第37話 経験値は見えないって…
ポポは、ナツキの2歩ほど後ろにさがって身構えた。
ポポの範囲から瞬殺できるだろう魔法陣…つまり魔物の入り口は2つ。いずれも壁面と床面に接している場所に仕掛けられている。よほど注意深く見ない限りに気付かないだろう。いや発動しないと気付かない冒険者のほうが多いはずだ。これは、罠に対するスキルがあればいいというわけではない。無くても、ナツキのように属性と感覚で違和感を感じ取って気付く者もいるが…。つくづく理を無視した存在だ。
何よりも問題があるのは、見張りのパーティとおこぼれ狙いの声を掛けてきたパーティだ。
さすがにナツキのスキルを隠し通せないだろう。
実に面倒なことをしてくれる。
ここにレオンがいればどうにかなるのだろうが…
この悪意にナツキが冷静に対処してくれるのを祈るしかない。
どうせ仕掛けてきた相手は「証拠は…」と騒ぐのだろう。それ以外にできることもないくせに。
どうすればいいのか…どうするべきなのか…課題は山積だ。というよりも神獣たる自分が考えるべきことではない。人の世の理は人の世で処理すべき…というと睨まれそうな気がする。
【で、どうする?】
【できることは…?】
【魔法人を消す】
【被害は?】
【こっちにはない】
ナツキは振り返りポポを睨んだ。
本当に16歳か…コイツ……
とため息をつきたくなる。ナツキが言いたいことはわかる。
こっちに被害はない。つまり、どこかに被害が出る。ということは軽はずみに魔方陣を壊せない。
出口があるということは入り口がある。
片側だけが壊れてくれればいいが、通常、つながっていれば、それなりに向こうに被害が生まれる。考えられるのは、時空間のはざまに閉じ込められる…といいたいが、それは本当にコンマ00の世界だ。それ以上の被害は、誘爆。
残念なことに、魔法陣の出口を示す部分を書き換えることは出口ではできない。できるのは魔法陣の書かれている場所を消し去ること。簡単に言えば正確な座標をなくすことだけだった。それだけで魔法陣は安定しなくなり暴発や誘爆を引き起こす。よくて発動しなくなる。
出口で何かをすれば、その反動は遠く離れた入口でおきる。
少し前までこの事実は知られていなかった。ポポたち神に寄り添う側でも。
これも召喚者を呼ぶ弊害なのかもしれない…と思ったところでポポは頭を振った。俺の関知すべきところではない、と。そもそもさらすのペットたる俺が何故、苦労させられているんだ。
ナツキの口が動く。『あ・り・が・と・う』と。
テレパシーを使えばいいものを、それを天然でやってのけ、照れ臭そうに笑う。
ほんと、面倒な転生召喚者だ。
ポポは、周りを見ながら魔法陣の発動を待つことにした。
とりあえず、新米すぎる冒険者くらいは守れるだろう、と。
「首尾はどうですか?」
聖女ルシアナはベランダにつながる窓の横に寄りかかり呟いた。
ベランダの陰に潜みマントでその顔を隠している男が「上々かと」と答える。
この男は、ルシアナの子飼いの暗殺者だ。
もともと、王族親衛隊に付随する暗部に所属していたのだが、とある作戦の中で彼は失敗し処罰をされるときにルシアナに助けられたことでルシアナに従っている。もちろん、命を助けられたくらいで従う必要などない。隷属の腕輪がなければすぐにでもルシアナを殺して逃亡する程度の技量はある。
ただ、隷属の腕輪がなくても、ルシアナに従っただろう。
彼にとってルシアナは面白い。
王家の暗殺部隊として、入念な下調べをもって暗殺しているよりも、思い付きで下される馬鹿げた命令に従うほうがスリルもあって楽しかった。何よりもベリアルは亡き姉と同じ名の聖女を気に入っていた。
聖女と呼ぶには、いささか問題はあるからこそだが…。
ベリアルはいくつかの暗殺をしてきていた。その事実は国王もレオン皇太子も知らない。
聖女として、奇跡というものを起こすのに必要な手段のひとつとして行われたのだから、すべては秘密のうちに。そして、知るものは、聖女と自分だけだった。
気ままに他人の命を危険にさらす聖女も、成長とともに賢くはなったようだ。
最悪のときが訪れるとして、ベリアルは逃げる算段としてルシアナの命令を残していた。
最初は言葉だったものが、字を覚えて紙に書くようになった。報酬を出すことで人が従うということをまねた。対象以外のものを巻き込むことでターゲットをぼかすことを覚えた。それらは物証として置いてある。ただ、幼き頃の…と全ての責任をベリアルに押し付ける可能性は否めなかった。
それ以上の証拠は、口頭伝令だけとなり、なかなかつかませない。
どちらにしても、ただ利用されるだけで終わるつもりはない。
王家の暗部にあるだろう秘密を知るためには何でもしてやる。と、心変わりをしていることすら、ルシアナはしらない。今回のスタンビートもどきが原因になるなど努々思っていないだろう。
ベリアルの姉は、魔術部隊に所属をしていた影の一人だ。数年前、隣国のダンジョンでスタンビートを起こさせた部隊だった。姉の役割も当然のように暗殺者だ。魔術部隊の中で裏切り者…主にとっての邪魔をする存在があれば処分するために潜り込んでいた。むろん、魔術の実力があってこそだが…。
そこでひとつの事故が発動する。
隣国の勇者は、スタンビートをダンジョンごと破壊するという暴挙にでた。
それができる規模のダンジョンでもあったが、これがきっかけで覚醒したともいわれている事件だった。
その陰で、スタンビートと思わせる仕掛けを作った王族魔術部隊は半壊することになる。
成果を確認するために仕掛けた魔方陣が暴発するのに巻き込まれて。
そこに姉がいた。
姉が死んだ時、同じように誰かの命令を守っていた。
魔法陣を監視しなければいけないような稚拙な作戦。もしかしたら、数年前は、それが最適だったのかもしれない。ただ、そこにいる魔術師たちの安全性は担保されていなかっただけだ。まるで使い捨てのように…。だとしたら、あの世とらで安らげるように、その原因を…。




