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やんちゃな猫を助けたら、巻き込まれて異世界に来たけど、帰る条件が"恋"ってどういうことですか!?(まきこい!)  作者: 麒麟
第2章 勇者は召喚後がいそがしい

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ルシアナの憂鬱

シンは、ようやくの違和感に気付き侍女に銘じて替えの服を取りに行かせた。

「気付くのが遅れたとはいえ申し訳ないことをした。すぐに湯処も用意させよう」

(まともなことも言えるのね)

菜月は、鼻で笑いながらレオンの方を見た。

苦労の絶えない日々を送っているのだろう。と同情的に見てしまう。

【おい】

【どうしたの?】

【ゲートが閉まっている】

ぽぽに言われて、菜月は天井を見上げた。考えればそんなに高いところではなかった気がする。

空間が転移をした瞬間、足元には床があった。多分数センチの高さに出たはずだ。

自分の周りを光のループが上がっていくような光景だったはず。

で、次の瞬間大量の水に押しつぶされそうになった。事故レベルだと思うが、サラスの噴水の水とともに召喚させるのだからすごいものだと感じる。と、いうことではなく、召喚されたときのゲートが消えている。…魔法陣では無いのだろうか。

【『万物の理』を利用しよう、な】

ぽぽは呆れ顔で菜月の方を見上げて、すぐに顔を下に向けた。ずっとい肩の上に居たせいで下から見上げる危険性について考えていなかった。

【どうしたの? ポポ】

【別に】

そっけない返事の後、ぽぽは説明を始めた。


召喚の儀で使われる魔法陣は出口の目印に過ぎない。そこに出てくるがその場所に転移するという保証は実はない。問題のない空間に繋がることの方が多いのは、

簡単に言えば召喚はトンネルの様なものだ。入口があって出口があるのは当然。

魔法陣とゲート一対なので、これがあるのも自然。魔

法陣を使って異空間を捻じ曲げるように繋げるのは不自然なのはいうまでもない。

出口で魔法陣を生み出すと、入口の方には魔法陣が突然わくことになる。

そもそも、これが巻き込まれの最大の原因だ。

一瞬とはいえ、その空間に飲み込まれ、他の世界へと運ばれる。迷惑な話に違いはない。

で、人は片道で通ってくるのだが、神格の者たちは行き来をすることができる。もちろんその道を通れるのが前提で。ちなみにぽぽの場合は、空間を通るために身体を小さくする必要がある。当たり前だが、小さくした以上、次元が変わっても元のサイズには戻れない。その世界でエネルギーを満たせれば別だが。

そしてゲートは魔法陣が無くなったとにも歪として微かに残っている。

が、サラスの宮殿へのゲートは閉じているのではなく消滅している。

つまり、ぽぽは、サラスのもとに帰れない。と説明したところで菜月がそわそわとして不安全開に召喚の儀に使われた部屋をうろうろとしながら見て回った。


ポポは、ちょっと必死に自分が帰るためのゲートを探す菜月に嬉しくなった。

胸のあったりがポワンと温かくなる。ただ、周りの人の様子を見て、レオンへと近付いた。

話すのが楽だと思いながら、足にすり寄り、菜月を止めてと訴えてみる。

レオンは、よく解らないまま、ぽぽに頷き菜月に駆け寄っていった。

レオンが、少しだけ菜月を引き寄せるように動いた。

守るような手つき──だが、その手のひらに微かに力が入った。

菜月の腰骨をそっとなぞるように、ほんの一瞬、彼女自身すら意識しないくらいに。

けれど戦士として鍛え抜かれた指先の、わずかな熱は菜月の身体に確かに伝わった。

(……えっ、なにいまの)

胸がきゅ、と小さく鳴る。

まるで、剣の柄を握る時のような、迷いのない動きだった。

けれどそれは、戦場のものではなく、もっと──個人的な温度を帯びていた。

「……ッ」

菜月は思わずレオンを見上げた。

レオンは、涼しい顔で前を向いている。

しかし、その耳たぶだけが、わずかに赤く染まっているのを菜月は見逃さなかった。

──戦士…騎士の手。……

──人を守り、人を傷つけ、人を抱くかもしれない手。

そんなことを思ってしまった自分に、菜月は顔を伏せた。

「何かお探しですか?」

「えっ、あ、空間の切れ目」

「…どうして、ぽぽだけでもかえせないかな?って」

「……ペットがここに居ても大丈夫ですよ」

「あ、私のペットじゃなくて」

ぽぽが、にやりと笑ったような気がした。

【ナッツが帰るまで付き合うよ】

【いいの?】

【まぁ、そういうのもね、偶には】

ポポは、フッと笑った。何処かツンデレな空気のあるこの黒猫にほっとする。

サラスには、申し訳ないが…一緒に居てくれることで少し安心できた。

【あ、ナッツ呼ぶな!】

【あっ…気付くんだ】


ルシアナは、侍女が運んできた衣装の山から、ひときわ布地の少ない一着をそっと引き上げた。

艶やかな深紅の踊り子のドレス。金糸の刺繍が光をはじき、微かに揺れるたびに肌を想起させるような滑らかな生地が、指先をくすぐる。

(これ…で間違いないよね…)

ルシアナは、侍女の一人に宝物庫に大切に補完されている『踊り子のドレス』を取りに行かせた。

宝物庫の中には、勇者パーティに提供されるアイテム庫がある。戦闘に特化した武具鎧がおさめられているが、過去に女性の勇者が現れたことで女性用のアイテムも多数存在している。が、その中には、ある種の呪術が付与された物が混ざっている。どれも勇者並みのLEVELであれば気にする必要もない程度に。

ただレベルが低く、持ち合わせるマナが低い場合には、付与魔法『魅了』に魅入られることがある。

当然、警護も担当する侍女のLEVELなら問題は起きない。予定だった。

「こんなもの、誰が着るの?」

ルシアナは、踊り子のドレスを取りに行かせた侍女にだけ聞こえる程度に呟いた。

「『魅了』の効果は、このドレスを手に取らせることにもあるそうですよ」と侍女が耳打ちするように答えた。

苦笑しながらも、ルシアナはそれを脇へと避けた。極力触れないように、慎重に。

宝物庫に保管、いや、封じられていたそれは、伝説の踊り子が纏っていたと言われる希少な一着。――確かに貴重だが、実戦にはまるで向かない。ある条件を満たさなければ。

戦士の装束もいくつか選んだ。膝を守る皮のガード、肩を覆う金属の小札。

だが、どうしてもこのドレスは他の装備とは異質だった。目立ちすぎるのだ。

夜の街の者ですら顔を赤らめるほどのデザイン。

だが、だからこそ使える――目を奪わせるには、十分すぎるほど。

幸太郎からすれば、これを選んだ時点で美月を蔑むだろう。その為にこれを混ぜさせた。

金色の髪をひるがえして、上機嫌に微笑み幸太郎をみた。

「美月さん」と菜月に近付いた。

「これらが似合うと思うの、日常使いになるかしら」

侍女に一言二言伝えて服を菜月のもとへと持って行かせる。

「似合うと思うんだ美月さんのために選んだし、これ着てくれるよね?」

(えっ…)

時代も世界も違えば基準が変わるとはいえ、なかなかふざけたチョイスだ。

胸をかろうじて覆うだけの、金色のビスチェ。

腰には、鎖のように細いベルトと、申し訳程度の布が揺れている。

「これ……戦闘用じゃないですよね……?」

「まさか、魔法付与されているレアアイテムのひとつよ。防御力も高いだけではなく、軽量、何よりも味方を増やす誘惑的な効果も」

にっこりと、悪びれもなく笑うルシアナ。その目の奥には、ほの暗い意地悪な光が潜んでいた。

(なんでこんな……!)

思わず菜月は幸太郎を見た。

だが、幸太郎は何も言わない。ただ、目を逸らすだけだった。

さっきの報復。というヤツ。なかなか人間の小さいお似合いの二人のようだ。

ただ、襲われて逃げてきました。という服装よりはましだろう。とはいえ――


その沈黙が、菜月を追い詰める。

着なければ、場が壊れる。

でも、着れば──こんな恥ずかしい姿を幸太郎に見せることになる。

(どっちにしても……あ、まぁ、これよりは…)

菜月は、自分の身に付けている服に視線を落とした。

正直、確認したくない状態だと思う。忘れていたけれど。

体格、体形共に変化をしているので体を締め付けるほどボディラインを際立たせている。

何よりも足が伸びたことで、膝丈のスカートはミニ?と疑いたくなるほど。

転生させるのなら、服も転生させてくれたらいいのに…とふと考えてしまう。

菜月は開き直ることにした。

見えている部分だけで判断してもコンプレックスは絶妙に解消されているようだ。

自分がしたイメージの通りであれば…かなりまずいかもしれない。

ルシアナが何を考えているのかは図れないが、たぶん、笑いものにでもしたいのだろう。

他の武具、衣装にいたっては露出狂ですか?と聞きたくなるほどきわどいデザインのものばかりだ。

特に胸と腰当たりのものは…

ルシアナがこれを着せたいのは判った。それだけにむかつく。

なによりもスケベな目を血走らせて、こちらを見ている幸太郎にだけは怒りしか湧かない。

菜月は、きゅっと唇を噛み、羞恥の感情を奥へと押し込めた。恥を捨てたわけじゃない。

ただ、それよりも悔しさが勝っただけ。

最初から選択肢は限られている。

菜月は侍女に手伝われ服を着替えた。意外に着心地は悪くない。ただ、夜の街の衣装にしても……隠している部分が少なすぎる。何を考えてデザインしたのか、はなはだむかつく。

ついでになるが、侍女に手伝われて着替えるのがさらに恥ずかしい。

背中に感じる視線が熱い。振り返らなくても、それがルシアナだと判っていても、すぐにわかるようにして振舞っているような気がして余計に苛立つ。

「よ、よくに……」

言葉を途中で飲み込んだルシアナは、苦虫を噛み潰したような顔で目をそらした。

菜月は、モデルのようにクルリと一回転して見せた。

似合っているというには無理があるが、その隠す面積が少ない衣装も着こなしによってはただのファッションアイテムにしかならない、ということが実証されただけだった。幸太郎を除いて。

「美しい…あ、失礼、長野殿」

レオンが顔を赤らめながらも深々と頭を下げた。

「行きますわよ、幸太郎さま」

ルシアナは、踵を返し慌てて部屋を後にした。


ポポがまた、悪戯っぽく尻尾を振った。満足そうに。


レオンの差し出した手を、菜月はそっと取った。

その瞬間、ふわりと温かい光が彼らを包む。

「婚約成立だ」

レオンが静かに言う。

菜月は、胸の奥で何かがかちりと音を立てた気がした。

周囲からどよめきが起きる。

特に、幸太郎がむき出しの不満を隠せずにいるのが、痛々しいほどだった。

だが菜月はもう、彼を見ることはしなかった。

「えっ?」

「ことが終われば解消しよう。いまは…頼む」

その声は菜月にしか届いていない。

「レオン!」

シンが叫んだ。婚約の契約は破ることが許されない神への誓いである。

ラディウムでは、その誓いを女神に誓うことは少なくない。それが誠実の証だから。

ただ王族に至ってはちがう。それぞれに思惑があり、ときの流れの中で政治はいいように利用されるために、女神へ誓約することができない。と随分と自分勝手な不誠実な理由があった。

「何か?」

「なぜだ」

「…わかりませんか?」

「判らぬから聞いておる」

「…姉上から護るためです」


レオンの掌の感触を意識しながら、菜月は心の中でつぶやいた。

(無茶な…)

それでも、手を放さなかったのは──あの光が、どこか懐かしかったからかもしれない。

進むしかない。たとえそれが、どんな結末であったとしても。


ポポが、ふにゃんとした声で言う。

【ほら、運命、始まったっぽいぞ】

【面白うだけど、あ、ポポ】

【ん?】

【ゲート閉まるから、戻れないから、よろしくね】

【……おそい】

菜月に帰るまで付き合うと言っていたことに何となく安堵する。

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