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女神さまの間抜け?

謁見の間の扉を眺めながら、レオンは静かに目を閉じた。

すでに召喚は限界だ。するたびに臣下の信用を失うだけではなく、負担を強いられる神殿からの信用も失墜しそうになっている。

ルシアナのマナの無さはどうしようもないとして、聖女は別にいると秘密に探す程度の足掻きをしてほしいと思う。誰か任せになりすぎている。

王であるジンの頑なな言葉を、否定する術を持たない臣下たち。

勇者とまでいかなくても、何かしらの異能を持っていてくれればいいのだが。

ルシアナを巻き込んでまで続ける召喚は、限界に近づいている。

ルシアナのマナは…魔力というには乏しすぎる。神職の者も気付いているだろう。神聖力に至っては皆無という水準であると。

ふと視線をあげたその先、空気を割って光が揺れる。

召喚陣の名残が、まだ空間に薄く残っていた。

そこには先ほど、確かに霜山幸太郎が立っていた。

「……見誤るなよ、父上」

レオンはそう呟き、ほんの少しだけ拳を握った。

「導かれて…ここへ…その事実があれば…特殊能力の何かを持っているのだろう」

「そうであってほしいものです」

神官が置き去りにされた幸太郎の鞄を手にして呟いた。


気づけば、そこは――眩いほどの光に満たされた空間だった。

柔らかな金と銀の光が天井から降り注ぎ、空気そのものが揺らめいているように見える。

菜月は反射的に身構えた。

そして考えるより先に、息苦しさの原因を探る。たしか猫を抱いていた。メインクーンに似た漆黒の毛艶の猫――が、お腹の上、顔の上、全体重で押し倒すように乗っている。

(く、くるしいぃ)

どうにかしてその下から抜け出した菜月は、床にへたり込みながら周囲を見た。

床石は乳白色に淡く光り、踏むたびに波紋のような輝きが広がる。

壁の代わりに立つ光の柱は、星の残光のようにゆらめきながら天へと伸び、空間全体を緩やかに包み込んでいる。

素材すら分からない。でも、冷たくはなかった。不思議と、温かい。

頭上には高い天蓋。壁の代わりに、無数の光の柱が広がっていて、空間の輪郭をぼんやりと示している。

「ここ……神殿……?」

菜月は立ち上がり、周りを見渡した。

夢を見ているのだろうか。そういうことにしておきたい。

記憶が正しければ、古代ギリシア風の建物。神話の中で描かれる石の建造物。

で、光あふれる空間。

誰もいなくて、突然そこに居る。

異世界転生の定番?友人にオタク系女子がいてよかった、と胸をなでおろしたくなる。

何も知らな過ぎたら、あっけに取られて固まっていただろう。でも、夢であってほしい。

「あまり動じませんね。大抵の方はパニックを起こすんですけど」

「え、え~……そうなの?」

「あなたは――面白い方のようですね」

サラスは頬に手を添え、興味深げに菜月を眺めた。

「えっ?」

菜月は声のした方へと振り返った。

「えっ、え~~」

「な、なに?」

「綺麗!」

「…あ、うん、ありがとう」

「天使さんか」

「えっ、ううん、違うよ」

「女神様…とか?」

「まぁ」とサラスは微笑んだ。


【順応力高くない?】

ポポは、サラスの顔を見ながらテレパシーで確認する。

間違いなく助けられたのだから、文句を言う立場にはない。

とはいえあまりにも無防備に。ポポにすれば心配でしかない。

【そういうタイプ? そんなことより】

【なに?】

【呼び戻してくれてありがとう】

【どういしたしまして】

【それでどうするの?】

【……どうしましょう】

ポポはため息をつきながら、ふいっと菜月を見上げた。

菜月は、ふらりとフロアを見て回っている。完全に興味が勝っているようだ。


「それで?」

菜月は、ぽぽの背を撫でながらサラスの方を見た。

「状態を把握できていますか?」

「たぶん、助けて、トラックを交わせられなかった?」

サラスはクスッと笑った。

「おしい。交わしましたよ、反対車線の車も交わしました」

「たのしんでいない?」

「アクション映画を見ているように格好良かったですよ」

「それで、どうしてここに?」

「トラックを追い抜こうとしたバイクですが、あなたが交わした反対車線の車と接触して飛んできました」

「…痛そうなんだけど」

「一瞬で」

「うわぁ~、死因の説明が面倒くさそうにもきこえます…が」

「あ、それは少しだけ…過ぎちゃったことだし」

「痛くなかった?」

「私には、ちょっと…」

「役立たず?」

その一言にサラスは口をぽかんと開けて固まった。

「で、そろそろここが何処か教えて欲しい」

「えっ? ポポ?」

「俺は知らないよ」

ポポは菜月を見ながら首を振った。

自分には関係が無いとオロオロとしているのが伝わってくるんが可愛い。

それにしても、何処か隙だらけな…と菜月はサラスを観察するように見た。

何だろう、空手でどうにかできそうな気がする。殴ってみようかな。

サラスは、マナに向き直した。

コホンと咳払いをひとつ。

白銀の神が抜けていく風になびいて綺麗に輝く。

纏う衣は空気のように揺れている。

瞳は深海のように静かに、包み込むよな眼差しを向けている。

「ようこそ。あなたは、選ばれました」

柔らかく、響くような声が、静寂の中に落ちた。

菜月は、ただ――瞬きすら忘れて、立ち尽くしていた。

ってちょっと待って…絶対に選ばれてないよね…ねぇ――って声にならない。

それよりも、女神さまのしたわざと過ぎる棒読みに可愛いと苦笑をする。

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