王の崩御と企て
更に5年が経過し、あーちゃんは18歳になりロディーは24歳になっていた。
ローゼンガルド王国は現国王フリードリヒ・ローゼンガルドは病に臥せっていた。
大国ではない王国が生き馬の目を抜くような野心的な周辺国の相手をするのは
とても神経を使いストレスが溜まり長寿でいられないのは自明の理である。
ここからは、第二子王子ルドヴィク視点で物語は進行する。
「兄上、間も無く国王ですね。お喜び申し上げます。」
俺は次期王の兄へ祝辞を述べていた。
「戯言は控えよ!父上は必ず快方に向かう!滅多なことを申すでない!」
怒りを露わにし次期王の第一子王子レオナードは王代理として玉座から俺を窘める。
兄上は野心が足りない。王としては心もとない。
王国を発展せせるためには領土拡大が必須だ。
「大変で御座います!フリードリヒ様容体が悪化して御座います!」
王専属の宮廷医師が駆け込んできた。
俺は思わず口角を上げた。病に臥せってから少しずつ毒を処方したのが効いたな。
兄、俺、アメリアは急いで父上の寝室へ足を運んだ。
「父上!お気を確かに!必ずや回復致します!ご自愛を!」
レオナード兄上は心底心配しているように見える。
「儂の限界は……儂が一番よくわかっておる……
そなたは国を守るに最適な人物……後の事は頼むぞ。」
「そのような気弱な事をおっしゃるのは、お辞めください……父上……。」
やはり兄上は甘い。俺は心の中、鼻で笑った。
アメリアはベッドに覆いかぶさり、泣いている
「お父さん!必ず良くなって!」
そう言いながら泣いている。
「よしよし……お前を残して行くのは心もとないが……
アリシアが居れば、儂に案ずることは何もない。」
アメリアは、この年になっても嫁入りをしていないのは
王国としての損害だ早く強国との婚姻を結ぶべきだ。
ロザリンデ姉上は有力王国に既に嫁ぎ済みだ。
アメリアは何故かアクシデントや先方からの断りで
未だに行き遅れている。王国の役に立っていない。
父も末っ子のアメリアを甘やかしすぎだ。
「ルドヴィクこれへ。」
「はっ。」
「お前は相当勝気な所がある。よくよく……兄の言う事を聞き……
国を盛り立ててくれ。」
「承知しました。」
チッ!父上は臆病なのだ!平和を第一とし領土拡大をしなかった!
兄上もその血を引いていているとんだ臆病者どもだ。
国を大きくするなら、俺こそが王に相応しい。
「ふぅ……今日はずいぶん話をした……少し休ませてくれ……」
そう言うと父上は目を閉じた。俺達は外へ出た。
アメリアだけ父上の言葉に従わず父上の上で伏せまだ泣いていた。
ゴマすりか無駄な事を……役者ならなかなかのもんだな。
国王フリードリヒ・ローゼンガルドが亡くなったのは
その一週間後の事であった。表向きの死因はストレスによる過労。
実質は弱毒の継続接種による衰弱死だ。
荘厳な葬儀が執り行われ、王国民はその治世を想い皆涙した。
後に第一子王子レオナード兄上が国王に即位した。
早速、俺は兄上に進言をした。
「兄上、ローゼンガルド王国の為には領土拡大こそが最重要課題かと。」
「いや、父上の言われた通り私は、この国を守る事に専念したい。」
「なるほど。それでは国を護るためにアメリアを強国に嫁がせましょう。
万が一の時に援軍が期待できます。我が国は小国に毛が生えたようなものです
転ばぬ先の杖は何本用意しておいてもよいでしょう。」
「……。」
兄は黙って考え込んだ後、俺に告げた。
「アメリアが次々と婚姻を逃れているには理由がある。
本人が嫁ぐのを拒否していて、アメリアの強力な後ろ盾
名誉騎士アリシアが全て、そうなるよう全て事を運んでいる。
逆らえば、お前死ぬぞ。やめておいた方が良い。」
「兄上は臆病すぎる。ただの小娘一人ごときに……
何を恐れているのです?」
「そうかお前は、あまり彼女と関わったことが無いのだな。
あのガルヴァンと一騎打ちで一本取ったのだぞ?
そして私は知っている。彼女が本気になれば、この国の騎士団全員相手にしても
彼女が勝つだろう。敵対していれば、その際私も恐らく殺される。」
「ハッハッハ!兄上は、あの小娘を買いかぶり過ぎています!
ならばこうしましょう、私があの小娘を始末した暁には
私を腹心とし役職を与え国土計画を全て飲んで頂きます。いいですね?」
少し考えこんだ後に兄上は答えた。
「……いいだろう。だが、私は止めたからな。」
兄は目を伏せながら言った。
「決まりだな。」俺はニヤリと笑う
兄上は本当に臆病者だ。父上は人を見る目がない。
「我が直属配下を招集せよ!アリシアを討ち取る!」
「はっ!」
兵士は急ぎ詰め所へ駆けて行った。
「バカな弟だ……。」レオナードは小声でつぶやいた。
直轄の騎士や兵士を連れルドヴィクはアリシアの宿をぐるりと包囲した
兵力は騎士及び衛兵500程
小娘1人に対して破格の人数だ。
ウマの手綱を引くと馬が嘶き窓が開き小娘が顔を出した。
「何用でこのような物々しい事をしている!」
「我は国王が弟ルドヴィク!お主を国家反逆罪で処刑するために来た!」
「……そうか。ここにいる兵士共は名誉騎士である私を
国家反逆罪で処刑する事に賛同なのか?
賛同しない者は立ち去るがよい!さもなくば、命はないと思え。」
ばかめ!ここにいる者たちは俺の忠実な部下立ち去るわけがない。
「火矢を番えよ!」ルドヴィクが命令すると兵士たちは一斉に
矢先に火を灯し矢を番える。小娘が窓から飛び降りた。
ほんの一瞬、瞬きしただけのはずだった。
だが気づけば、部下の兵士たちは全て倒れていた。
首元から血を噴きだし、呻く間もなく命を絶たれた者たち。
立ち尽くす者はなく、声を発する者もいない。
血の海。剣も槍も放たれることはなかった。
「な、何だこれは……!?」
ルドヴィクの声が震える。
そこに、ただ一人、血の中に立つ影があった。
「さあ、一対一だ。殺り合おうじゃないか。」
小娘いや、得体の知れない化け物が、無表情にそう告げた。
俺は剣を抜いた。動悸が早まる。手が汗ばむ。
だが、王族として引けは取れぬ。自らの正義のためにも!
「俺を侮るなよ、小娘!」
剣を振る。重く、鋭く、王家に伝わる剣技を叩きつける!
ガァン! キィィン! バッ! カァン! ギィン!
だがアリシアは一歩も引かない。
流れるようなカタール捌きで剣を弾き、逸らし、時には空気のように抜けていく。
俺の剣は確かに重さと速さを兼ね備えたもののはずだ!
だが、それはまるで虚空に向かって振るっているかのようだ!
「くっ……!」
気づけば、息が切れている。額には汗が滲み、腕は重くなってきていた。
だが、小娘は微動だにせず、汗一つかかず息も乱れず
ただ淡々と斬撃を受け流し、躱し、弾き返していた
馬上で振るうこの剣の威力を、真っ向から受け止めながら動かぬだと!?
そう、アリシアは流れ出る兵士の血の上で一歩も動いていない。
速すぎて……見えていないのか、俺の目が……
訳が分からない!
焦りを押し殺し、次の一手を考える。
「ルドヴィクお前にいい言葉を教えてやろう
殺していいのは殺される覚悟のあるものだけだ。」
低く、静かな声。だが、その声音には鉄の意志があった。
気づいたときには、すでにその姿は馬の下。
「っ……!」
鋭いカタールの刺突に、右足を貫かれる。
「ぐああああっ!!」
悲鳴とともに馬から転げ落ち、地に叩きつけられる。
痛みで意識が飛びかけるも、なお剣を手放しはしない。
「お前が俺に大人しく殺されれば!この国は発展するのだ!」
「ふぅん……。」
冷ややかな瞳が俺を見下ろす。アリシアの双眸には、怒りも憐れみもない。
そこにあるのは、ただ静かな決意だけだ。
「おれは兄の枢密顧問官になり!実質の王となる男だ!」
「そう。残念ね。それは叶わないわ。」
刹那、銀光が走る。
鋭い金属音ののち、鎧の隙間を正確に突き破ったカタールの刃が、心臓を貫いた。
ルドヴィクの目が見開かれたまま、痙攣する。
何かを言いかけた唇が、震えながら血の泡を漏らし、やがて静かに、動きを止めた。
ー ここからアリシア視点 ー
「さて片付いたけど、確認を取らなきゃね。」
リーブの書を使って玉座へ飛ぶ。
玉座にはレオナード王が座っていた。
「逃げも隠れもしないという事は、あなたの差し金ではなさそうね。」
「その通りでもあるし、そうでなくもある。」
含みのある言い方だ
「説明してもらってもいい?」
「勿論だ、そのために私はここで君を待っていた。
先ず発端はバカな弟の画策だ。私は国を護る政策を述べたが
あいつは反対し領土拡大路線を打ち出した。
そしてアメリアの戦略結婚を提案し
君を亡き者にしたら国の実権を握らせろ。と。
私は君の力は計り知れないものだと認識している。
愚弟ごときでは敵うまいと思った。だから敢えて
君の元へ行かせた。」
「なるほど、私がルドヴィクを排除するだろうと見越して
見過ごした形ね。宮廷内の兄弟での家督争いに発展する前に
名声も権威もある私にルドヴィクが乱心し返り討ちにあったと。
一番丸く収まりそうな考えね。」
「あぁ……だから君にはいろいろ迷惑をかけてしまった。
すまない。」
「気にしないで。私は貴方がアメリア姫の味方である限り
私も貴方の味方でいる。多少の泥は被るわ。」
「ありがたい。国民へのお触れ等は私に任せて欲しい。
あと愚弟より君の方が国民の信認は厚いだろうから
普段通りの生活に戻って欲しい。問題ないはずだ。」
「分かったわ。陛下が亡くなられた早々あなたも大変ね。」
「気遣い痛み入る。ありがとう。」
色々な後処理はレオナードに任せ私は宿へと戻った。