第39話 ホントに…罠ですか…
ポポはナツキの肩で周りを警戒するように首を動かした。
正直なところ、『最悪の状況』という言葉が合いそうな環境にいる。
広さにして、草野球ができそうなグランド2面分といったところだ。ギリギリ四方の壁が見えている。
北と南側にある壁に通路らしい影がある。南側、後ろは、少し前に降りてきた階段だ。
そこを駆け上がれば外に出ることができる。それだけで生存率は上がるだろう。
それなのに、起きていることに気を削がれて佇んでいる者から順に命を散らしていっている。
横で命が散るたびに。悲鳴が上がる。
腰を抜かしたようにその場に座り込む者もいる。
【おい】
ポポがナツキに念話で話しかけるのは、このB1フロアのいたるところで起きている爆発のせいで声が聞こえないからだった。それにしても、軽快に炎が走り、稲妻が駆け巡るものだ。何かのイベントですれば完成間違いないような気がする。
【何?】
【チビども逃げてないぞ】
【気になる?】
【誰が】
【………悪ぶっても…ね】
ナツキは苦笑を漏らした。
フロアにいるパーティは12~15といったところだろう。
編成は一般的に4名程度で組まれることが多いらしいので、固まっていなければ……
ナツキを含め最後にダンジョンに入った組は、いわゆるおこぼれ組になるはずだった。
先陣を切って進んでいくパーティが取りこぼした魔石やコイン。宝箱を回収していくのを目的にしている。そのため、戦闘力は低め…だけであればいいのだが、経験値も低ければ、生きて帰れる確率は著しく低くなる。その生存率を低くするのが、恐怖に動けなくなる現象だった。
【行ってあげてくれたらうれしいな】
【ちっ…仕方ねぇな…特別だからな】
ポポは、ナツキの肩を蹴って南へと向かって駆け出した。
ナツキは「素直じゃないね」とこぼしてから、その場でトントンと軽くステップを踏んだ。
周辺の気配を探りながら、北に向かって駆け出した。
この時点でフロアに仕掛けられている魔法陣は無視することにしたのは助けるべきものがあるからだ。
冒険者は常に自己責任が付きまとう。
生きるも死ぬも…とはいえ、あたら能力不足を理由散ればいいというものでもない。
知っているのなら、可能なら、助けるのも、冒険者としての在り方として間違えていないだろう。
それに知らないを理由に、最後を迂闊だったと後悔したところで何も始まらない。
ジーンとシーナがいてくれたら、もう少しどうにかできるかもしれないけれど…
無いものねだりをしたい。本当に。
いくつかの断末魔と悲鳴を聞かないようにしてナツキは階段を駆け下りた。
このダンジョンは幾つものパーティが攻略している。
攻略されれば、マップは変わり、ときには難易度が上がるようになっている。
だからこそ、ギルドはダンジョンを管理しているのだが…それでも何かを仕掛けられることがある。
これはダンジョンの特性を理解していれば誰でも可能な罠ともいえる。
ただ魔法陣を仕掛けるという類は、個人の悪戯の範疇では無理だろう。
まぁポータルを仕掛けられたのなら人の手には負えないと文句を言うべき先は変わるのだが…
B2フロアに降りてナツキはため息を吐いた。
何度か攻略した時には、B3フロアまではマップは同じだった。
攻略者がいれば変化するとはいえ、そこにはルールらしきものが存在している。
それが変わるのは、定められた回数をクリアしたときらしい。
(つまり……段階…レベルが変わった、ということね)
ルールが変わると、攻略者に求められるレベルも引き上げられる。
(さて…と)
広がるのは幅4m程度の一本道。
その両側の壁も床もブロック作り。
天井だけが岩肌があらわになっている。
先行しているパーティの死体らしきものは見えない。
ここから推察できるのは、先行しているパーティレベルで攻略ができるということ。
魔物を倒した痕跡も消えているところからすれば、再生の初期段階に入ったことを意味している。
ダンジョンは、一定の時間が過ぎると元の状態に戻ることになっている。
その時に再生されるのは、モンスターの数と罠、宝箱の数程度。
攻略されない限り、マップは変わらない。そして、攻略されても階層数は変わらない。
厄介というか面倒なのは、魔物は倒しても際限なく現れるということだ。
(こっちの命は有限だけど、あいつらはリスポーン無限っというわけになる)
倒れた冒険者の遺体は、その場に残される。
持っていたアイテムごと、回収されるまでひっそりと横たわる。
まるで、次の攻略者に対する警告のように。
冒険者は異物故に死ねばその場に屍を残すことになる。持っている荷物とともに…
そして、魔法陣も異物になるのだろう。
もっとも、このダンジョンに仕掛けられている魔法陣は出口。
発動してはじめて存在するそれは異物にもならないのだろう。
そうやって考えれば、入口に当たるのはダンジョンの外だろうか。
ナツキは、少しだけ眉をしかめた。
都合のいい仕組みだけど……だからこそ、悪用もできる。
「…周りを気遣うゆとりはなさそうね」
ナツキは静かに呟いた。皮肉でもなければ怒りでもない。ただ、他に言葉が見つからなかった。
ベリアルは、ルシアナが満足げに不気味な笑みをこぼして去っていく背を見送った。
混沌とした空間に立たされて、あらためて問いたくなる。
このルシアナという女、ほんとうに『聖女』なのか?
教会は一体、何を基準に聖女を選んでいるのだろう。
聖魔法が使えること? そんなの、この世界では珍しくもない気がする。
どちらにしても、異世界から召喚されたという勇者を気の毒に思ってしまう。
聖女様はあたかも自身には神の加護があるかのように口にするが、闇に触れればそこにいる神は、神でも邪神になるとは思っていないのだろうか。どれほど清い心があろうとも、ひとつの闇が心に宿れば、その闇は世界を侵食することになる。それが自然の摂理だというものなのに。
(そんなことを俺が気にかけるまでもないか…俺は、地獄とやらにしかいかないのだから…)
ベリアルは、ルシアナの気配が消えてからその部屋を後にした。
不要になったのなら諦めもつくが、不都合な存在と見なされれば暗殺者を仕掛けてくるだろう。
できる限り余計な衝突は避けておきたい。顔見知りもいることだし。
ルシアナとの距離が開くにつれ、ベリアルを遠巻きに囲む気配がひとつまたひとつと消えていく。
今回ばかりは、闇の部分に触れたようだ。
楽しむにしても、命あっての物種だが…
(それにしても…聖女のまとう空気がどす黒くなっていることに…教会は気付かないのか)
ポポは、ダンジョンの外に3組のパーティを引き連れて出ていた。
「ありがとう、お姉さんのところに戻ってあげて」
少年のお礼にポポは首を傾げた。
(お姉さん…誰のことだ…まぁ、それよりも)
ポポはダンジョンの入り口に目を向けた。
もう一度入るのは、面倒くさいと思っている。どうしよう…
まぁナツキのことだどうにかするだろう。
「えっ…いかないの?」
少年が唖然としてつぶやき、ポポはニヤリと笑って見せた。
どうやらナツキは過小評価されているらしい。
あれはあれでモンスターの類の強さを持ち合わせている。
一歩間違えれば魔王にでもなれるというのに…人というのは他人を都合よく見るらしい。
基本的に 火曜日更新の のんびり進んでいきます。
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アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。
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