2.魔王様は出会う
「お見事です、魔王様」
魔王シュレイの居座る右後ろで、まるで初めからいたのかのように、深々と敬礼している青年が言った。
黒い執事服を身に纏い、右目には片眼鏡を見につけている。
そして、最も特徴であろう、頭には二本のねじ曲がった黒い角がはえていた。
彼は魔王に仕えている執事、
レイン・クレバレールである。
「 ククク……。あ奴等、レインがいることさえも気がつかなかったようだな!
あの程度の力量で、我を倒せると思ったとは、舐められたものだ」
「ですが、巷では史上最強の勇者パーティだと、もて囃されていたようですよ」
執事である彼はまた、魔術を用いた情報収集術にも長けている。
その情報網は人族の領土を含めた、世界全域にまで広がっており、その全てを彼は完璧に統括している。
「それで魔王様。彼等の処遇はどういたしましょう?」
目の前には地に倒れ伏している勇者一向達。
全員意識はないようだが、まだ死んではいないようだ。
「そうだな……。奴等の能力と記憶を封印して放り出せ。貴様らなど無力に等しいと、人族どもに知らしめてやるのだ!」
「…かしこまりました」
この世界は主に南に人族領、北に魔族領に分断されている。
遥か昔、魔力を持たない生物と魔力を持つ生物が各地に混同していた。
魔力を持つ生物は生態系において常に上位カーストに位置し、魔力を持たない生物は繁殖性が強い生物しか残らず、
そこには絶対的な力の差があった。
しかしある時、今は"人族"と呼ばれている、
魔力を持たぬが知能を持った生物が誕生した。
彼らはただ捕食されるだけの存在をよしとはしなかった。
魔力を活用する術を生み出し、魔術という分野を確立させた。
彼らは魔力を持つ生物を魔物と呼び、魔物は完全な悪だと定義づけ、駆逐していった。
個ではかなわない強力な魔物も、言葉を用いた連携、知恵を絞った戦略で、着実に打ち負かしていく。
そして、人族は生態系のトップに君臨した。
魔物は次第に数を減らして行き、終には、人族の十分の一まで落ち、このまま絶滅するかと思われた。
だが、北の大地のとあるところに、一体の知恵の持つ魔物が生まれた。
人族は知恵の優位性を失うことを恐れ、
世界の英雄と呼ばれる人達を集めて、その個体を抹消するために動いた。
…………そして、彼らは皆殺しにされた。
誰しもが、彼らの敗北に耳を疑った。
全人類が震撼する中、かの個体はさらに北の大地に住む人々を蹂躙し、いくつかの魔物に知性を与えた。
彼らはますます領土を拡大させていき、眷属を増やし、様々な種が誕生した。
そうして、それらは"魔族"と呼ばれる様になったのだ。
また、そんな魔族を生み出し、現在も絶大な力を持って彼らを統べている、始まりの存在が
【魔王】シュレイ・マドリオリオン
生まれた時から今日まで、敗北を知らない最強最悪の存在なのである。
「ところで、魔王様なら全人族を殲滅させることも可能でしょう。
何故、実行に移さないのでしょうか?」
ふと、魔王に疑問に思ったことを、
レインは尋ねた。
…………勇者達の身ぐるみを剥ぎながら。
「我も別に人族に対して強い恨みが有るわけではないからな。
生まれた当時は生きる為に必死で仕方がなかったのだ。
それに、我がもし一つの種で統一したとても、直ぐに別の対抗勢力が生まれてしまうかもしれないだろう。
もし、そやつらを殲滅したとしても、また新しい勢力が、そしてまたもや新しい勢力が……と、同じようなことの繰り返しになってしまうことは避けたいからな」
まあ我の眷属には戦いに血気盛んな連中ばかりだが、と付け加えながら続ける。
「ならば、わざわざ現状の関係を壊す理由もないだろう。
……それに、先程の戦いからして我の優位性は圧倒的であるようだしな。
敢えて、多様性、刺激がないような退屈な世界にするなどもったいないではないか!」
なるほど、とレインが納得した顔で応えた。
「流石は魔王様です。
だから、暗に規定の領土以上の侵略は認めてない法案が多いのですね」
「ああ、そうだ。我らはあまり繁殖力は高くないからな。
これ以上の領土拡大の必要もないだろう。
……ただまあ、侵略されたのなら報復はするがな」
そう話を締めくくり、魔王はレインの方へ目を向ける。
(にしても、レインのやつ淡々と作業しすぎではないか?)
魔王は絶賛聖女さんの服を無表情で剥ぎ取っているレインが映り、何とも言えない目になる。
(まあ、指示をしたのは我だし、別に不都合なことはないのだかな……)
スッと少しだけ目をそらし、
今度は床にまとめられておいてある、
勇者達から剥ぎ取った物の方へと目を向ける。
(……ん?……あれは)
すると、何かに気がついた様子の魔王。
そして、聖女さんの"聖域"を公開しようとしていたレインを呼び止めた。
「おぉ、これは……書籍ではないか!!」
「はい、魔王様。これは聖女ナロ・レナールが愛読していた書籍のようです。」
「……ご興味が?」
「あぁ。存在は知っていたが、なかなかこのような物に触れる機会がなかったのでな。
何せ、我が眷属どもは書籍など書かぬし」
そして、レインは一度作業を止めて、その本を手に取って魔王へと渡す。
「魔王様、こちらです」
「おっと、わざわざすまぬ。……えーっと」
そう呟いて、魔王は表題を見た。
『あぁ神様!どうか私の恋を許して下さい…!
/エリエーヌ・カレル』
「…………??」
そして、魔王は目をポツンとさせた。
「……なんだ?……これは?」
「どうやら、特に人族の女性が好んで読む、ラブロマンスストーリーの様です。
私も情報収集をしている上でいくつか読んでいますよ」
「なんだと!?」
「えぇ。そのエリエーヌという方は人類圏で、かなり人気の作家ですよ。
私も、他の作品ですが、彼女のラブロマンスを読みました。
何でも、『禁断の恋』という物をテーマに執筆を行うことで有名だそうです」
「そ、そうか……」
(ま、まさか、レインがこんなところまで調べているとは知らなかったぞ……
我としては別に恋愛には興味が無いが、
……まあこの機会に読むのも一興か)
「ふん、折角だ。この書籍を読んでみることとしよう。
……我はしばらく自室に滞在するから、
そやつらの処理は任せたぞ、レイン」
「かしこまりました、魔王様」
そう言って、魔王は自室へと向かう。
……魔王様のラブコメとの初めての出会いであった。
とりあえず、おはようございます。ニ野二条です。
二話目、読んでくれて誠にありがとうございます。
折角なので、ここではこの世界における《魔力》や《魔術》の原理について、説明していこうと思います。
ソンナノイラネーゼッ!って人は読み飛ばしても、全く問題ございません。
まず、《魔力》とはズバリ不可視であるエネルギー状態のことであります。
宇宙全体に分布しており、状態として活性状態と不活性状態に分けられることができます。
活性状態から不活性状態になるとき、そのときの振動数と活性状態のエネルギー濃度によって、様々な現象として発現します。
そして、この時に起こる現象が《魔術》として定義されています。
実は、全ての生物について、呼吸や光合成以外に、この魔力の状態変化に発現するエネルギー、つまり魔術を用いてATPの合成を行っています。
なので、本文で魔力をもつ生物、持たない生物と表現がありましたが、具体的にいうと魔術によるATP合成の依存性によって区別されているわけです。
この依存性が強いほど、体内にとどまるエネルギーの最大濃度も増加するため、ATP合成以外の魔術が発現しやすくなるのです。
また、人族が魔術を扱えるようなった主な要因は、魔術が振動数も大きく影響をするからです。
発声する器官に一定の魔力濃度を込めて、さらに一定の振動数で震わせることで、再現性を保って、魔術を行使することができるのです。
まあ簡潔にまとめたら
「マジュツ、マジスゴイ、マジナンデモデキル」
です!!
以上、《魔力》《魔術》に関する設定でした。




