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献身と種の正体

私は夢を見ていた。前世の夢だ。

私が小学生中学年の頃に犬を飼う事になった。

血統書などついていないホームセンターの駐車場に捨てられていた

雑種の子犬だ。

子犬のうちは室内で飼育していたが

大きくなったら屋外で飼育する事になった。

散歩と夜ご飯をあげる係は私だった。

犬の夕食は人間の残飯で、その子はガツガツ食べていた。

当時はネットなどなく、犬用の食事を与えた方が長生きをする事は

私を含め家族の誰も知らなかった。

その犬は私によく懐いていた、散歩とご飯係

彼女のヒエラルキーの中で私はトップでボスだった。

現実の家庭内の私のヒエラルキーは最下層だったが。

家では虐待され学校では虐められ私のよりどころは無かった

ただ家に戻り彼女の所へ行くと激しくグルグル回転し

ウレションをまき散らし、私の顔をベロベロ舐めた。

私の本当の家族は彼女だけだった。

中学の頃家に帰ると何時もなら近づいただけで

ガタガタ大きな音が聞こえるが、その日は静かだった。

玄関から家の外周を通り犬小屋に向かう。

そこには横たわり既に硬直が始まり冷たくなった彼女がいた。

遺体は家族で霊園の近く穴を掘り埋めた。私は一週間泣いた。

学校では虐められないように常に人に媚びていたが

その一週間はどうでも良かった。

蹴られたり殴られたり押さえつけられたり

プロレス技の掛けられ役になったり。

完全な無抵抗だ。虐めてる側は、さぞ楽しい一週間だったと思う。

どうでも良かった。好きにしてくれればいいと思っていた。

私は愛犬の死に際を看取ってあげられなかった事が

ずっっっっと、大きな後悔となり胸に突き刺さっていた。

残酷な結末ではあったが、今回はうさにゃを看取る事が出来た。

悲しみはとても大きいが少しの安堵もあった。

ずっと胸に突き刺さっていた棘も抜けたような気がした。

「……い!……せい!」

私を呼ぶ声がする。その言葉は私の心の深く暗い闇に落ち

沈殿していた濁った闇をちょびっとだけ巻き上げた。

『目を覚まして……』頭に響く優しい声。

私の目にハイライトが戻る。

「先生!ひぐっ!先生!先生!ひっく!先生!」

ぼやけた目の焦点が定まって行く。

……あーちゃんだ。私はあーちゃんの瞳を覗く。

「あー……ちゃ……ん……」上手く声が出ない。

「うわーーーーーーーーーん!せんせーーーーーーー!!」

私の寝ている布団に顔を埋めて泣いているようだ。

私は精一杯の力を振り絞り手をあーちゃんの頭に乗せる。

「生きてて良かったーーーーーー!!!!」

一際大きな泣き声となる。

内装を見るとわかる。ここは王宮のどこかの部屋。

私はまた眠りに落ちる。

医者が私の脈を取っている所で私の記憶は途切れる。

鼻腔を擽る匂いで目が覚める。でも正直な所食欲はない。

「ふーっふーっ!はい!先生あーん!」

あーちゃんが十分粥をスプーンで掬い、私の口へ運ぶ。

口を開けざるを得ない。

「あむ……むぐ……むぐ……。」

「ゆっくり食べてくださいね、先生は3日間も食べていないんですから。」

そうか……三日経っているのか……。

ふーふーしながら次々と粥が口へ運ばれる

「なんで……先生は……私を置いて行ったの?」

「…………。」

弱っているからと思うだろう。実は原因は別の所にあった。

口に粥がずっと入っているので喋れないのだ。

「うさにゃもいなくなっちゃうし……」

私の粥を食む口が止まる。

あーちゃんには言い訳含め色々話さなくてはいけない事がある。

でも……今の私には事実を口に出すのは荷が重い。

「先生お口止まってますよ……ちゃんと食べてください。」

私は促され再び粥を食む。

「本当は分かっているんです。

先生は私を危険な目にあわせたくなかったから置いて行った

そうですよね?」

私はゆっくり微かに頷く。

「……私はそれでも……一緒に行って欲しかった……。」

再び私の粥を食む口が止まる。

言い返す言葉がない。私は大切な人に嘘をついてしまったのだから。

「ほら!先生お口止まってますよ……ちゃんと食べてください。」

私は促され再度粥を食み始める。どちらが年上なのか分からない。

二人は暫し無言で、あーちゃんから差し出される粥を無言で食んだ。

粥が終わると、あーちゃんは言った。

「滋養のお薬です。口を開けてください。」

言われるがままに私は口を開ける。

粉薬が口にサラサラと入ってくる。

「お水です。」

私は注ぎ口に口を付け寝転がったまま飲んだ。

「元気になったら聞きたいことが沢山あるので覚悟してくださいね。」

あーちゃんはそう言うと粥の後、食器の片付けや水の瓶を片付け始めた。

普通に考えたら、これらは全部侍女がやる事だ。

つまりあーちゃんは私の為に自分で全部引き受けてやっているのだ。

私はどうすればいいのだろう。色々な事がよくわからない。

考える間も無く意識は混濁し、また深い眠りに落ちて行った。

再び鼻腔を擽る香りで目が覚める。

「ふーっふーっ!はい!先生あーん!」

私は口を開け与えられた粥を食む。

親鳥が雛に食べ物を運んできて食べさせる

そんな画が脳裏に映し出される。

雛だった画像がうさにゃに変わる。

「…………。」

私はそれに気を取られ咀嚼をやめる。

「先生お口止まってますよ……ちゃんと食べてください。」

私はまたあーちゃんに怒られる。

私はもぐもぐと口を動かす。

「いなくなったのなら探せばいいのに……。」

あーちゃんはボソッと言った。

私の脳に電流が走る。

そうだ!いなくなったのなら!もう一度種から生えてくるかもしれない!

私はガバッと飛び起き

「ありがとう!あーちゃん!」

私は大きな声で礼を言うと城を駆け抜け

宿の部屋に戻る。

平常時の私ならリーブを使っただろう。

私は平常ではなかった。

私は鉢を持ち黎明の星森の泉へ飛び

急いで土を掬い全ての鉢を満たす。

そして全ての鉢に触れ宿屋の部屋に戻る。

私は同じ手順で種を撒き聖水をかける。

全ての鉢の魔法陣が淡く光り出す。

絶対にうさにゃを引く!何なら天井まで引いてやる!

私はそう念じながら鉢をじっと凝視する。

多分その様子は子供が縁日の金魚すくいで

得物を狙っているかのように映っただろう。

コンコンコン!

「先生……いますか?」あーちゃんの声がする。

「いるよ!入って!」私が言うと

あーちゃんは、おずおずと部屋に入ってくる

「あの……せんせ」あーちゃんが言いかけた言葉に私は言葉を被せる。

「うさにゃ!きっと来るよ!うん!絶対くる!」

私は鉢を凝視している。

あーちゃんは背後から半分申し訳なさそうで

半分憐みのこもった目で私を見ていた。

時間が経過する。

「先生……そろそろご飯を食べられた方が良いのでは?」

「あーちゃん先食べてきて!交代で私も食べに行く!」

「あ……はい……分かりました。」

そう言うと、あーちゃんは下の階へ降りて行った。

そして入れ替わりで私は食事をとりに行った。

私は鉢を凝視する。少し離れてあーちゃんが私を見守る。

鉢に変化が現れる。4つは発芽していた。一つは繭が出来ている。

私はその4つの鉢の中を窓から外へ投げ捨てた!

幸い下に人はいなく大事にはならなかったが。

その様子をあーちゃんは悲しそうな目で見ていた。

この繭はうさにゃだ!私は凝視を続ける。

あーちゃんがランタンに火を灯す。

そして時間が経った。

「先生もうそろそろ寝ないと……。」

「あーちゃんは先に寝ていて!私は後で仮眠取るから!」

「……分かりました。」

あーちゃんは私のベッドへ潜り込む。

実はあーちゃん宿屋へ来る前

陛下に暫く私の付き添いをしたいと願い出ていた。

陛下もそれを承諾していた。

数時間後あーちゃんは起きてきた。

「先生私が見張っておきます。先生は仮眠を取ってください。」

「ありがとう!あーちゃん!」

私は促されベッドで横になる。

この時あーちゃんは声を押し殺して泣いていたらしい。

本当に全く極めて私はどうしようもなく度し難い。

「……んせい……先生!」

私は目を開けると、あーちゃんが私を起こしていた。

窓からは最早高く上った太陽からの光が部屋へ差し込んでいる。

もう昼頃なのだろう。仮眠のつもりがガッツリと寝てしまったようだ。

気は張っていたはずなのだけれど

……精神的にも肉体的にも疲れていたのか弱っていたのか

人の体とは面白いものでダメージを追っていると脳が判断すると

勝手に体がスリープモードに入るよう出来ている。

酷い風邪をひいた時わけが分からないくらい寝てしまうのは

そういう事だ。私は飛び起きる。

「先生!繭から出てきそうです!」

私の顔に久しぶりに満面の笑顔が宿る。

「あーちゃん!」

「先生!」

私達はハイタッチをする。

そして二人は湿ったように変化している繭のてっぺんを凝視する。

マズルではないが毛並みのようなものが見えてくる。

私の期待は嫌がおうにも高まる。

ズルっと出てきた!

……

……

……なにこれ。

ずんぐりとした胴体に長い首に長いくちばし

私はこの鳥を知っている前世でトキと呼ばれていた鳥だ。

「……捨てよう。」私は窓を開け土ごと捨てようとする。

『儂を捨てよう等とは不敬である!』脳内に声が響く

あの時のうさにゃと同じ現象だ!

だけれど声ではないのだけれど声質が明らかに違う。

「……やっぱり捨てよう。」私は再び窓を開け土ごと捨てようとする。

『待てい!話を聞かぬか!儂はお主の認識しておる、うさにゃとは

血縁の者じゃぞ!』

私の脳裏に電流が走る。

なんだってー?!

「えっと詳しく話を聞かせてもらえますか?」

『良かろう。じゃが儂は、お主の心の声を聞いておる。

言葉を口に出さずともよい。』

『それでは、こちらのあーちゃんにも一緒に語り掛けてもらえますか?』

『承知した。』

あーちゃんの体がビクッと動く。今語り掛けられているのだろう。

話をまとめるとこうだ。

この鳥は古代エジプトの神トートの思念体

そして私達がうさにゃと呼んでいたのは

トートの妹で知恵の神セシャトの思念体という事らしい。

先日の戦いで妹の願いを聞き届け力を貸したのが

このトートらしい。

ほぼ全知全能と呼んでも差し支えない力を持っているらしい。

何故らしいを連呼するかと言えば全部この生き物が

自称しているだけだからだ。

『アリシアお主、今、儂の事を疑っておるだろう?

セシャト!聞こえるか!セシャト!この者に説明を。』

脳内にうさにゃ(セシャト)の声が響く

そして、それを裏付ける話を聞いた。

もう、これは信じるほかない。

『そういう事である。以後不敬は慎むがよい。』

何か神様のくせにドヤってるな、それにどうせなら

セシャト神の方がいいな。

『聞こえておるぞ。』

やば!脳内の声聞こえちゃうのか……

『左様。』

ここでセシャト神が語り掛けてきた。

『私ではあなたの危機を救うには力が足りません

実際、先日も思念体の依り代を犠牲にすることでしか

あなたの力になれませんでした。

ですが、兄は違います。私とは神としての格が違います。

どうか兄と仲良くしてくださいアリシア。』

そう言われてしまうと……そうするしかない。

『なんじゃそのやれやれという態度は、不敬であるぞ!

儂は妹思いであるが故に、其方に助力するつもりでおる。

儂と妹に感謝と信仰を捧げよ。』

分かりました。今後ともよろしくお願いします。

『うむ。良きに計らえ。』

その後私は陛下に謝罪をするため御前に向かうが

レヴィアン・クロウヴァーを退けた事で

逆に恩賞を頂いてしまった。

そしてあーちゃんを部屋へ送り渾身の謝罪をした。

答えはこうだった。

「ハグしてくれたら許します。」

あーちゃんは腕を広げて待っている。

私はあーちゃんを優しく抱きしめる。

「ごめんね……あーちゃん。」

「いいえ……いいんです。」

二人は耳元で言葉を交わし暫しそのままでいた。

あーちゃんは腕をはなすと

「それじゃあ先生!また会いに行きますね!」

「はい!待っていますよ!」

私はそう言うとバックパックからリーブの書を取り出し

宿屋へと戻った。

全知全能らしい神様との奇妙な共同生活がはじまる。

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