あーちゃんの上位職
「先生!聞いて下さい!昨日牢に不審者が侵入して!
罪人が殺されたみたいです!怖いですね……。」
あーちゃんは、ややオーバーアクションで言う。怖いのは本当だろう。
「そうなんですか(心配)それは怖いですね(すっとぼけ)。」
私は最近、嘘をつく。人はそれぞれペルソナという仮面を被って生きている。
そして大方の人は自分の理想に合わせ生きるよう、嘘をつく。
これが嘘をついても平気な相手だった場合は心も痛む事は無い。
しかし大切な人や良い人に関しては相手を慮っての嘘であっても、もやっとする。
「まぁ被害にあったのが罪人であったのは不幸中の幸いでしたね。」私が言うと
「はい!私もそう思います!」あーちゃんは答えた。
二人は笑顔を交わす。
「勉強は順調ですか?」
「はい、やっとAランクをエンチャントできるようになりました!」
「え?!もうそんなところまで?!あーちゃんは才能の塊ですね!」
「え……そんな事ないですよ。これからどんどん難しくなるって言われましたし。」
そう言いつつも褒められた嬉しさは隠せないようで照れている。
私はあーちゃんの頭を撫でる。
「そんな事はあります。元家庭教師として
あーちゃんの才能は極めて高いと保障します。
多分王国随一の知識や技術を吸収する力の才能を持っています。」
「そ……そうでしょうか?」あーちゃんは照れる。
私は一つ考えていた。あーちゃんはAランク剣士だけれど
かなりに実践を積み、Sランクの昇格どころか今の腕なら
上位職を狙えると思う。
「あーちゃん、私とダンジョンへ行きかなり修練を積みました。
そろそろ冒険者協会で上を目指しても、いいのではないでしょうか?
そうすれば一緒に行ける依頼も増えますし。」
「はい!先生がそう言うのなら挑戦してみますね!」
というわけで私たち二人は冒険者協会へ来ていた。
早速あーちゃんは申込をしてSクラス剣士の試験を受ける。
結果は言うまでもないだろう。
試験官を圧倒しあーちゃんは当然合格した。
引き続き上級職だが剣士の上級職派生は、他の職に比べ多い。
剣士は冒険者の基本中の基本職業なので当たり前と言えば当たり前だ。
剣士の上級職の特色に目を通す
「んー……あーちゃん、これどう?」
私が指さしたのはルーンヴァルキリー
特色は
神官魔法と剣技の両方を扱える神官剣士。
光や回復系魔法、バフ、剣技を得意とする。
「これどうかな?あーちゃん神聖魔法使えたでしょう?」
「そうですね!私にあっていると思います!」
「それでは早速試験官に神聖魔法見せつけて
ちゃっちゃと上位職になりましょう!」
「はい!」
そう言うとあーちゃんは申込に行った。
試験官はあーちゃんの神聖魔法を見ると文句なしに合格を与えた。
あーちゃんは私の方にかけて戻ってくる。
「先生!見てみて!」
あーちゃんの首にかかっている冒険者証には
Fランク、ルーンヴァルキリーと表記されていた。
私は掌を上げ腕を直角にあーちゃんに出す。
あーちゃんは一瞬気が付かなかったのか
少し遅れて気が付きパシッとハイタッチをした。
「これであーちゃんも上位職!感慨深いですねぇ。」
私は目を瞑り両腕を組んで頷き充実感に浸った。
「一応昼頃だけど、掲示板チェックしてみる?」
あーちゃんに聞く
「そうですね良いのがなければ、どこかお出かけしましょう。」
「そうですね、そうしましょう。」
そう言うと2人はギルド掲示板へと向かった。
着いてみると、やはり人影もなく依頼も少なかった。
二人して掲示板に目を通す。
「これどうですか?」あーちゃんが指を指す。
その依頼内容はスズヤ草の採取とある。私の知らない草だ。
アリシアの記憶にもない。あーちゃんは知っているのだろうか?
「いいですけど、あーちゃんはこの草花知ってるの?」
「はい!スズヤ草は神官魔法の授業で習いました。
実際に本物も見せてもらいました。
魔力の流れを穏やかにする性質があって
回復魔法の補助触媒として使用される事も、あるそうですよ?
回復ポーションにはよく使われていて
精製した香料は安眠やストレス緩和にも使われているそうです。
振ると、チリリと優しい音がするんです。」
「詳しいですね。それではこの依頼にしましょうか。
それにしてもちゃんと学んだ事を覚えていて偉いですね。」
そう言うと私はあーちゃんの頭を撫でた。
得意気にしながら照れている。
私は冒険者ギルド内でサインをしに行き、出立した。
ハルド氏の件は敢えて話題に出さなかった。
個人的に聞きたい事や非難などは多々あるけれど……
ギルドの依頼は、あくまでギルドの依頼で仕事なのだ
それ以上でもないし、それ以下でもない。
それは依頼の受け手もそうであると同時に
依頼の仲介者たるギルドも同じなのだ。
だからこそ、独断で手を下したのだ。
街を出ると2人ともフードを取る
「うーん!やっぱり日の光は良いですね!」
「そうですね♪」
一応合わせておくけれど私は陰の者なので部屋の中が
一番好きだ。
「森の縁や川沿いの斜面
日当たりの良い場所に群生しているって言っていましたね。」
首都から百メートル程離れた場所にローゼリアン川が流れている
「それではローゼリアン川縁を探してみましょうか?」
「はい!」
私達はローゼリアン川へ向かった。
川面をなぞるように、柔らかな風が通り抜けていく。
夏の太陽はまだ高く、けれど昼下がりの気配を帯びて
ローゼリアン川の流れに水面は白金に煌めいている。
川縁の細道には、湿った土と草の匂いが混ざり合い
足元を擽るように低草が揺れる。
頭上では鳥達の囀りが重なりあう。
あーちゃんは注意深く
川縁に咲いている野花を見ながら歩いている。
私はその横で、ながら見しつつ歩幅を合わせ隣を歩く。
でも私は現物を知らないので発見は、お任せだ。
水面がゆらりと揺れ銀色の水面に円形の流れを作るが
それを作ったであろう影は川の流れと共に消える。
魚だ。そう言えば前世では幼い頃魚釣りをしたっけ。
そんな事を考えていた。
「んせ……せんせ……先生!」
私は腕が引っ張られている事で気づく。
「……ん?どうしたのあーちゃん?」
「あれっ。」
指の先の方を見ると
草丈は20〜30cmほどだろうか細く弓なりにしなるよう
全体としては白く花の先端は淡い青で半透明な花
それらが一つの茎に並んでついている。
風が吹き抜ける。
チリリリ……チリリ……チリリリ……
群生している為に花の音が重なり合い
宛ら小さな鈴の合奏の様相だ。
私達は言葉を交わすことなく自然と二人とも目を瞑り
暫くその合奏に耳を傾けた。
「取ってきますね!」
暫くの後あーちゃんは、そう言うとスズヤ草を摘み始めた
「えっと……いくつでしたっけ?」
おっと……私とした事が失念していた
依頼書の本数まで目を通していなかった
当然報酬も目に入ってはいなかった。
「確認を忘れてました。10本ほど摘んで行きましょう。
用途のあるものなので多くても困る事もないと思います。」
「はい!」
あーちゃんは返事をすると10本ほどスズヤ草を摘んできた。
私達は来た道を戻る。あーちゃんの手で揺れるスズヤ草は
小さな合奏を合奏を響かせている。
「心安らぐ音ですね。」私は言った。
「そうですね。沈静化の香料としても使われますし
回復のポーションのみならず、安眠の作用もあるとされています。
地方によっては花の音を聞いた者は
当日の夜、良い夢を見るという言い伝えもあるそうです。」
「そうなんですね、あーちゃんは色々知っていて賢いですね♪」
「神官魔法の先生の受け売りです。」
「うんうん。そうやって知識は育まれていくものです。
私の知識だって全て誰かの受け売りです。
それを覚えていられるか忘れてしまうか。
その違いが賢さを分ける分水嶺ですね。」
そう言いながらあーちゃんの頭にポンポンと優しく触れた。
「色々覚えられるよう!頑張ります!」
「そうですね♪」
私達は街の近くまで自然と手を繋ぎ歩いた。
街の近くまでくると私達はフードを目深に被った。
冒険者ギルドへ行くと花の本数を確認する。
「依頼は5本でしたね。」受付嬢は言う。
5本余ってしまった。と思っているとギルド受付嬢は言う。
「残りの5本はこちらで引き取りましょうか?」との事。
喜んで引き取ってもらう事となり。
色を付けて報酬の銅貨120枚を受け取った。
「今日は銅貨60枚ずつですね。少ないですけれど、どうぞ。」
あーちゃんに渡す。
「金額ではないですからね!
先生と過ごす時間はお金に換えられないです!」
あーちゃんは胸を張って言う。
「そう。そうですね。私もそう思います♪」
あーちゃんと過ごす時間はプライスレスだ。
二人は手を繋いでギルドを出た。




