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影と消ゆ

ガチャ。パタン。

「ノックもなしに我が部屋入ってくる不届き……」

アルマンの言葉を意に介さず無視し私は詠唱する。

「風の精霊よ、音無き障壁を顕現せしめ静寂の檻となせ。

噤音結界スタイ・スクルド!」

私は外部と内部の振動を隔絶させ一切通さない

有体に言えば静音結界だ。

「きっ……!貴様!アリシア!」

私はアルマンを無視しつつ指をスライドさせ

結界の幅を調節し丁度部屋の形に落とし込んだ。

「なっ!何をしに来たっ!!」

アルマンは一歩二歩と後退し、壁際に身を置いた。

「私がここにいることで、答えは分かっているのではないか?」

私は敢えて、アルマンに背を向け、角の観葉植物の葉に片手を這わせながら

静かに問いかけた

「だっ!!誰かあるっ!!」

そう言いながら壁際から足早にドアへと向かう。

私はドアの前にスッと移動し、醜く肥え太ったドテっぱらを蹴り飛ばす。

私の蹴りの勢いで元居た壁に転がって行き、ぶつかり

腹部を抱えうずくまりながら呻くように声を発する。

「なぜ……だ……ぐっ……何故誰も……我が呼びかけに反応せぬのだ……。」

私はやれやれといった感じで溜息をつき、口を開いた。

「呆れるな……暗殺部門の長たる者が、この噤音結界スタイ・スクルドを知らんとは……。」

驚いた顔でアルマンは言う。

「な……何だそれは……?」

私は片手で顔を覆い、呆れたように答える。

「この部屋と外界は完全に音が隔絶されている。

耳を澄ましてみろ。外の音が一切聞こえないだろう?」

アルマンは片方の耳を壁に当て、もう片方で必死に音を聞き取ろうとしているようだ。

「本当だ……訓練兵士の声や、城内の遠くから聞こえるはずの煩雑な音が聞こえん……!」

私はアルマンの方に向き直り、指を指して告げる。

「つまり、ここでお前をったところで、誰一人として気づかないという事だ。」

みるみるアルマンの顔が青ざめて行く。

カチャリ……

壁際に再度、後ずさったアルマンの手に触れたのは剣だった。

アルマンはハッとした表情をした後、剣を手に取り

私の腰に目を向ける。

「お前、以前城に来た時の武器はどうしたんだ?」

どうやら腰ベルトについていたカタールの鞘が見当たらないことに気が付いたようだ。

「あぁ、オデットに壊されたよ。」私は答えた。

「で、オデットはどうした?!」

アルマンは語気を荒げる。

(オデットとしては望まぬことだったが、こいつには体を重ねた情でもあったのだろうか?)

「私が始末した。」

アルマンは険しい顔で言い放つ。

「チッ!!役立たずがっ!!だが武器を壊した点は評価してやろう。」

優勢だと思ったのか、アルマンの口角が上がる。

こいつは、やはりただのクズだ。生かしておく価値はない。

だが、アデリーヌの手間にならないよう始末するにはどうすればいいか。

私はそれを悩んでいた。

その表情を見てアルマンは困っていると勘違いしたのか

シュラッ!っと剣を抜き、すかさずヒュンッ!!斬りかかってきた。

私は躱す。何というか……素人でも、もっとまともな一撃を放つだろう。

「躱したな?丸腰か?」

下卑た笑みを浮かべ尋ねてきた。

「そうだな。」

私がそう答えると、とうとう笑い出しアルマンは言う。

「フハハハハ!!この呪剣マレディクターの錆としてくれよう!!ゆくぞっ!!」

(30分経過)

「なっ……ハァハァ……何故……ハァハァ……当たらんのだっ!!」

肩で息をしながら汗だくのアルマンは言う。

私は及び腰になっているアルマンを侮蔑の冷ややかな眼差しで見つめる。

「準備運動は終わったか?いつ本気を出すのだアルマンよ?」

私は煽った。

「キッ……貴様ッ!!」

顔を真っ赤にして怒髪天のアルマンは渾身の突きを繰り出してきた……

のだと思う。渾身というには、お粗末過ぎて表現に戸惑うが。

サッと横に避け足を出すとアルマンは私の足に掛かり体勢を崩し

つんのめって転がる。剣にその身が触れそうになった時

大げさともいえるほど体を捩って、それを避けた為、壁に激突する。

その動きに私は不自然さを感じ取る。

剣が体を掠める程度の事で、壁との激突を選ぶか?

「何故自らの剣を避ける?」

答える訳はないだろうと思いながらも聞いてみる。

「いいだろう教えてやろう。この剣は傷つけた個所を

呪いによって決して塞がらぬものとする呪いの剣

その名も呪剣マレディクター!!覚悟せよ!!」

恐らく心理的有利を得ようとして答えたのだろう。

剣の効能を聞く事によって私の動きが鈍るだろうと。

つくづく度し難い愚鈍なクズだな。

そこで私は閃いてしまった。この件の終わらせ方を。

体勢を立て直そうとするアルマン。

私はその瞬間、アルマンの陰に潜った。

影繰シャドウスレイヴ。オデットが姫様に使った術だ。

『な……何だこれは?!』

「分からぬか?影繰シャドウスレイヴも知らぬとは言うまいな?」

『な……何だそれは?!』

「お前は何も知らぬのだな。これは標的の陰に潜み

体を自由に操ることができる、上級暗殺者なら誰でも知っている術だ。」

『私を操り、何をするつもりだ?!』

「それは、これからのお楽しみだ。」

私は剣を手に扉を開ける。

音もせず扉が、いきなり開きアルマンが出てきたのだ

アデリーヌは予想外の展開に身構える。

「心配はいらないアデリーヌ。影繰シャドウスレイヴを使っているアリシアだ。」

ふっとアデリーヌから気が抜けるが、こちらを見る目に憎しみが宿っている。

私が支配している事がわかっていても尚

この風体を目にして憎しみを隠す事は出来ぬも道理か……

私はアルマンの声帯ではなく自分の声に切り替える。

「この男は、これから私が恥辱に満ちた死を与える。

少しでも君の溜飲が下がるといいが……

立ち合いたければ私を止める振りをしてついてくるといい。」

そう言うとアルマンの体を操っている私は、ゆっくりと歩き出す。

『貴様!!何をするつもりだ!!』

私はアルマンの心の声に答える事はしなかった。

それが答えだ。

城内回廊で騎士や衛兵と鉢合わせる。

「アルマン様、王より部屋で蟄居と聞いておりますが……?」

大体こんな感じで困惑気味に声をかけられる。

「余に逆らうか?死を与えるぞ。」

そう言うと衛兵や騎士に剣を突きつけ、通り抜ける。

『何をする貴様!!何が目的だ!!』

私は答えない。

皆、アルマンには逆らえず後ろをついてくる。

その中にアデリーヌの姿もあった。

そして玉座の間へと辿り着く。

「……アルマンよ何事だ。自室での蟄居を申し付けたはずだが。」

ジャンバティスト王は睨みつけ言葉を発した。

流石は大国の王、圧が桁違いだ。

私はアルマンを繰り剣を王に向かって突き出しながら

「父上!このような沙汰は狂っておられる。

あなたは余に王位を譲るべきだ。断ればこの場で死んでもらう!!」

『やめろ!!私はそんなこと微塵も思っていない!!

父上!!こやつの戯言を聞いてはなりませぬ!!』

後ろをついてきた衛兵や騎士も王を守るように前方へと回り込む。

「よい。皆の者。左右へ分かれよ。」

王は玉座から立ち上がると告げた。

「王位の簒奪か。良かろう、愚息よ……お主の手で奪い取ってみよ!

老体とは言えど老いて益々盛んとは儂の為にある言葉よ!!」

王はシュラッ!!と横に控えていた従者の手に持たれた王の剣を鞘から抜き、構える。

私はアルマンの体で王に斬りかかる。

ガギィン!!王とアルマンは剣戟を交わす。

「……ほう。少し舐めておったわ、お主剣技を修めておったか。」

しまった。つい癖で普通に打ち合ってしまった。

とはいえ、どれだけ怠惰な体なのだ。とてつもなく鈍い。

『やめろ!!やめろ!!やめろ!!やめろ!!やめろ!!』

アルマンは脳内でうるさく喚き散らす。

私は少し本気を出すことにした。

まぁ、この体の本気など知れているが

それでも技というものはフィジカルを補い、更に超えるものだ。

キィン!!カラン……カラン……。

アルマンは王の剣を弾き飛ばした。

そして、王の喉元に剣を突き出す。

「お覚悟召されよ、父上。」

『こんな事……やめてくれ……。』

アルマンの声は無視し、同時に私はアデリーヌに影繰シャドウスレイヴで乗り移り

自由になったアルマンの腕を激しく叩きつけ、剣を落とさせる。

王は、すかさず落ちた呪剣マレディクターを拾い上げ

アルマンの心臓目掛けて突き出した。

「ガハッ……」

血を吐き出し倒れるアルマン。

「アルマンよ、最後まで油断せぬことだ。もう遅いがな。」

王はそう言うと、従者が王についた返り血を拭き始めた。

アルマンのその目は、信じられないといった表情でジャンバティスト王を見つめていた。

最早、言葉を発することもままならぬアルマン。

これで、少しでもアデリーヌの溜飲が下がればいいのだが……

アルマンは家宝の呪剣のせいで、誰かが蘇生させようとしてもできないだろう。

そもそもが、王に反旗を翻した愚息を助けようと思う者は

王城に誰一人として居ないだろうが。

全てを知るは私とアデリーヌだけ。事は終わった。

「そなた、暗殺部隊の副隊長であったな……愚息に不覚を取ったが

そなたに助けられた……礼を言う。」

その言葉を聞き届けて、私はアデリーヌの影繰シャドウスレイヴを解き

気配を消し闇に紛れて王城を抜けた。

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