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女神さまのそわそわ

「で、どうするつもりだ?」

ポポは、ため息をつきながら、お腹にもたれ掛かって吐息を立てている菜月を見た。

正直、召喚ルートに乗せるのには時間がぎりぎりだ。

いくら人の世と神の世では時間の流れを調整できるとはいえ、菜月がこの世界に来る前の時間まで戻せるわけではない。そもそも存在すらないのに無理だ。

「どうしよう」

「起こすしかないけど…」

「けど?」

「魔法絶対防御は、攻撃魔法だけではなく治癒魔法も跳ね返したりしない?」

「…ちょっとは…する」

サラスは、舌をチョロと出して可愛い子ぶってみる。

ふだんやんちゃなポポが明らかにイラっとしているのが伝わってくる。

こういうときは、余計なことはあまり言わないほうが得策だった。

時々、私が飼い主なのに、と突っ込みたくなるが…

「でも、まぁ、できることをしよう」

「それはいいが、何を焦っている?」

「あ、それは、召喚ルートに乗せたほうがナッツのために良いかな?って」

「ナッツ?」

「かわいくない?」

「……それで」

ポポは、菜月に冷や汗を舐め拭いながらサラスに話を進めろという感じにフンと顎を使う。


サラスは、その場に胡坐をかいて座り、菜月をみた。

考えてもいれば、急いでいたとはいえ、膨大の知識をスキルとして送り込むのはミスだ。

魔法使い、魔導士、賢者、聖者へとヴァージョンアップしていくジョブ特性にもかかわらず、いきなり賢者や聖者がようやく習得できるだろう『世界の真理』を与えてしまった。

大丈夫だろうか。大丈夫であってほしい。いや、いまなら…

サラスは、呼吸を落ち着けて、菜月の頭に手をかざした。

「レイエ」

サラスの翳した手のひらから、菜月に光の粒が小雨のように降り注ぐ。

ゆっくりとその光の雫が菜月の体を包んでいく。

水が肌に当たり、跳ね返るように、いくつかの光の雫が床におちていく。

若干ポポにも吸湿されているようだ。

ゆっくりと、光が菜月に吸収されていく。

荷重によりできていた打ち身のようなあざが消えていく。

その様子にポポはほっと安堵のため息を漏らした。


菜月は、真っ白なというよりは光のあふれている世界にいた。

床は水浸しというのだろうか。自分が立っている場所を中心に波紋が広がっている。

頭が痛い。体が痛い——身体は、筋肉痛のような痛みが広がっている。

いま、どうなっているのだろう…

光の雨が降り始めた。

いくつは肌にあたり…

(な、なんで裸…ってここどこ?)

弾かれて足元にこぼれていく光の雫。

菜月は、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、意識を自分の内側に向けた。

呼吸を整えて、心音と呼吸を重ねていく。

自分の中に広がる音が鼓動だけに代わり、流れていく血流を感じ取るように意識をする。

自分の中心から循環していくエネルギーを感じ取ることで、いま自分に起きている身体的問題に気付くことができる。と、まぁ、これは武術の心得上の問題だが、鍛錬すれば、肉体の不調は感知することができる。

って、何をすれば全身の筋肉が悲鳴を上げるのだろうか。

原因は、女神さまが唱えた知らない言葉…だろうか。


「止めたほうがいいみたいだよ」

ポポは、瞑想状態に入りかけたサラスに声をかけた。

「なに?」

「魔法使いか…というほど、マナの使い方がうまい」

「えっ?」

「始まる」

ポポは、顎で菜月の方を見ろとサラスに示した。

ゆっくりと菜月の身体は浮かびあがる。光の粒子のベッドに眠るように。

「ポ、ポポさん…これって」

「マナの活性化…7つのチャクラのうち…どこを…」

ポポは言いかけて唖然とした。


チャクラ、体の中でエネルギーが集まる場所は人それぞれだ。

場所により優位に働く場所があるが、それを超越するポイントが心中線に沿ったポイントだ。

それは、エネルギーを効率よく使えるだけではなく、調和の取れている状態を表している。

魔術を使う者は、魔力と総称されるエネルギーを自身のエネルギーと結合させることでマナを生み出し、それを使うことで魔法と呼ばれるものを駆使する存在になれる。

簡単に言えば、自身のエネルギーだけでは魔法は成り立たない。

そもそも強大な攻撃力を放つ攻撃魔法のエネルギーがその身体にとどまっているのなら、何かの拍子に爆散してもおかしくないことになる。

本来、魔法は、行使者の外にあるエネルギーを取り込むことに始まる。その取り込むポイントは、お臍のあたり、第3チャクラと呼ばれる部分にあたるマニプラが一般的になっている。どこでどうなってそうなったかは知らないが、その部分を意識して取り込むように諸先輩たちが指導するせいだ。

もともと、人がエネルギーを取り込む地場的なポイントは7か所あるとされているチャクラだ。すでに眉唾的な扱いを受けているために、適切に取り扱われていないのがラディウムにおける現状ともいえる。

ついでになるが、その状態をサラスは気にも留めていない。神である彼女には当たり前すぎて…

そんな事実は置いておくとして、体内にチャクラを通じて取り込まれた魔力は体内を循環させることで高濃度高純度のマナへと変換される。この変換率が高い人ほど、魔力が高いと勘違いされている。

もちろん、エネルギー転換が行えるようになるまで鍛錬が必要とされている。


それを菜月は眠ったままに取り込みと循環を始めていた。

そして、マナとしてチャクラに定着させていく。それも複数の場所に。

「第5階層…かな?」

サラスは苦笑しながらポポに尋ねた。

「笑いごとじゃないけど…」

菜月の心中線上に存在するチャックラ。その第1、第3、第5、第6に光が集っている。

一般的に1つのエネルギー集積場所が4つ。

「これって…間に合わない?」

「…何を焦っている?」

「地上に降りたら、私たちが手を貸すわけにはいかないからね。召喚されたら、城にいる間に、生きるすべくらい教えるでしょ」

「あの王家が?」

「……少なくとも勇者が欲しいタイミングなら」

サラスは諦めに似た笑みをこぼし、ポポの頭を撫でた。

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