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寝所

窓辺で真っ白な羽を膨らませたトキが一羽

神妙に佇んでいる。

私はベッドに寝転がりながら、その様子を見ていた。

神様……ねぇ……。

もふっとした胸元、くるりと巻いた尾羽。

鳥だよねぇ……どこからどう見ても。

それにセシャトと違って見た目に可愛さをあまり感じない。

すると脳裏に、鋭い思念の声が響く。

『不敬である!』

「うわっ!!」びっくりして声を上げてしまう。

そういえば思考が覗かれているんだっけ……

『左様。』

ちょっと面倒だぞ。いや随分面倒だ。

言葉を止めることはたやすいが

思考を止めるのは極めて困難だ。

このペットを飼っていくのは骨が折れるぞ

『不敬!儂は飼われるような存在ではない。

数多の信仰を集める神と心得よ!』

えーと……思考を読まないようにする事は出来ないのですか?

『お主と儂の精神はリンクされておる。

何もしなければ、お主の思考が勝手に儂に流れ込んでくる。

じゃが……。』

折りたたんでいる羽を大きくバサリと一羽ばたきする。

『高貴なる布と、類稀なる力を宿す杖を速やかに用意せよ。

さすれば、儂が意識的にお主への思考リンクを閉ざす事、容易かろう。』

是非購入させていただきます。どのような物がお好みでしょう?

『儂を肩に乗せよ。』

えっ?

『儂を肩に乗せよと言っておる。』

ひょっとして買い物に同行されるのです?

『左様。』

……。私はローブを着てフードを目深に被る。

するとトート神がバサリと羽ばたき肩に乗ってきた。

『さぁ案内あないいたせ』

私は宿屋を出て高級調度品店へと足を運んだ。

私は名誉騎士として王国中に顔が知れ渡っている為

フードを目深に被っている。

そうしないと人だかりができ足止めを喰らってしまう。

顔出し厳禁、目を引くも厳禁。

しかし擦れ違う人々皆こちらを見てくる。

それはそうだ。

『儂を侍らすとは栄誉なる事ぞ!』

……。私は考えるのをやめることにした。

店に入ると、静かに香が炊かれ、豪奢な品々が並んでいた。

高級調度品店だけあって、置かれている一つ一つが目を見張る出来だ。

値段も目を見張ること間違いなしだ。(絶望)

『……右斜め前にあるあの布だ、あれを所望する。』

肩に止まったトート神が、バサリと羽ばたく。

視線を向けると、魔法陣に守られた一枚の布が目に入った。

星辰を思わせる深い藍色に、金の糸で時の紋様が織り込まれている。

私は傍により布をじっと見つめる。

何時の間にか店主が横にシュバってきて声をかけてくる。

「お気に召しましたでしょうか?」

あるある。前世でよく電気屋に行った時されたやつ!

「お客様お目が高い!この布はアストラクロノスと申しまして

星と時を象った、至高の聖布。

何でも時の賢者が織ったものだとか……

曰く付きの逸品でございます。

お値段は勉強しまして金貨55枚に御座います。

如何で御座いましょう?」

私のカタールは金貨2枚なわけだが。

『うむ。これの仕入れ値は金貨25枚

出して35枚値切れば30枚といった所であろう。』

そうか!相手の思考を読めるという事は

こんな事も出来るという事!凄い!

『左様。』

「金貨32枚なら購入します。それ以上なら他をあたります。」

私がそう言うと店主は険しい表情になる。

『お主やるのう。この小娘いい所を突いてきやがると

考えておるぞ。決定は時間の問題じゃろうて。』

私が振り向こうとすると。

「わ!分かりましたお客様!

誠に買い物上手でいらっしゃる……

その金額で喜んで、お譲りいたしましょう。」

という割には店主の額に汗が滲んでいる。

「ありがとうございました!」私は包み紙を手にした。

店を出ると、トート神が肩の上でバサリと羽を震わせた。

『次は杖じゃ。魔力を湛えし、格調高き一本を求めるがよい。』

承知しました。

私は行きつけのマジックアイテム屋に足を運ぶ。

魔術師と神官術師の間に広がる杖のコーナーへと足を運ぶ。

様々な杖が目に入る。値段もピンキリだ。

『そこなる白銀色で微細な星々のような光が瞬いておる

金色のオーブの杖を所望する。』

これか……千年に一人と称された大神官リュミエルグレイアスが

生前愛用していた杖ソフィアグレイス

この杖には生前グレイアスが残した言葉があると説明文にある。

力なき者に知は重荷となり知なき者に力は災厄となる。

相応しき者の手に。と。

お値段は……見るのが怖い……

金貨……1000枚……。

何度も言うが私のカタールは金貨2枚で購入した物である。

『ほう。これが金貨1000枚とは買い得であると断じよう。』

金銭感覚ぶっ壊れてますね!買えなくはないんです!買えなくは!

『ふむ。左様か。思考を読まれ続けるか、この杖を購入するか

好きな方を選んでよいぞ。』

購入します。私は即決した。

「ありがとうございましたー!」

店を出ると太陽が目に染みる。なんてこった。

早速宿屋の部屋に戻る。

恐らく今朝からいた窓際がトート様のお気に入りの場所なのだろう。

『左様。良き着眼点である。良きに計らえ。』

私は窓際テーブルの上にアストラクロノスを広げ

杖を寝かせて置く。

『うむ。上々である。』

トート神はバサリと羽ばたき

用意されたアストラクロノスの上へとフワリと舞い降りた。

その足元には、聖杖ソフィアグレイスが静かに横たわっている。

聖布の柔らかな感触を確かめるように一歩、また一歩と歩き

満足げに小さく頷くと、トート神は羽を窄め、体を丸めた。

真っ白な羽毛が、淡い光の中でファサと膨らむ。

目を細め、嘴をそっと羽の中へと埋めると

トート神は、すうすうと静かな寝息を立てはじめた。

……お昼寝かな?

まぁでも満足してもらえたみたいだし

多分思考リンクを遮断してくれているだろうと思う。

約束だったからね!凄い出費だったし!

まぁ寝顔は……そこそこ可愛いかもしれない。

私は昼食をとるため一階に下りて行った。

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