討伐!識別番号IW-H-0114アイスウルフ
「ふむ。アイスウルフ識別番号IW-H-0114
アイスウルフは通常人を襲わないが
この個体は人を襲っており幾つかの死亡例がある。
該当近隣の町や村の住人が困っている。討伐をしてほしい。か。
報酬は近隣住人からのカンパと王国からの補助金合わせて
金貨220枚。いいんじゃない?」
なるほど王国財務長官に、まともな人が就任したようだ。
国民の安全の為に補助金を出す良い長官だ。
「困ってる人の役に立つならお前の異論もないかなと思ってな!」
「そうだね死人が出ているなら放っておけないからね。」
私は依頼書にサインをし魔法道具を受け取った
それは魔法によりマークされている識別番号IW-H-0114の居場所を
特定する簡易マップのような装置だった。
寒冷地だ、寒さ対策をしておいた方がいいだろう。
「ロディーちょっと道具屋へ行ってくるから
暫く待っていて欲しい。」
「OK。行ってきな。」
私は道具屋で買い物をして戻ってきた。
「ただいま。」
「おかえり。何を買って来たんだ?」
「防寒対策だね。こっちには便利なものがあっていい
向こうのヒマラヤ山頂でも凍えなくても済むアイテムだよ。」
「へぇ~そんなのがあるんだな。」
「よし、では馬車で北へ向かおう。」
私はそう言うと馬車をチャーターした。
乗合馬車では目的地が決まってしまうので
時間のロスに繋がる。
馬車に揺られる事、数時間経過し、路には雪が積もっているのが見て取れる。
徐々に目標へ近づいてはいるが御者から言葉が来た。
「お客さん、これ以上は無理でさぁ。
圧雪までは進めるけんど、この先はアイスバーン。
無理だべ。」
「ありがとうございました。ここから先は私達で歩いて行きます。」
そう言うと私は馬車賃を支払いアイスバーンを歩いて進むことにした。
「うおっ!」ステーン!先行していたロディーが転ぶ。
「これ進めねぇよ!」私はクスクス笑ってしまう。
「笑い事じゃねーよ!どうすんの?これ?」
「まぁまぁ落ち着いて。」
私はごそごそとバックパックから靴裏に固定するスパイクを4つ出した。
「はい二つね両足靴の裏につけるといいよ。」
「マジか!ありがてぇ!ひょっとしてこれも道具屋で?」
「まぁね。」
「お前仕事できるタイプだろ?」
「いや、前世記憶見直してみれば分かるけど引きこもりだよ?
ネットしまくってたから知識だけは豊富なだけ。」
「そうかー。でも凄いよ。」
「お褒め頂きまして光栄ですビショップ殿。」
私は恭しく礼をする。
「名誉騎士様だけあって、板についてるな!」
私達は顔を合わせて笑う。
「さーて驚くのはこれからだよ。お待ちかねのやつ北の地方のお供。」
私はバックパックから小振りな銀の筒を取り出す。
蓋をあけ頭上で逆さまにする。
さらさらと粒子が流れ落ち私の髪に触れると淡い蒼銀の粒子がフワリと立ちのぼる。
それはわずかに煌めきながら風を創り出し私の足元を中心に旋回する
その風は冷たい空気を払いのけるように
じんわりと温かな膜を形成した。
「どう?これはゼフィルダスト。直径15m程の
温暖な空間を作り出す便利な道具。効果は一時間程度だけどね。
そこそこ購入してきたから、探索は寒さ気にせずできるからね。
周囲が猛吹雪だろうが、ここの中だけは快適空間って事。」
常温になっている為、先ほどまで言葉を発すると
白い息が出ていたが今はそうはならない。
「うお~!あれかーエベレスト頂上でも平気ってやつは
これかぁすげぇな!俺もこの世界の事色々学ばないとなぁ。」
「追々わかってくるよ、コンビニとかで新商品チェックする感覚で
何かのついでに色々な物を覚えて行けばいいよ。」
「了解!俺もコンビニで新しい物チェックするの好きだったからな。
この世界でもやってみるぜ!」
私達は話し終えるとマップで獲物を追う。
順調にターゲットへ迫っている。
ノルツハイム近郊だな。集落内ではなさそうだから。
外で障害なく戦闘できそうだ。
見えたIW-H-0114と接敵する。
外見は氷に覆われた透明度のあるのブルー
体は透明だ。奴の周囲からは氷点下の冷気が流れている。
魔力だろうか?しかし生物は循環器系が機能していなければ
生存できない。ひょっとして……?
「ロディー!バフを!」
「勿論!」
私はカタールを抜く。
ロディーはバフをかける。
私はというとバックパックからゼフィルダストを取り出した。
蓋を開けるとIW-H-0114に投げつけた!
蒼銀の塵が、アイスウルフの4mはあろうか巨体を中心に渦を巻き
ゆっくりと空気の色を変えていく。
氷の装甲に霜が走り、呼気が白煙ではなく、ただの息として散る。
アイスウルフの足取りが鈍くなる
ビンゴだ。
私は腰を低く落とし、カタールを構えたまま腰を落とし構える。
来るがいい王国住民を殺害せし氷の獣め!
識別番号IW-H-0114が咆哮とともに突進してくる。
爪を振りかぶり私目がけて振り下ろす。
ガキィィィィィ!
私はカタールで爪を薙ぎ払う!
やつは跳躍し牙で噛みつこうとする。
わたしは少し前にステップし顎を蹴り上げる。
アイスウルフは回転しながら後方に飛んで行き地面に激突する。
ヨロヨロと起き上がると態勢を整え突進に切り替える。
体当たりだろうな。
敵は私に向かって猛突進をしてくる
私はその突進を舞うようにひらりとかわし無防備な横っ腹に足裏で蹴りを入れる。
スザザザザザー!
やつは横向きに転倒しそのまま慣性の法則で滑って行く。
戦闘開始5分経過。
アイスウルフの動きに、わずかに間が出始める。
多少鈍ってはいたものの、まだ滑らかだった動作に
ほんの少し粘りが生じる。
最早先ほどの様に切れの無くなった爪の攻撃を
受けるまでもなく、宙を舞い奴の上へと跳ぶ。
ガギィン!
体重と慣性の乗った刺突の衝撃で氷の表皮が砕け剥がれ
砕けた破片が地に落ち散らばる。
10分が経過する。
最早アイスウルフは明らかに鈍くなり足取りは重い。爪を振るう勢いも落ちている。
背中の砕け残っている氷殻は融け始め、地に滴る水。
明らかに限界は近い、もはや立っているのも精一杯といった様相だ。
そこから攻撃は無くなった。最早目の前にいるのは。
死が徐々に近づいている哀れな獣だ。
15分経過
かつて氷に覆われた巨躯は皮膚が丸出しとなり、もはや形ばかりの威容。
獣は立っているのがやっとだ。脚が震え、呼吸が熱を持って掠れる。
人を喰らった時点で、赦しなど与える事は出来ない。
哀れに思い、このまま見逃せば更なる犠牲者が出る。
アイスウルフは、一歩、二歩と後退したのち、とうとう力尽きたように崩れ落ちた。
ズシン……
肉体はもはや冷気を保てず、凍土に伏したまま微動だにしない。
私は確認のための接近する。
倒れた獣の胸元に膝をつき、前脚の内側へ指をあてる。
本来ならば凍てつくような皮膚の下だが
空気の温度の為、暖かさがあり脈はない。
呼吸も止まり、眼には反応がない。
討伐は成された。
もはや獣の躯は、ただの屍でしかなかった。
「終わったのか?」
「そうだね終わったよ。」
「俺、今一何が起こったか分からないんだよね。
時間があったら説明して欲しいんだけど。」
「あぁいいよ、ロディーは前世の生物アイスフィッシュを知ってる?」
「あーゲームとかで出てくるやつだろ?」
「違うよ、南極に生息しているアイスフィッシュ。
日本名ではコオリウオって言うんだけど
血液にヘモグロビンが無いから血液が透明
そいつ氷点下でも、というか氷点下でしか生きてられないんだ。
何でかというと不凍たんぱく質が血液に混ざっている。
血漿に酸素を溶かす事でヘモグロビンの代わりをしている。
因みに表皮から酸素を取り込んだりもしている。
で、摂氏一度以上で命が危険に晒される故に南極でしか生きられない。
アイスウルフがこの理論で生息しているならと思ってゼフィルダストで温度を上げてみた。
体躯が4mなので効き目は遅くなるのは織り込み済み。」
「へ~詳しいな、何でそんなに詳しいんだ。やっぱりネットか?」
「いや、うちは毒親でね、子供の頃小遣いはなく
週一の週刊少年横跳びの180円しかもらえなかった
その代わり図鑑は豊富に買い与えられていた。
仕方なくしょっちゅう見るのは図鑑だったから魚図鑑で覚えた知識だね
何というか……異世界で毒親に助けられるとは皮肉なもんだ。」
「なるほどなぁ知識って大事だな。
勉強って何の役に立つんだよと思ってたけど
意外な所で役に立つこともあるんだな。」
「そういう事だね。特に異世界冒険者は常時サバイバルみたいなもんだから
現世では知っていても、あまり意味のなかった無駄雑学知識が役に立ってるね。」
IW-H-0114の位置確認マジックアイテムを確認すると
オレンジ色の大きな光が赤色になっていて討伐と表示されていた。
「よし、帰ろうか!」
「そうだな。」
私達はリーフでギルドへ戻った。
それぞれ報酬を山分けして、ロディーを私の部屋に呼んだ。
「どうしたんだ?」
「うん。実はちょっと言いにくいんだけどさ……」
「一緒に依頼こなすの週一くらいにしてくれない?」
「むむ……俺の事嫌いか?」
「いや好き嫌いで言ったら好き側だけど
ほら後で過去の記憶覗いてもいいけど
私は元、引き籠りだったからね。基本的に一人が安心するんだ。
だから相棒であってもしょっちゅうだと疲れるんだよね。
知らない間に気遣ったりしてたりさ……分かってくれるかな?」
「そっか、俺としては嫌われてなくて安心したわ。
理由は分かった。アリシアの安息の為なら俺は我慢するぜ。
じゃあまた一週間後ぐらいに会おうぜ!」
「ありがとう。一つ肩の荷が下りたよ。」
私は拳を前に出す。
ロディーはそれに拳をコツンと合わせる。
「じゃあゆっくりしてくれ相棒!またな!」
そう言うとロディーは部屋から出て行った。




