Sクラス冒険者ですが、なにか?
「ねぇ、菜月…アイテムボックスに生き物入れられないの知っている?」
ジーンは、面倒そうに縛り上げた男をシーナと共に馬車の荷台に乗せた。
「………」
「何、初めて聞きましたみたいな顔になっているの」
ジーンは、苦笑する。
アイテムボックスは、空間魔法のひとつだ。
時空間に任意の空間を生み出すことで、荷物を入れる場所を確保する冒険者にとってはありがたい魔法だ。
とはいえ、誰もが使えるわけでは無い。
空間魔法を使うには特性が必要だ。時空に関連する魔法の…。
その発動条件は、実は多岐に渡っている。だから、適性が無いと思われている人でも使えることがある。
ジーンは、複数特性の持ち主だ。魔法属性の基本となる地水火風空光闇聖邪の魔法を扱うことができる。
とはいえ、特性的には火と風になる。得意と言い換えても良いかもしれない。
魔法の原則は相反する力が使えないことにあるが、理を知れば相反する力を自身の中に内在させることができれば……理屈の上で使用することができる。ただ、特性に相反する力を使うときに消費されるマナは必要以上ともいわれている。いわゆる弊害だ。
その上で、ジーンは空間魔法を扱うことができる。
それもそこそこの広さが確保できている。
そこには食べ物を収納することができる。保存食や取れたてのものも。
時間の経過が、止まった?と確認したくなるほどにゆっくりとなっている。明確に解明はされていない。
考えておくべき点は「時間の経過を感じない」という点だった。
時間が止まっているのなら、怪我人を乗せるのに効果的かもしれない。重さの概念からも離れている。
空間に避難させて、近隣の町や村、治療できるところに向かうのが一番効率的た。
だが、そんな便利な空間魔法にもできない事がある。
きっと唯一といえる欠点。それは、命あるものを収納空間に取り込もうとすると、拒絶される。
それが空間魔法の“原則”のように伝えられるのは。命を収納する結果を出した者がいないからだ。
案外、菜月のような無知がそれを成すのかもしれないが――怖くて言えたものではない。
「そういえば、レオンとは進展ないの?」
シーナが何かを思い出したように尋ねた。
ジーンもシーナも王宮付の騎士を辞していた。
理由は色々あるが、菜月が冒険者として町へと降りるのに、城を出るのについてきた。
それなのに、菜月とパーティを組んでいるわけでは無い。
ただ一緒の依頼を受ける臨時パーティや同行者として共にすることは多い。
まだ一人にできないほど、菜月は天然だ。その能力を惜しみなく使う。
悪い事ではない。でも、それは、そのスキルを狙うものからすれば格好の獲物だ。
禁忌の魔法の中には気するコピーすることができる物がある。
そしてそれを付与することもできる。
劣化版ではあるが、そこそこの水準で同レベルの魔法威力を発する。
ただ、菜月の魔法はコピーができない事をジーンもシーナも知らない。
そもそも…菜月の魔法と似た魔法は既に存在する。違う名前で。
魔法は名付けられた瞬間からその名前の下でしか発動できなくなる。
それなのに類似品を持ち合わせているのが菜月になる。
これは魔法構築上の理屈の問題に過ぎない。菜月の魔法は、異世界の言語で構築されている。
単純に、異世界の日本という国からきた召喚者であれば同じものが使える。そして、ここに名前が一つという理が成り立つことになる。いまだ菜月が魔法生成で困っていないのは、同じ発想や同じ名前の名前が存在していないだけに過ぎない。
「進展も何も」と菜月は肩をすくめて言う。
レオンは、勇者の旅立った後、魔族戦闘の最前線ともいわれる西の地に赴任している。
聖女ルシアナによる嫌がらせという噂が王宮にはあるが、あながちそれも間違いではないだろう。
勇者が旅立って以降、追従したはずのルシアナはすぐに戻った。
彼女はその動向を軽んじていた。
勇者が魔王討伐に行くのだから、自分がそこに居なくても問題はないだろう、と。
ただ聖女という立場が勇者から離れたことで問題となっていることを知るのは少し後になった。
勇者パーティを離れた時期とダンジョンの攻略の成功率が低下した時期が一致するためだ。
これはただの偶然に過ぎない。勇者が功を急くために起きた必然。
怪我をすれば、高額な治療薬ポーションも必要になる。その資金繰りは、ギルドの依頼達成率低下とともに困難になるのも必然だった。王女がいるからこそ、優先されていた高額薬剤の提供は、その存在がいなくなれば低下する。自分たちの力で攻略が成立しているつもりであった幸太郎にすれば、ダンジョンの深度を進めることも問題が無いという勘違いが発生する。そこにも失敗の伏線が張られている。
そして、間が悪いというか聖女の力、スキルについても勘違いがある地区だった。
聖女は治癒魔法にたけている。他の者がするよりも精度の高い治癒魔法を繰り出すことができる、と。
残念ながら、それは幻想にすぎない。とりあえず今代の正常については…
結果、国防を担うのは冒険者と親衛隊、騎士団となった。
ただ、王都での問題はそれに尽きない。
王女が戻った理由が明らかにされていない。
風の噂で届く程度の討伐話はあるが、それの信憑性も妖しいとされている。
何処までいっても勇者パーティの成果が感じられない以上、ルシアナがとった行動は民に対する不安感鹿生み出していなかった。
その不満を少しでも緩和するために、レオンの蒼き騎士団が前線へと駆り出されている。
奇しくも半年ほど前の話、菜月が城を出た直後の話だった。
「ちょっとはいい感じになればいいのに」
シーナは、へらッと笑いながら言う。
「あら…いいの?幼馴染を私がとってもいいの?」
「と、とれるものなら」
「あんなこと言っているよジーン」
「ね、泣き出す癖に」
「ちょ、ちょっと」
いつもの日常が今日も終わる。この後はギルドによって以来の終了を伝えて報酬を受け取る。
そのままギルドで一杯して、まちょの居酒屋へと繰り出してから家に帰る。そんな変わらない日常をいまは満喫している。
問題があると言えば、今日は家で寝ているポポだ。子猫は小さな虎になっている。
もう少し大きくなったら乗れるかもしれない…




