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真実と涙 後編

こんにちは、お越し頂き有難う御座います。

今回は残酷な拷問描写があります。

そういったものが苦手な方は段落を開けてありますので

そこまで飛ばしてください。

宜しくお願いします。

表へ出ると人がいないのを確認しリーブを使った。

私は迷った。今すぐ陛下へ奏上すべきか?

もう夜も更けている為、翌日に回すか。

幸い証拠は私の手中にある。明日の朝でも問題はないだろう。

宿屋へ戻り食事をとり、早めに眠りについた。明日は朝一で報告だ。

私は、この判断を後々まで後悔する事となる。

翌朝私は書類の束を抱え城門へと向かい衛兵に挨拶をし城内へと入る。

回廊の番をしている衛兵は間も無く交代の時間なのか

疲れた表情をしている。私は玉座の間へと向かう。

私は改まり陛下へ証拠の書類を渡し一切を奏上すると。

直ぐに王国財務副長官を呼んだ。

そして書類を見せ真意を問うと紛う事なき証拠であると断じた。

陛下は直ぐに王国財務長官ルジェル・エルヴァインを連行するよう命じた。

陛下の前引き出されるルジェル。

よく口が回るなと呆れるほど、ルジェルは言い訳をする。

が、陛下の裁定は覆らない沙汰は追って言い渡すとし

独房への幽閉を命じられた。

「この事を知らせに参ったのはどの者ですかな?」

ルジェルは不敬にも陛下に問うた。

いまさら何を足搔こうと無駄だ。

陛下は私の方を見る。

それと共にルジェルも、こちらを見る。

寒気が走った。ルジェルの口角は不気味に上がっており。

まるで勝ちを宣言しているかのような表情だ。

気でも狂ったか。私は冷静を装い無表情に務めた。

そのまま衛兵にルジェルは連行され牢に入れられた。

私は玉座の間で待っていた。アメリア姫様が来た。

「お父様こんにちは!先生!こんにちは!」元気に話しかけ近くへ来た。

私はアメリア姫の頬に手を当て

「こんにちは。」と返した。緊張していた心と表情が緩む。

何か陛下への報告があったようで、報告をしていた。

それが終わると玉座の間を出ていかれる。

私に向かって笑顔で手を振られるので私も笑顔で振り返した。

陛下の方を見ると私の方を向いて笑顔で頷いている。

私は安堵した。最後の仕上げが残っているが万事上手く運んだ。

そう思っていた。

夕方になり使者が駆け込んでくる。

その報告は想定の範囲外の物であった。

「グランミード財務局長官ハルド・レイアス殿お迎えに参じましたが

……葬儀が執り行われておりました。」

「あいわかった。下がって休め。」

王は視線を落とす。兵士は玉座の間から出て行く。

なん……だと……。何故ハルドが死んでいる?

昨夜は生きていたのに何故だ!私は殺してないぞ!

「アリシアよ……そなたのハルドの執り成しは、どうやら出来なくなってしまったな……

そなたも下がって休め。」

私は呆然としていた。陛下の声も耳に入っていない。

「どうしたアリシア!下がって休め。」

王は私を気が付かせようと初め語気を強めたが

私を気遣い最後は優しく語った。

「は……い……。承知いたしました……。」

私は生気が抜けたように玉座を後にする。

玉座の間を出て暫くすると私は両膝から崩れ落ちた。

「何故だ……。どうして……。」私は一人空しく呟く。

そして脳裏をルジェルのあの表情が掠める。

私は気を取り直す。

私が向かったのは花屋だった。

カスミソウの様に白く小さな花をたくさんつけた

可愛らしい花が目に付く。

私はそれを花束にしてもらった。

嘘であったならば、無実の報告と共にハルドに花束を贈ろう。

私はリーブでグランミードへと飛んだ。

ハルドの家へ行くまでもなく、私は察してしまった。街の雰囲気で。

嘘であって欲しかった……。

足取り重くハルドの家へ向かう。

すれ違う人は皆、喪服を着ていて殆どの人が泣いていた。

私は涙をこらえる。自分の目で確かめるまでは泣いてはいけない。

近づくほど街の人々の咽び泣く声は大きくなる。

一際大きく泣いているのは子供達だった。

昨日、目にした子もいるが、そうでない子達もたくさんいた。

私は静かに列に並び順番を待った。

私の面会の番がくる。

ハルドは安らかな顔をしていた。青白い肌、血色はない。

傍には沢山の花が献花され

それはまるで黄泉への旅路を皆に見送られているかのようだった。

私の頬を涙が伝う。とめどなくあふれる涙。

視界が曇る。子供たちの泣き声が頭で木霊する。

私は涙を止める事が出来なかった。

「うっ……ぐっ……くっ……。」勝手に嗚咽が出る。

曇る視界で私は花束をハルドの胸に置く。

白いカスミソウの花言葉は

清らかな心。無邪気。幸福。感謝。親切。

「すまない……ハルド。」

それ以上の言葉は紡げなかった。

その先を言ったなら私は……

大きな声で泣いてしまいそうだったから……。

私は心のスイッチを強制的に切り替える。

涙を拭い、その場を離れる。

物陰に入るとリーブの書を使い王都へと帰還した。

私は城門を護っている衛兵から見えない所で時間を止める。

クロノコントロール、スタティック。

私は牢獄へと向かった。

私は牢のマスターキーを牢兵から拝借し

全ての牢兵を縛り目隠しをし牢獄の鉄門の外へ出した。

そして内側から牢獄の鉄門に鍵をかける。

リリース。時間は動き出した。


コツコツ。私は敢えて足音を殺さず行動した。

ガチャリ!

メイン通路門を開け

コツコツ。牢を見て回る。

いたぞ小汚い豚野郎。

牢越しに手枷足枷をされたルジェルは私に気が付き

「た……頼む!逃がしてくれ!金ならいくらでもやる!」

と私に懇願してくる。

糞野郎が!心で叫ぶが冷静を装う。

無表情の私は黙って牢の扉を開ける。ルジェルは勘違いしたのか

「恩に着るぞ!ありがとう!ありがとう!」

と言いながら私の体を舐めまわす様に見てきた。

度し難いクズ野郎が!

シュラッ!!

私は黙ってカタールを抜く。

「お……おい嘘だろ?!」

丸々と太った50代後半の男は恐怖の色を浮かべる。

「ショウタイムだ……」

私は深海にも届こうかというほど冷たく沈んだ声で言葉を放つ。

「お前……私以外に誰か雇ったな?正直に答えろ。」

正直に答えようが嘘をつこうが

お前に待ち受けている結果は同じだがな。

「あ……あぁ……言う。言う!雇った!雇った!」

「ハルドをったのは、そいつだな?

どこのどいつだ?」

「しっ……知らない!本当だ!複数、何人かギルドで雇った!

本当だ!信じてくれっ!」

「そうか。」

ズブシュッ……!

刃が沈んだのは、左腕のやや外側。脂に覆われた肉壁をカタールが貫く。

瞬間ルジェルの顔が引きつり、目玉がカッと見開かれる。

「あ゛ぁっ! がっ、やっ、やめっ、があ゛ぁあああああっ!!」

指は勝手に跳ね上がり、手首が手枷ごと宙に揺れる。

「金だっ! 金をやるっ!いくらでも!

貴様が欲しいものは全部出す!

だからっ、やめてくれ!お願いだっ……!!」

こいつからは全くをもって高潔さを感じられない。

ただ、己の命と痛みに怯えた豚が、そこにいた。

「……橈骨神経付近への刺突だ。

どうだ?勝手に腕から先が動く気分は。

痛みも相当だろう?」

私は言葉を終えると、手元のカタールを持ち直す。

チキッ!

まるで何かの手順を確認するかのように、静かに厳かに動作は続く。

男の膨れた右腹部。

脂肪の下に隠れた腸の気配を確かめるかのように、刃を滑りこませる。

「まっ……まっ、待てっ、それはっ!!」

プツンッと皮膚が裂け、脂の下に刃が沈む。ズ……ズズズッ。

「ぎっ……ぎぃいいぃぃいッッ!!あぐう゛ッ!! ぶッ!!!」

男の体が仰け反り、口から泡が飛び散る。

白目を剥き、下腹部を押さえることもできず

ただ脂汗を流しながらのたうつ。

「どうだ……?ハルドの無念はこんなものではないぞ?」

返事はなく、のた打ち回っている。

「……まだ喋れるか? それとも、もう痛みで思考も飛んだか?」

私はそう問うと、血に濡れたカタールを静かに引き抜く。

ズズッ……と脂肪の層を裂きながら、粘着質な抵抗感と共に腹部から刃が抜ける。

肉の奥から溢れ出る鈍い錆びた鉄の様な血の匂いが、空気を濁らせる。

ルジェルの体がビクビクと痙攣する。

開いた口から泡と血混じりの唾液が垂れ、意識は断続的に飛び始めていた。

「ぐ、ぅ……っ、は……ぁ……っ、っ、あぁ……っ、ぐぶっ……!」

胃液のようなものが逆流し、喉が痙攣する。眼球は焦点を結ぶ事は無く

身体が限界を訴えているようだ。

出血量も無視できない水準に達する。

皮膚は青白く、唇は紫がかっている。

カチャリ……

私はカタールを持ち替え

ルジェルの頭部をやや持ち上げた。

「……そろそろ意識を戻してもらおうか」

その言葉に反応したのか、あるいは首筋に添えられた冷たい刃の感触がそうさせたのか

ルジェルの目が、カッと見開かれる。

「…………っ!? まっ……まてっ、そこは、首はっ……ダメだっ……ッ!!」

声が割れ、叫びは嗄れた喉の奥で震える。

手枷を付けた腕が、バタバタと床を叩く。

足も同様に虚しく暴れ、音が床に反響する。

「死ぬっ……!ダメだっ!そこは死ぬッ!!首はやめてくれっ!!」

息が上擦り、喉が音を立てて泡立つ。

下顎がガタガタと震え、まるで寒さに震える子犬のようだ。

いや失礼豚だったな。

身体の震えは痛みではなく、死の確信によるものだろう。

「金だっ!金ならあるっ!欲しいものは……なんでもやるっ……

たっ……頼む、首は……首だけはやめてくれぇぇっ!!」

私はルジェルの耳元でハッキリと聞こえるように囁いた。

「ほぅ。ようやく、意識が戻ったようだな。

なぁルジェル。ハルドは、命乞する暇があっただろうか?

ハルドは私との対話の後に貴様の断罪を期待し油断していただろう。

もしかしたら、王国の中枢に巣食うウジ虫を排除できるかもしれない。

左遷先のグランミードの様に腐敗なく、王国の皆が幸せに暮らせる

そんな世界が来ることに心躍らせていたのではないだろうか?

しかしどうだ。

命乞いの暇などなく不意打ちで、この世を去ったのではないか?

その無念、幾許だろうか。

お前にだけ命乞いの時間が与えられるのは不公平だとは思わないか?

なぁルジェルよ。聞こえているか?」

ルジェルの震えは止まっていた。

もはや涙も声も出ない。ただ、白濁した目だけが刮目されたまま微動だにしない。

私は静かに立ち上がり、カタールを振り血を払い、()()を見下ろす。

かつては王国の財務を一手に握り、贅を欲しいままにしていた男の末路。

カチン。

私はカタールを鞘に納める。

()()には肉塊があった。

なお流れ出る血が、かつて生き物であったことを主張していた。

その胸に、もはや呼吸の兆しはなく心臓の拍動も止まっていた。


ルジェルは事切れていた。終わった。

ハルド……あの世から見ていてくれただろうか。

無念は、ほんの少しでも晴れただろうか?

……いや、きっと晴れることなどない。

それでも……

たとえ僅かでも慰めとなってくれたのなら……本望だ。

これが私に出来た精一杯だ……。

私は静かに目を閉じ、暫し黙祷を捧げた。

クロノコントロール、スタティック。

私は時を止め兵士たちを元の位置に戻し。

拘束を解き鍵を返した。

私はそのまま城門を出て宿の部屋へ戻る。

リリース。時間を動かす。

王城の方角から聞こえるざわめきを背に

私は浴びていた穢らわしい血をシャワーで洗い流していた。

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