手立て捜索
「元々人に信仰されているのが神の矜持なのは知っている。
君の説明では、その信仰が損なわれれば神としての席が怪しくなる。
こうなるけれどあっているかな?」
考えがまとまりつつあるシフは言った。
「はい。その通りです。」
私が言うとシフは続ける。
「ならば、急速に信仰が減ったなら焦りから『神の怒り』の行使は早まり
アーマゲドンの到来は早くなる。こういった認識で間違いはないかな?」
私は深く頷く。
「それは面白い!ボクも、うかうかしていられないね。
早速来る日に備え、用意をしなくては!」
そう言うと嬉しそうにシフは御座を立った。
神へのリベンジの刻だ、心躍るのだろう。
「私の方もアストラルのクラックの件
心当たりを探ってみます。」
私がそう言うとシフは言った。
「頼んだよルブ。」
「お任せを……。リーブ!」
そう唱えると私の姿はその場から消え
寝泊まりしていた宿屋の部屋へと跳んだ。
まだ前払い金が残っている為、部屋はそのままになっていた。
それはそうだ。まだ2・3日しか経っていないからだ。
聖座に目をやるとトートはいなかった。
「それもそうか……」私は小さく呟いた。
覚悟もしていたし、予想もしていたが、私はガッカリしていた。
アストラルの情報はトートに聞くのが最も手っ取り早かったからだ。
私の計画は早速暗礁に乗り上げてしまった。
シフの手前、大風呂敷を広げてしまったからには
後に引くことはできない。
どうしたものか……。拳を顎に当て考える。
その瞬間脳裏に考えが閃いた。
私は急ぎリーブでシフの空間に戻り
私では何ともならない為シフに助けを求めた。
話をすると、「君に頼られるのは嬉しいね。」と嬉しそうに笑った。
シフの手をとりリーブを唱える。
古びた遺跡、目の前には重厚で漆黒に近い石の扉
見覚えのある幾何学的な模様に青い光を放つ中央に描かれた魔法陣
私は、その魔法陣に掌を置き言葉を口にする。
「我が命じる。ルーナの光よ、時の封印を解け!均衡を破ることなかれ!」
魔法陣は言葉に共鳴するようにより強く光を放つ。
その様子を確かめた後、私は更に言葉を続ける。
「ルーナの創造、そして均衡を守る者よ、闇を払え!」
目もくらむ眩い光が溢れ、減衰してゆく
それに伴い幾何学模様も消え去っていた。
ゴウン!!ガゴン!!ガゴッ!!ガゴゴ!!
扉は大きな機械音と共に封印が解かれる。
私は軽く扉を押した。音もなくスッと開く。
中は静寂の暗闇が支配している。
「なるほど。確かに強い残留思念を感じるね。」
シフはくるりと輪を描くよう人差し指を一回転させる。
「はい。封印されし高位精霊リベルアルマ
封印を解く事は出来ますか?シフ。」
10枚の羽根を、ゆらと開き
「わかった。やってみよう。」
空気が揺れる。
シフの片手が音もなく、ゆるやかに前へ差し伸べられる。
「……天は拒み、地は縛ろうとも」
静寂に染み入る静かな声。
が、次の瞬間、周囲の大気が震える。
闇の中、シフの背から放たれた十の翼が淡く輝き
音もなく波動を広げる。
「神智の封、我が真理の手に措いて砕けよ。
ルシファーの名において命ず、今こそ崩れ去れ。」
シフは伸ばした掌をぐっと握る。
その瞬間、空間が割れる。音もなく生じる次元のひずみ。
虚空に現れた封印。
低く、地の底から響くような呻き声。
それはリベルアルマのものではなく
封印そのものが断末魔を発しているかの如くだ。
「……うん行けそうだ。」
ルフがそう呟いたとき、光が封印を貫く!
封印を覆っていた結界の殻が、ひとつ、またひとつと砕けていく。
パリン……
青白い光を放ちながら神秘的で、儚げな存在が現れる。
間違いない、古の文明で人に知恵を授けていた存在
高位精霊リベルアルマ!
「明けの明星か……我が眠りを妨げるのは。」
鈴が話をしている。と表現するのが合っているかもしれない。
リベルアルマの声は、まるで甲高い鈴が鳴り響くような音だ。
「あぁ、眠っている所を起こしてしまって、すまないね
わが友ルブが聞きたいことがあるそうでね。」
そう言ってシフは私に水を向けた。
「貴様……あの時の……背中に翼だと?
貴様!人間でありながら眷属となったか!」
リベルアルマは身を引き詠唱態勢に入ろうとしている。
「うん。これは対話可能な感じではなさそうだね。」
シフは困ったと言わんばかりに両の掌を上に向ける。
高位精霊の声が、空気を震わせる。
「星核の胎動、創星の炎よ!
集いて熾火と為せ核融創星!」
リベルアルマが詠唱すると、紅の光球が爆縮する。
私は冷や汗をかいた。これは……ヤバい。精神が警鐘を鳴らしていた。
「核融合魔法だね。君なかなかやるねぇ。」
シフは涼しげな顔で言ってのける。
「さらばだ『明けの明星』よ。」
そういうと高位精霊は紅の光球をシフに向かい飛ばした。
シフは人差し指で、それを待ち構える。
光球はシフの指先で停止し、まるで吸い込まれるかのように
緩やかに小さくなってゆく。
「何という事だ……」
リベルアルマは絶句する。
「まぁ喰らってもいいんだけど、ボクはエーテル体だからね
何の解決にもならないよ?」
シフは指先で軽く『ピッ』と空気を裂くように弾いた。
すると核融合魔法は完全に消滅した。
「フフッならばエーテルたる我が体も同様。」
少し安堵したように高位精霊は言った。
「ところが、そうでもないんだよね。ルブ。」
再びシフが私に水を向ける
私は無言で一歩前へ出るとシフからの賜りものの剣を抜いた。
漆黒の刀身を見た事で察しがついたようで
安堵が絶望へと変化する。
「流石、高位の智を司る精霊だ。わかってしまったようだね。
でも一応説明しておくと、この剣はボクが作成した対天使用の剣で
名前はディソレイター。この刃はエーテル体を崩壊させる効果を持つ。
だからこれで君を切りつけたら……その先を言うのは野暮だよね。
では、ルブと語らってもらえるかな?」
そう言うとシフは周囲を散策するよう封印の間の壁のレリーフを眺めて回った。
リベルアルマとの対話で大きな収穫があった。
一つ目はアストラル世界へのアクセスの仕方
二つ目は魂の取り出し方。
「さぁ用が終わったなら、我を再び封印するがよい。」
苛立ちを隠さず高位精霊は言う。
「んー…ボクは壊すのは得意なんだけどね
封印は出来ないんだ、ごめんね。」
若干気の毒そうな顔をしてシフは言う。
「では、このまま……我を、置き去りにするというのか?」
「そうなるねぇ……そうだ!ボクの配下にならないかい?
君は良い参謀になると思うんだよね!」
「断る!」
「残念。」
シフの言葉を聞いて私は再びディソレイターを抜く。
「それはいけない、ルブ。また彼に聞きたい事が出来るかもしれないし
ここで消してしまうのは得策ではない。剣を収めてくれないかな?」
シフは手をかざした。私は素直に剣を鞘にしまう。
そして手をとりリーブを唱え私達はその場から消えた。
ぽつんと残った高位精霊
「何だというのだ……」
闇の中に、誰にともなくリベルアルマの声が溶けていった。




