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姫様の婚約破棄

翌日、私はあーちゃんをリーブで自室まで送り宿屋へ戻った。

すると数時間後、着替えたあーちゃんが再び宿の部屋へ訪れた。

何でも再び面倒事が起こり共にレオナード王に謁見して欲しいとの事。

私は朝のルーティンを終え支度は出来ていたので直ちに

あーちゃんの手を握りリーブで玉座の間、入口へと飛んだ。

私とあーちゃんを見ると入り口の衛兵が跪く。

実績からするとレオナード王を遥かに上回る私は

名誉騎士という事もあり一層騎士からの扱いは高貴な者への

それとなっていた。

玉座の間へ入るとレオナード王が声をかけてきた。

「手数をかけてすまない。」

「如何用でしょうか?」

私は敢えて王へ謙った言葉を避けた。

何故ならこれはレオナード王直々の申し出であった。

まだ即位して間もないため臣下の忠誠が気になるとの事で

名誉騎士であり神の御使いとして名前だけが独り歩きしている私と

フランクな仲である事を示す事で臣下の信頼を勝ち得る作戦のようだ。

「うむ……何とも言いにくい事ではあるのだが

愚弟が生前、既に大国ヘルツクローネの王子とアメリアの婚儀を申し込んでいたのだ……。

聞くまでもないと思うが、アメリアそなたの考えはどうだ?」

アメリア姫は首を横に振る。

「まぁそうであろうな……

というわけでまた婚儀の破棄にアリシア殿に一肌脱いでいただきたい。

お願いできるだろうか?」

「アメリア様のご希望とあれば、私は何事にも尽力いたします。」

「そうか……手数をかけるが、愚弟の尻拭い頼む。」

「承知しました。」

そう言うと王の手配した馬車でアメリア姫と共にヘルツクローネ王国へと向かう。

道中は6日といった所だろうか。

アメリア姫は事が事だけに緊張している。私は道中、努めてあーちゃんとして接し緊張を解した。

夜は街で宿泊し6日目を迎える。

遠くに見えるは、ローゼンガルドよりも高くそびえる城壁

規模も5倍ほどはあろうか。当に大国の風格である。

街の城門の到達すると衛兵が出迎えた。

私とアメリア姫が身分を名乗ると大層驚いた。

建前は顔合わせなのだが、姫の警護が一人、しかも小娘である私。

それはそういう反応にもなるだろう。

一人が城への報告をしに行った。

こういう事は前もって話が通ってるはずなんだが。

小国であるローゼンガルドは舐められているということだろうか?

それとも少数の為、訝しんでの事だろうか?

真相は分からないまま暫くすると衛兵は戻り城へと案内された。

高い天井、磨き上げられた大理石の床、威厳に満ちた玉座の間。

その中央に、姫と私は静かに歩み出る。

近衛たちの視線が交錯する中、二人はまっすぐ玉座へと向かう。

玉座には、重厚な王冠を戴いた老王。

私達は玉座の前で静止すると、まず姫が一歩進み出る。

「このたびは、ローゼンガルド王国の使節としてお招きに与り、深く感謝申し上げます。

我が名は、ローゼンガルド王国王女アメリア・ローゼンガルド

薔薇の名を戴く王家の血を引く者として、貴国との良き関係を結ぶことを望んでおります。」

姫は優雅に礼をとる。

その気品と凛とした声の響きには、若年ながらも王家の矜持がにじんでいた。

続いて、私が姫の隣から静かに一歩踏み出す。

「同じく、ローゼンガルドより参りました名誉騎士、アリシア

この身は未だ至らぬ者ながら、姫様の護衛として任を預かっております。」

芯の通った誠実さを込め一礼。

そして私は()()()述べた。

「先のローゼンガルドの裁きの光、あの奇跡

起こしたるは他ならぬ私であること、ここに予めお伝えしておきます。」

婚姻を断るのだ、舐められていては困る。所謂マウンティングだ。

「我が名はジャンバティスト・ド・サンヴェールである。

ヘルツクローネ王国国王である。」

後ろに控えていた斥候上がりのアサシンらしき者が王に耳打ちする。

「承知しておる、そなたの奇跡は今や周辺国へ轟いておる。」と王は答える

何故この国の斥候があの10年前の出来事を知っていたのかといえば

近隣諸国で戦がはじまるとなれば、戦地に偵察を送るのは鉄則だからだ。

戦況次第では自国にも影響が出る。

「して、第二王子のアルマンとの婚姻だが……」

失礼は承知の上、王が全てを言い終わる前に私は言葉を発する。

「それについてですが、誠に失礼ながら白紙に戻して頂きたく参上いたしました。

我が主アメリア姫様が乗り気ではない故どうかご理解いただきたく存じます。」

王の後ろに控えていた顔に泥を塗られた本人が激昂する。

「何だと!この第二王子のアルマン・ド・サンヴェールと我が国を侮辱するか!」

私は落ち着いて言う。

「そういうわけでは御座いません……貴国とは末永く友好を保ちたく……」

私の言葉を遮るようにアルマンは怒声を放つ。

「貴様の様な小国、我が国は今すぐにでも踏み潰せる!」

ここでジャンバティスト王は言葉を投げた。

「待て、アルマン言い過ぎだ。そう熱くなるでない。」

「父上これは我が国を侮る言葉!!

その申し出の可否!決闘にて決めようではないか!!」

王はチラと私に目をやる。私は目を伏せて答える。

「私に異存はありません。どうぞ貴公の腕利きの騎士をご用意ください。」

私はアルマンに告げた。

「言ったな小娘が!決闘は中庭の剣術訓練場だ!!ついて参れ!!」

私達は後をついていった。

アメリア様は少し離れた座に離れて頂いた。

招集された近衛騎士団は50人といった所だろうか。

アルマンは不敵な笑みを浮かべながら言う。

「我が精鋭50人。尋常に決闘し勝利して見せよ!!」

尋常とは聞いて呆れる。私の疲労を狙っての策であろう。

「これで全部か?」私は挑発気味に煽る。

「勝てる気でいるのか?バカが!!

まぁ良かろう……1人1人一対一で戦うがいい。」

何とも余裕そうな顔でニヤニヤしている。

ちなみに見た目は醜く太った中年のおっさん

アルマンは見た目からも品というものが欠片も感じられない。

「よし!1人目構え!」アルマンは言う。

私は更に煽る。

「一人では相手にならないだろう。全員で一斉にかかってくるが良い。」

私がそう言うと

「バカが!自ら不利を選ぶとは!

貴様を葬ってアメリアと結婚して毎晩可愛がってやる!」

アメリア様に目をやると凛としつつ私に大丈夫だと頷いて見せる。

しかし微かに震えているのがわかる。

「貴様……私を挑発するか……いい度胸だ!かかってこい!!」

「能書きを……総員かかれっ!!」

アルマンが叫ぶと騎士たちは一斉に襲い掛かってきた。

私は迫りくる輩に向かい片手を伸ばす。

「神罰!!」そう叫んだ後

クロノコントロール、スタティック。時を止めた。

恐らく普通に戦っても勝利は出来ていただろう

最早この体躯で十数年戦ってきたのだ

以前トート様にかけてもらった潜在能力引き出しの力をかけてもらわなくても

フィジカル反射神経、共にほぼ同様の高みまで来ていた。

この場で肝要なのは圧倒的差がある事を知らしめること。

意味の分からない恐怖。それに勝る警告はないだろう。

私はバックパックから薬を取り出す。

私は瓶の液体カロトラウムを騎士達の口内粘膜に次々と含ませてゆく。

この神経毒は僅かでも象レベルの体躯ですら瞬時に昏倒させる効力があり。

勿論人間に使えば致死量を超えて死ぬ者も出るだろう。

踊りかかる様で停止した騎士たち全てに事を終えると時間をすすめる。リリース。

私に駆け寄ろうとした騎士達は二・三歩の内に倒れ込み

泡を吹くものもいれば、白目をむき痙攣する者もいる。

即死する者もいた。

「バッ……馬鹿な?!何が起こったというのだ!!」

アルマンは驚愕している。

私からしてみれば間の抜けた茶番劇だが

実情を知らない者にとっては只々、恐怖でしかないだろう。

「アルマン殿、神官を呼び回復と蘇生を。急がねば魂が肉体から離れるぞ。」

善意で忠告したのだが……気分を逆なでしたようだ。

「小娘風情が知った口を!!衛兵!!」

アルマンの掛け声とともに柱の陰に隠れていた衛兵が

アメリア様の捕縛を試みるも返り討ちに合う。

私に安全の証としてウインクを送る姫。

ほっとすると同時に私は怒りがこみ上げる。

「……下手に出ていれば……貴様っ……」

カタールに手をかけた時、怒声が響いた。

「たわけ者がッ!!!!!」

威圧感のある声の出先の方を見ると成り行きを見守っていた

ジャンバティスト王が訓練場御座から立ち上がっていた。

王が見据える先はアルマンだった。

つまりは王の言葉は第二王子のアルマンに向けられた言葉だった。

「ヘルツクローネ王国の恥さらしが!!衛兵!!こやつを

部屋に閉じ込めておけ!!」

「ハッ!!」王の横に控えていた近衛兵数名が

アルマンを捕縛し通路の奥へと消えていった。

そして神官をすぐさま招集し、騎士たちの手当てと蘇生を行った。

その間にアメリア様が私の横へきていた。

王は静かに頭を下げた。

「我が愚息が大変申し訳ない事をした。許して欲しい。」

姫は目を伏せ、私は瞬時に膝を折り頭を垂れる。

「滅相もございません、王の御前においての非礼

謹んでお詫び申し上げます。」私は言った。

王は顔を上げ言った。

「そなたは正しい事をなしただけだ。詫びる事など何もない。」

そして姫の方へ向き直り再び言葉をつづけた。

「フリードリヒと私は旧知の仲であった。

ローゼンガルド建国の際は私も祝いに駆け付けた。

アメリア姫、そなたが生まれる数十年前の事だ。

フリードリヒとは約束を交わしていた、いつか子息・息女を婚姻させ

親族になろうと……しかしフリードリヒは先に、この世を旅立ってしまった……」

王は遠い目で宙を見つめている。

「私は、あの日の約束だけでもと思い、今回話が来た時、約束を果たす好機だと思い至った

だが、どうだ……我が子アルマンの何と愚かな事よ。

何を考えているか泳がせてみたものの、何たる恥さらしであろうか……

アメリア姫には大変申し訳ない事をした。許して欲しい。」

王は再び頭を下げる。

アメリア様は凛として述べる。

「わたくしは貴国と我が国との同盟の継続を願って、ここへ参りました。

その気持ちに変わりはありません。」

そして姫は、ふっと優しい顔になり

「顔お上げくださいジャンバティスト王……望みをかなえる事は出来ませんが

宜しければ亡き父上の若き日の昔話など、お聞かせいただけますか?」

王は顔を上げ嬉々として姫に言う。

「それでは宴を設け、そちらにて昔話をお聞き願いたい。」

そう言うと王とアメリア様は並んで進み、私は姫様の護衛として控えた。

歓迎の宴が催され、姫は在りし日の父上の昔話に耳を傾けていた。

こうして婚姻を断ったものの、尚、両国の絆は深まった。

ジャンバティスト王が健在のうちは安心してよいだろう。

そうして見送りを受け、来た時の馬車で帰国の途につく

あーちゃんは馬車の窓から遠くを眺めていた。

父上の昔話を反芻しているのだろうか。私はその横顔を眺めていた。

馬車はガタゴトと街道を往く。

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