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女神さまの贈り物

「ナッツていうな! って輪って何?」

「突っ込みをしなければいけない種族?」

しれっとポポが訪ねた。

「いや、そうじゃないけど…」

「場を和ましてくれるのはうれしいね」

「そ、そういうことを言うな」

菜月は、頬を真っ赤にしてうつむいた。

ポポは、楽しそうに笑みをこぼし「輪」について話した。


『輪』は魔法陣を指している。

今回は、召喚の魔法陣だが、契約している精霊などに助けに来てもらいたいわけではなく、強制的に連れてくるための魔方陣になる。そのため、術者が多いほど不安定になりやすいというデメリットが生じている。いわゆる波長が合うか合わないかというものだが、多少の揺れは魔法陣が緩和するのだが、さすがに精度が求められる異世界召喚では安定と融和も求められる。

実のところ強制的に引っ張ってくる一瞬があれば召喚が可能になる。

ただそのタイミングも、精度も調整できない者たちの召喚の儀では、魔法陣が成立する場所も位置も予定外のところに発生することがある。術者のマナの操作力にゆだねられる頭の痛い課題の一つになっているが、ラディウムにおいて神聖力をつかう者にですら知られていない。

いまのところ、それが偶然によるものだということに、誰も気づいていないのが実情だ。

一定のマナが注ぎこまれれば魔法陣は発生する。それが巻き込みだ。

その輪は残存するマナによっても発生する。

その最後の発生がサレスの神殿で起きることは解っていた。

予知とかの類ではなく、魔法陣の発生場所に対する欠陥指示によって。

「欠陥って…」

「魔法陣は、場所、時間、規模が指定されている。召喚場所は城というのは変わらないけれど」

ポポは欠伸をした。

「ここから、クソみたいなイグレイン王家の城に飛ぶっていうこと?」

「そう」

「どうして」

「地上で生きるのに都合がいいから」

「でも」

「巻き込まれ召喚であれ、無碍にすることはない。それどころか、大事に扱われるから」

サラスは少しだけ微笑んだ。

「だから、ここにきて」

サラスは、水盤の中を指さした。

そこには金色の光の線が描かれていた。

「まじ?」

「最後まで、ごめんね」

サラスは、にっこりとほほ笑んだ。


チャッポッ。

「つめた」

菜月は、その氷水のような冷たさに足を引きそうになった。

その刹那に、「魔法陣の外に出ているものは召喚されないからね」とサラスが注意をこぼす。

「こ、怖いこと言わないで」

覚悟を決めて菜月は魔法陣の上に立った。

「ってなにも起きないけど」

「もう少しかかるかな。で、その間に付与するものを」

「えっ?あ、チート能力?」

「……もう少し言い方」

「違うの?」

「違わないけど、あ『ステータスオープン』って」

「ステータスオープン?」

菜月の前にウインドウが現れた。半透明なそれは他の人からは見えない。はずだ。

「それをカードに転写する能力が聖女にはあるの。いまの聖女ルシアナ・イグレインにも、それだけはある。それほどマナを消費するものでもないんだけど、息を切らせるくらい、鍛錬していない」

サラスは、呆れ顔でいう。

「最初に付与しておくのは『隠密』。あなたには自由に過ごしてほしいから、画面をスライドさせた2枚目に出てくる項目から職業ステータスを庶民に変えて」

「うんって…隠密はいつくれるの?」

「あ、ごめん、3枚目にうつしておいて」

サラスは手をかざし、「トレバック」と唱えた。

菜月のステータス画面に『隠密』の文字が浮かび上がった。

「隠密をタッチして、2枚目に戻って、職業ステータスに触って、思い浮かべるだけでいいよ」

という感じで菜月は召喚が始まるまでの間サラスに説明を受けた。


菜月の足元が輝きだした。

「必要なマナが揃ったみたいね」

「あ、うん、神殿や教会に行って私の像に手を合わせて、そうすればまた会えるから」

「ありがとう、ってそれだけ」

「ほかに何かある?」

「容姿を変えるとかは?」

「かわいいのに、気になる?」

「コンプレックスは少ない方がいい」

「…もぅ、贅沢」

「4つしか付与できなかったくせに」

「え。6つはあるでしょ」

「言語理解と読み書きは基本でしょ、付与に入れない!」

「厳しい、で、何がコンプレックス?」

「あ~スタイル。あともう少し美人に」

「ざっくり過ぎ」

サラスは苦笑しながら、ラディウムで宿る肉体の調整を始めた。

「気を付けてね。あと、体の調整は間に合わなかったら後免、想像しておいて自分の姿」

サラスの話が最後まで届いたのかはわからないが、菜月の姿は消えた。


「なぁ」

「ん?」

サラスは寂しげな笑みでぽぽを見た。

「説明してないけど良かったの?」

「え?」

「ここで元の世界の魄の修復を待つのもいけるって

「あっ」

「過酷な運命を自由という言葉にした?」

ぽぽに言われて、サラスは、青ざめながらも首をフリフリする。

「世界の真理といわれる叡智の本、星空の本棚は神聖力の使い手がいないと機能しない。誰かを頼れば間違いなく拘束されるから、内緒にするようにも」

「ど、どうしよう」

サラスは、オロオロとしながらポポの頭を振り回した。

「そ、そもそも、与えた全魔法属性、全武具属性、料理、創造の使い方はどうするつもりだった?」

「え~、創造は元からもっていたじゃない」

「異世界では使っていないから知らないだろうに、もぅ」

ぽぽは噴水に向かて走り出した。

魔法陣が消える前にその光の中に飛び込む。

「あ、ナッツが元の世界に戻るまでこっちに戻れなくなるのに、もぅ、誰に似たんだか」

サラスは、腰に手を当ててフンと鼻を鳴らした。

少し寂しくなるけど、水鏡を使って菜月の冒険を眺めておこう。とガゼボの中に戻っていった。


それにしても、職業カテゴリー『person』とは。

すぐに『隠密』に上書きされたそれは、菜月自身気にも留めていなかった。

それが何を意味するのか、いまはまだ判らない。

それが何を意味するのかは、どこの言語なのかは

……まぁ、楽しみにしましょう……。

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