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女神さまの憂鬱…

こほん。

「それはさておき」

「何を」と菜月はため息をついた。

「…一応、神さまなんだけど」

「知ってますよ。そう説明されましたから」

「冷たい。!。つん、ですね」

「…話、すすめて」

菜月は、頭を抱えながら苦笑をこぼした。

(この女神さま…寂しいのかしら)

サラスは、クスッと笑みをこぼしてから、ガゼボの脇ある噴水の方へと足を向けた。

急にまじめな空気をまとうサラスを追いかけるように菜月はポポの背に手をかけて立ち上がった。

「本当は、もっとゆっくり説明したいところなんだけど――正直、何の準備もできてないの」

「いまさら? って、準備して召喚させるの?」

「そうね。準備なく神託はできない。それ、そのことに適応していない人を召喚させることも、転生させることも無駄にエネルギーを使うから。」

サラスは、水盤の縁に腰を掛けた。その脇を水がこぼれていく。

ただサラスの顔は浮かない。寂しげというか悲しげな表情をしている。

「…本来は神殿だけが神託を授けられていたのに」


「ラディウムにある王家は信仰を忘れたんだ」

「えっ?」

ポポが、菜月の足にすり寄るのようにしながら呟いた。

「厳密には総てではないけど、肝心の王族の多くは信仰を軽んじた」

「…そうなんだ」

「本来―—

ポポは、欠伸をこぼしながら話し始めた。

ラディウムは、惑星ほしの約六割を海が占める星。

大小七つの大陸があり、その中でも最大の大陸を治めるのが、イグレイン王家だった。

数代前の女神との盟約により大陸の平定と平和をもたらした。

ただ、人同士の争いの下で新たな種族が生まれることになる。

それが魔族。魔化した人種族が始まりだ。

平定は、支配ではない。パワーバランスがもたらす一時の平和だ。

それに気が付いた先々代の女神が魔族に対する力関係を保つために異世界からの力を召喚することを考え付いた。そこには色々な制約がある。それを無くしては無法地帯になる。

——でも、それを諸刃の剣にしたのも、イグレオン王家だ」

「諸刃?」

「勇者を召喚すればいい」

「えっ…相手のことは考えないの?」

「?」

「勇者は事が終われば帰れるの? 召喚だから? 転生したら?」

「はは…菜月は賢いね」

「…バカにしている?」

「いや、気にしないところは……それだよ」

ポポは、サラスの足元まで行き振り返った。

「条件がそろえば戻れる。それが菜月の聞きたい答えだよ」

「…よかった」

菜月の頬を一筋の雫が流れる。

「ただ、転生は、こちらではなく元の世界の条件がそろう必要がある」

「えっ」

「肉体構成は、魄が宿るものが必要なんだ。その魄は、一つの魂にひとつ」

そこで、ポポは、言葉を区切った。その先をいうか迷っている。でも、いまはそんな暇はない。

サラスを見上げた。


サラスはため息をついてから菜月をみた。

ポポのした話を拾うように少し考えるような間をおいた。

「ラディウムにはいくつもの信仰があるの」

「うん、だと思う」

「その大本になるのは、私」

「えっ?」

「何よ」

「えっ、だって、ぽぽが代代わりしたような話をしたし」

「あまり、そこで話を止める異世界人っていないよね。自分に関係ないし」

「…いや、こんなに長々と説明したの?」

「まさか。異世界へようこそ。あなたは私の世界に召喚もしくは転生します。あなたが私の世界で生きていくために必要な能力を与えます。何が必要ですか?という感じかな」

「面倒くさそう」

「あ、わかってくれる?」


しばらくサラスのグタグタとした話を聞いてから菜月は「時間が足りないんだよね」と止めた。

「あ、うん、そう…えっと」

サラスは、空を見上げながら記憶を探った。

「ねむくなってきた」

ポポは、大きなあくびをして、その場にポテンと寝そべった。

菜月は、いいコンビね、と眺めながらサラスの話を思い返していた。


王家からは共存という考えがいつの間にか薄れていた。

命の遣り取りをした結果、残る禍根は存在する。それは永続的に続く敵意であるわけではない。

ただ、それをそうしか考えられない者もいる。

何代か前の王はそうだったのだろう。

確かに魔族は人を襲う。でも、人以外も襲う。生きるために。

人も生きるために、魔族を排除という言葉の下で命を奪う。

その是非はそれぞれの人の教示にゆだねられることだ。

相手を恨むなと言いたい。

相手の種族を恨むなとは言わない。

それは分かったとしても気持ちが受け入れられない。

それが原因で戦いは、続き、力の均衡が崩れた。

王家は、伝承に基づく移世界召喚を行い。均衡を保つことに成功した。

以降、困れば繰り返される異世界召喚は、マナ不足も含め様々な要因で転生を引き超すことになる。

つまり、元の世界での死が巻き起こされる悲劇が普通に起きていた。

自分たちの都合だけで償還される異界の民は便利の良いコマにされ始め、自分たちの既得権益を守るために使われるようになる。伝承が廃れ、エネルギーの循環が崩れていることにも気づかずに。

そして、矛先は神殿へと向いた。

戦わない後方支援だけの者たちに対する前線で命を賭す者たちの反発も相まった。

多くの命が時代に紡がれたことで、神聖力は神殿だけのものではなくなった。

水が静かに漏れ流れていく中で川になるように、一般の人たちの中からもその力をもって生まれることがおき、冒険者というカテゴリーも生まれた。

その結果、王家の神聖力は薄れ、ついには神託を受ける機会も、よほどエネルギー効率が良くないと不能になった。


――つまり、正しいことを伝える手段が消え、適当に行われる異界との流通を監視して準備をしてきた」

菜月はため息をつきながら至った結論を口にした。

この手の話は正直嫌いだ。自分勝手で虫唾が走る。

「うん、本来は、ナッツのことを調べて、必要なものを準備するの」

「それができなかったのは、ポポが巻き込まれて、私の世界に来たから」

「そう」

「えっ、まてまて、俺のせい?」

ぽぽは、慌てた様子で菜月とサラスの顔を交互に何度も見た。

「それが一番おさまるかと」

「納めないで、菜月」

「あ、ナッツって言うな!」

「…さて、そろそろ、最後の輪が巡る…急ぐから決めて」

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