名前が彫られた椅子も、用意されるだろう。
読んでいただき、本当にありがとうございます。
もしこの物語が心に残ったなら、どうかブックマークや高評価をお願いします。
感想ひとことでもいただけたら嬉しいです。
あなたの声は、この恐怖を次へと繋ぐ鍵になります。
そして覚えていてくださいーーあなたが今いるその部屋も、いつか物語の舞台になるかもしれないことを。
気づかないうちに、誰かがすでにあなたの部屋に潜んでいるかもしれません。




