冒険者
森の入り口付近。
ひとりの新人冒険者が、うずくまって泣きそうな顔をしていた。
「足、ひねったの? 動かせそう?」
菜月はその子の隣にしゃがみ込み、やさしく声をかけた。
「……薬草……全然集められなくて、ポーションも切れて……」
その子の目には涙が浮かんでいた。
ギルドの規定では、10歳から登録できる。
もちろん保護者の承諾や諸条件がある。けれど、そんな余裕がない子供も多い。特に貧民街に生まれたら――選べる道なんて最初からない。もちろん諸条件はある。
それでも、冒険者でなければ生きていけない人もいる。特に貧困街に生まれたら。
満足な教育もなければ、安全な仕事に就くこともできない。
多少の危険は織り込み済みで、冒険者家業に足を踏み入れる。
そんな小さな命を菜月は何度も見てきた。
才能があろうとも、そのスキルが開花するまでのタイムラグで命を落とすこともある。
誰もが、冒険者として生きているわけではないのも現実だ。
ギルドには初級冒険者向けの教室があるが、そこで悠長に通っている暇がある者はは少ない。
だからこそ、幼いながらに冒険者になっている。
彼もその一人だろう。周りに人がいないところを見ると単独アタックということになる。
戦闘を伴わない依頼は、単独アタックが認められている。そこに年齢制限はない。
少しだけ戦闘スキルは必要とされているが…
この一年、いくつものダンジョンに入ってきた。
多くの命が散るのも見てきた。
ダンジョンの魔物があふれ出すスタンピードも経験した。
当然ながら、いくつもの命が消えていくのを見てきた。
小説やゲームの世界で見られた命の保証はここにはない。
失われた命は、ここでは戻ってこない。
一度きりの命だからこそ、きらめきを燃やすことができるのだろう。
一攫千金を夢見る以上、それなりのリスクは背負うことになる。
単独で推奨されないダンジョン攻略やモンスター討伐も普通に存在する。
レオンに一定の制限を提案しても、それが現実化できないほどに貧困は王都の闇の中であふれている。
生きるために…それだけのために命を懸けている。
生かすために…命を懸ける者もいるのだろう。
自己責任というには、あまりにも過酷な背金を押し付けられている。
でも、助けることだけでは意味がない。
その先に続ける何かをみつけることができなければ、ただ延命をしただけに過ぎない。
この少年に至っても同じだろう。
助けることはできる。でも…
そこには「でも」が付きまとう。
いつも助けてもらえると限らない。
助けたふりをして搾取するものもいる。
騙すことも、騙されることも、どちらも罪だ。
無知という罪が、最後に対価を払わせるとき、そこに訪れるのは死だ。
それを気軽に理不尽と呼ぶ者もいる。
生きるための努力をしている者の苦悩にすら目を向けず、のうのうと嘯いて生きる者たち。
どこの世界にも理不尽を嘲笑う者たちがいる。努力も知らず、安全圏から石を投げるだけの存在。どこの世界にも、若さや無知を食い物にする者はいるのだ。
この少年の背とお腹にある傷がそれを知らせている。
だからといってどうすることもできない。
少年の腕についているのは『奴隷の印』。誰かの所有物ということになる。
菜月は、周囲を見渡した。
草むらから、大人の足が一本だけ飛び出している。
何があったのかは、衛兵の仕事か…と小さくため息をついた。
「あ、あのぅ、僕…」
菜月の視線に気づき、少年は、慌てて言い訳を探している。
素直に考えれば、この少年は、あの大人の死には関係していないだろう。
「落ち着いて…何があったか教えてくれる?」
少年は静かに頷いた。
「ヒーリング」
菜月が少年に手を翳すと、傷ついた個所に光の粒子が集まっていく。
「これで、君は大丈夫」
「…えっ?」
「あの人は知り合い?」
「一緒にぼ…」
少年の言葉を遮るように菜月と少年の間に弓矢が飛んできた。明らかに少年を狙った軌道で。
それを蚊でも叩き落すように菜月の手刀が動いた。
「トラブルあった?」
「…わ、わかんない」
「そう。走れるけど、ここで待っている?」
少年はいまにも泣きだしそうな表情で頷いた。
「さて、と」
菜月は、少年の元に戻ると、途中で積んできた薬草を少年に渡した。
「たりる?」
少年は、目を見開き驚きながらも何度も頷いた。
「とった薬草を見せてくれる?」
少年は、カバンの中に押し込んだ薬草を取り出した。
乱暴にいれていたせいかクシャクシャになっている。
それを菜月は受け取り、男の傍に転がていた空き瓶を少年に差し出し「もっていてくれる?」と。
「クリエーション」
菜月の声に反応するように薬草は光の球体に包まれた。
ふわりと浮かび上がる光の粒子が薬草と混ざり合い、淡い紫の液体を小瓶の中に注いでいく。
「ポーション。とりあえずこれを持っていて」
「……え? いま、目の前で……ポーションが……」
少年は、信じられないものを見るように、ぽかんと口を開けた
「帰るにしても、また何かあったら困るからね。でも、まっすぐに街に帰りなよ」
「あ、うん……ありがとう」
菜月は、少年の背を見送った。
「ちょっと、この荷物どうする気?」
ジーンが、菜月に託された大柄な男を縛り終え声をかけた。
「衛兵に声をかけるだけ」
「…連れて行かないのね」
「だって…重そうだし、臭そう」
「…その臭そうなの、私に拘束させるとか、ちょっとどういうつもりよ?」
「ジーンさんなら、平気かなって」
「はぁ…あんたって子は、もう……まぁいいけど、それにしても見事な手際ね」
「ん? 何が?」
「さっきの紫の液体」
「ああ~ポーションね」
「……もう一度」
「ポーション?」
「どうやって?」
「え、普通の錬金術……で?」
「ち、ちがうからね!」
後ろから追いついてきたシーナが、半ば呆れ顔で肩をすくめた。
「……菜月、また人の常識壊してるよ」
ここから書き足しにになっていきます 笑
ここまでは コラボ企画に乗る形で一気に
書きだしたので この先は気が向いたら
アドバイス 提案 いただけましたら
物語は厚みと幅が広がります 笑
火曜・金曜掲載を目指します




