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女神さまのえこひいき

菜月は、苦笑しながら立ち上がった。

「それだけ?」

「何がですか?」

「隠し事ある気がして」

「……そうですね」

「あるんだ」

「はい」

「教えてくれないの?」

「知らない方がいいこともたくさんありますよ」

サラスは、どこか遠くを眺めるようにして言葉を零した。

憂いがある。正直、ルール違反に近い。

神という立場故に許されるとはいえ、思量深く対応する必要がある。

特別なことをしてしまったから、特別にならないように思量深く伝える必要がある。

得意ではないけれど…


「そうね」

「えっ? ちょっと」

「なに?」

「聞き分けが良すぎませんか?」

「話す気あるんだ」

菜月は、ニヤリと笑った。サラスの性格的なものが何となくわかった気がする。

話したいものを勿体ぶっているのだろう。そして簡単に折れる。

「まぁ話していないと色々と問題がありますから」

「逆に聞きたくないかな」

「まぁ聞かせますけど」

サラスは、ガゼボから出ると菜月を手招きして呼んだ。

菜月は、明らかに仕方ないなという表情で応じ、サレスに呼ばれるままに庭へと出た。

「あなたが、元の世界に戻れるかは、五分です」

「…結構あるんだね」

「えっ?」

菜月の返しにサラスは呆気にとられた。

「五分、ってのはさ」

菜月は鼻をかいて、空を見上げる。

「戻れなくなる可能性…戻れるかもしれない可能性」

サラスのまばたきが、一瞬だけ止まった。

「……どこで気づいたんですか?」

「転生って使ったから」

菜月は、ふっと笑みを零した。何処か憂いのあるその笑みは15歳の少女にしては落ち着いていた。

それなりの覚悟というのだろうか。できれば気付きたくは無かった。

そんな空気を護っている。

サラスは申し訳の無い気持ちで一杯になった。

菜月が元の世界に戻れるかは五分の確立しかない。

それもサラスがどうすることもできない事象が絡んでいる。

そして、サラスと旧知の仲である菜月の世界の神にもどうすることもできない事象。

神は自分が管理する世界の命を救命することができない。

いま、魄の治癒が進んでいるとはいえ、その肉体に魂が戻れる可能性は5分。時間の経過とともにその確率は下がる。そして、肉体を持たない魂は、刻一刻と寿命を消費している。

「深刻そうですよ。サラス」

「あ、気になっていることをひとつ」

「何?」

「目上の者を呼び捨てにしないように教わらなかったの?」

「えっ?」

「えっ?じゃなくて」

菜月は、サラスを頭のてっぺんからつま先まで見て一言「うそでしょ?」と。

「まって…少なくとも見かけ上でも」

「いやいや…同じくらいにしか見えないよ」

菜月は苦笑した。神の年齢と見かけの年齢。詐欺だな、と。

「そ、それは兎も角として、どうします?」

「話の進め方…雑」

「いや時間がね」

「えっ?」

「とりあえず…どうします?」

「どうって」

「転生するのなら、いまだけ…」

「なに?」

「大人の事情?」

「大人の事情?というか…マナの事情です」

新しい言葉がでてくることに戸惑うこと自体が馬鹿らしくなる。

知らなければ学ぶしかない。

知ることが喜びになるとは限らないけれど、新しいは『愉しい』。

「あっ、これは特別ですよ」

サラスは、静かに両手を握り合わし、その場に膝を付いた。

その姿に菜月は、”綺麗”と感じながら息を呑んだ。

一瞬にして静寂がその場を包むとき、(この人、本当に神さまなんだ…)と考えたのは内緒。

急に菜月の周りが闇につつまれる。

「えっ、えっ?」

「アルビル」

それは、ラディウムの古語で『万物の真理』という言葉。


【それ…いいのか】

慌ててポポが立ち上がってサラスをみた。

【特別です】

【って、もし耐えられなかったらどうするの】

【あっ、止めましょうか】

【無詠唱で発動宣言したら遅いだろう】


菜月は、光溢れる空間にいた。

闇が自分に向かって収束してきているのを感じる。

身の危険を感じて逃げ出すにも動いた分だけ闇の中心が動いた。

「な、なに一体…女神さま! 黒猫!」

叫んでも誰も現れない。

ドキドキと騒ぐ胸の音が、急にゆっくりにかわる。

どきん、どきんと強く心臓を叩くように。

怖い。

そこが自分の精神世界であることを菜月が知る術もないが…

闇が一気に自分お腹に流れ込んでくる。息が詰まる様な苦しさにおぼれたような錯覚を感じる。

闇を自分の中に取り込みきる寸前、掌に乗った闇が何かを語り掛けてくるような気がした。

漠然と黒い煙と感じていたその闇が文字であるようなものだと気付いた。

「これ…って」


菜月は、ガゼボの上で宙に浮いていた。

「あっ、やばくない?」

サラスは、ぽぽを見た。

「魂壊れないことを祈るしか」

「あ…『ルア・ラキシプ』」

「って、考えなしに、また」

「え~~」

サラスは指をくわえながら菜月を見た。

色のついた風が、菜月に向かって飛んでいく。それは強化の風。

七色の風は菜月の周りを、まるで品定めするように回った後に菜月の中へと飛び込んでいく。

ばりっ。びりっ。

高校の制服の裾から飛び込む風に引き裂かれるように破れていく音がする。

「サ、サラス」

「えっ?…だ、だって」

「おい!」

ポポは、慌てて菜月の落下点に丸まるようにして飛び込んだ。

ぼすっ!

「大丈夫?」

「気を失っているよ」

ぽぽは、ため息交じりにいう。

サラスは、神としては能力が高い。

美、芸、水、智、武を司る。いわゆる万能系。

ただ、もう一考えが足りない。先代が甘やかしたせいだと、ポポは溜息をついた。

「あ~あ」

問題は、菜月の魂と仮染めの肉体が無事かどうかだ。

サラスが使ったのは、スキルを付与する魔法。それも神級の永続魔法。

菜月のために良かれと思って与えたのは万物の知識を集約するアルビル。

賢者になれるだろう者が最後に得ることのできる『万物の辞書』。

その莫大な情報量は、ラディウムにおいて最大級。新しい発見もすぐに付与される。

何の予備知識もなくこのスキルを習得させれば精神崩壊してもおかしくないだけではなく、魂自体に影響を及ぼす可能性もある。最悪、四散するとも…

パニック状態で追加付与した強化魔法『ラキシブ』は、個別付与する強化魔法だ。

強化する内容にあわせて、肉体、腕力、魔力、防御、ダメージ軽減、魔力消費軽減などを与えられる。

その最上級付与が『ルア』。全ての付与魔法を一度にかけることが可能だ。ただし、肉体や精神御準備が整っていないとダメージを受けることがある。

端的に言えば廃人になる可能性もある危険度最高のものだ。

ぽぽは、自分の腹の上で吐息を立てる菜月に安堵しつつも、見えない内側が大丈夫か気になっていた。

その横でサラスがそわそわとうろつきまわっていた。


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