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やんちゃな猫を助けたら、巻き込まれて異世界に来たけど、帰る条件が"恋"ってどういうことですか!?(まきこい!)  作者: 麒麟
第2章 勇者は召喚後がいそがしい

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転生~アリステア王国

天井から光が差し込んでいる。

その光は、柔らかく、すべてを濾過されるように世界を照らしていた。

「…ここは?」

まだ濡れた髪を振り払う間もなく、菜月はきょろきょろと周囲を見回す。

広間のような場所。古びているが、どこか荘厳さを保っている。

自分の足元には、淡く光る魔法陣の痕跡。

ゆっくりと光が終息を始めている。

その中心に立っている。そして、黒い塊…ぽぽが、濡れネズミのように腕の中で震えている。

「小さい」

「ほ、ほっとけ!」

「猫?が話している?」

その声に、ポポは菜月を見た。菜月もうんうんと何度も頷いた。

【でも、来てよかったの?】

【ああ、まぁ帰れば問題ない】

【そうってどうして頭で考えているだけで会話?】

【便利だろう】

【え~、えっちぃ】

【まぁ…いまだけだし…それにチャンネル切れば大丈夫だよ】


「気のせいか?」

レオンは、菜月に近付きながら呟いた。

その後ろに付き従うようにダレスが追従している。

「何というか大変そうだが、話しても?」

高級そうな仕立ての白を基調にした軍服に身をつつみ、物腰柔らかく話しかけてくる男に菜月は警戒しながら静かに頷いた。

右手が腰に差している剣の柄に触れている。

「先に名乗っておく。我が名はレオン・イグレイン。この国アリステアの第一皇子だ。と言っても」

「王位継承権が怪しい、とか?」

菜月は、少し面倒くさそうに言う。

レオン・イグレイン。年齢的には少し先輩という感じ。まだ幼さを感じさせる甘いマスク。

でも、その瞳には冷たい光が宿っている。まるで、見える全てのものを否定するかのような冷たさが。

この人は、この年齢でどれだけの悪夢を見てきたのだろう。

ふとそんな事を考えてしまう。

諦めと怒り、そんな悲しい光を菜月は知っていた。

ボランティア活動で訪れていた救護施設の少年少女との触れ合いの中で。

菜月は、自然とレオンを抱きしめた。

そのあまりにも普通過ぎる動きの中で、レオンは、不覚にも自分の間合いの中に入り込まれたことに驚いた。

「深呼吸をしてみて、私は敵にもならないよ」

「……な」

「あ、服濡れちゃうね」

「いや…ではなく、はなれて…はなれ…ろ」

「あ…ごめんね」

菜月は、苦笑を残して1歩、2歩と下がるようにして離れた。

レオンは、菜月を見詰めていた。爪先から頭のてっぺんを見るようにして。

綺麗だ。露出している肌の張りにも目が奪われ……。

レオンは慌てて上着を脱ぎ菜月にかけた。その丈は、コートを羽織っているかと思わせる。

「大きい」

「すまない」

菜月はクスリと笑った。


ポポは、菜月の肩に飛び乗った。

レオンが近付き、咄嗟に、身を翻していた。

レオンもまた殺気を感じさせずに菜月に近付いていた。

「寒くない?」

菜月が顔を覗き込むように見ながら聞く。

ぽぽは、話しかけて、あわてて頷くだけにする。


バン! 扉が勢いよく押し開かれた。

召喚されたことが気付かれない訳もない。

それなりに大きな音がしたはずだ。あの量の水が上から零されたのだから。

そう考えると『召喚の儀』の粗さにイラついてしまう。

勢いよく近付いてくる女性は、風体から王女? 雰囲気的には我儘姫というところだろうか。

レオンの面影がある。それよりも後ろから眺めている王冠を被ったおじさんに雰囲気が似ている。

レオンは母親、王女に似ているのだろう。どことなく中性的な雰囲気も持っている。

レオンの表情が明らかに曇り、目が「すまない」と語った。

振り返り、ルシアナを睨みつける。

「レオン、何ごと?」

「召喚に巻き込まれた方が到着しただけだ…いつになったら正確に……——


菜月は、ルシアナの死角でレオンの服を引っ張った。

「騒ぎにしないで」と小さな声で呟く。

レオンは、小さく頷いた。

【おい!】

【なに?】

【チャンネル入ったままだぞ…怒りは抑えろ】

【えっ、あ、ごめん】

菜月は、ペロッと舌を出してぽぽを見た。

菜月が身に付けた武術の多くは子供たちを護るためのものだった。一緒に学び、心と身を鍛えた。

立場と環境の違いを乗り越えるために、どの武術であっても段位まで引き上げた。

そこに在ったのは、理不尽に暴力を振るう強気者への抵抗。

そして、理不尽を受け入れるしかなかった弱さへのエールでもあった。

女だから、恵まれているから、そんな理由が菜月を受け入れない理由にされたこともある。

それが、彼らや彼女らができる裏切られないための身を守る方法だと聞かされた。

それが大人と呼ばれるものが勝手に決めた理由に感じられて仕方がなかった。

湧き上がる疑問をひとつひとつ消すために…弛まない努力を続けた。

それが救護施設で偶々遊びに来て憐れむ偽善者から友達へと認識が変わるまで。

他人を傷付ける者は生涯変わることもない。そんな事件も見てしまった。

それが平和な世界でも起きるのなら、戦禍ではなおさらだろう。

抑えようと思っても、自分には関係が無いと思ってもレオンの目に宿る光が、たぶんその元凶が菜月を苛立たせる。

菜月は、呼吸を整えながら、気持ちを落ち着けていった。

(おいおい、精神コントロール…あ)

ポポは、見事すぎる呼吸の循環に、マナが反応していることに気付いた。

濃度の高い魔力を吸収し、自然に循環させていく。

サラスの神殿に居る時に見たマナの高濃度化よりもさらに洗練された濃度へと高まっている。

「ン、ごめん、もう大丈夫」

菜月は、レオンの服から手を離した。


「お前がもう少しマナのコントールが上手ければ、巻き込まれるものは少ないのにな」

「私のせいだというの?」

「別に」

「レオン、止めぬか」

「そうですね。過ぎたことです。で、招かれた異世界からの客人は?」

レオンは、呆れ顔で父シン・イグレインを見た。


「あ…」

「いや、その通りだ」

レオンは苦笑いをこぼしながら、菜月の前に片膝をついて頭を下げた。

「こちらの都合で、召喚してしまい、申し訳なく思う。ただ」

「勇者の召喚はうまくいった…というところ?」

「あ、ああ」

「って、もういいんじゃない?」

「ん?」

「だって、温度を感じないんだもん。その声に」

菜月は、手で水を払い落すようんしながらレオンに近付いた。

「温度…」

「気持ちのこもらない言葉は、どれほどきれいに並べても相手には届きませんよ」

レオンは、菜月を睨みつけ…たように見えた。

実際は、ただ呆気に取られていただけなのだが、彼の顔はそういう誤解を招く。

「ルシアナ」

「もぅ疲れているのに」

ルシアナは、カードのような物を菜月の足元に向けて投げた。


【ねぇ】

【ん?】

【勇者が二人いたらだめ?】

【勇者がひとりはただの勘違いだ。勇者になりうる可能性がある、それだけだ】

ポポは、欠伸をしながら答えた。

【で、なにをする気だ?】

「ステータスオープン」


「ネポスタツ」

「ネポスタツ?」

ルシアナの言葉を復唱する形になり、カードが発光した。

「えっ…」

「どうした?ルシアナ」

「庶民【勇者Lv.】と」

レオンは、慌てて振り返った。驚きと安どの表情を浮かべて。

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