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真実と涙 前編

「ふむ、上級職Sランク以上冒険者限定か。

悪いねロディー三日ぶりだけど私これやりたいから

今日は別行動ね。」

「マジかよー。また今日も俺はターンアンデッドするしかねーのか……。」

「いや、戦闘のない依頼とかあるでしょ。」

「まぁそうだけれども。しゃーなしか!

お前その依頼に何かピンと来たって事だよな?

そこは尊重するよ、また一緒に依頼受けてくれよな!」

「勿論だロディー我儘を聞いてくれて有難う。」

「礼には及ばないさ。お互い頑張ろうぜ!」

そう言うとロディーは拳を握り私の方へ突き出す。

私は、それに合わせて拳をコツンと合わせる。

「じゃあまたな!」そう言うとロディーは掲示板へと向かっていった。

依頼内容を再び見る

地方役人が地方税を不正に操作し、住民の支援を名目に私腹を肥やしている。

王都へ送られた監査報告にも虚偽があった。

これは王国の名誉に関わる問題。

表沙汰になる前に、静かに始末してほしい。

こんな依頼だ。報酬は金貨165枚。

高額なのは恐らく口止め料も込みでの話だろう。

何時、何処の世も税を管理する者の腐敗は後を絶たない。

この依頼を私がどうしても受けたかったのは

前世の日本の情勢と重なっていたからだ。

不正は誰かが正さねばならない。

誰も裁かない若しくは裁けないならば?

………私が裁くまでだ。今の私にはその力がある。

冒険者ギルドの中へ行きサインをして受付を済ますと

受付嬢は紙切れをスッと出してきた。

特に何も言わないし目線も次の冒険者を見ている。

なるほど。シークレットメッセージか。

グランミードのハルド・レイアスと書かれている。

これがターゲットという事か。

私は紙をビリビリに細かく破き横のゴミ箱に捨てた。

都市グランミード交易が盛んな都市であり

首都ローゼンシュタットには劣るものの

それなりに大きな都市だ。

ここからは東北方向にあり、乗合馬車で3時間ほどの場所にある。

私は早速乗合馬車に揺られ都市グランミードへと向かった。

日が真上に差し掛かる頃、私はグランミードへと着いた。

時は初夏。鳥が大空を飛び交い青い空に白い雲が流れている。

都市への道は荷車が行き交い交易が活発である事を如実に物語っている。

私は手で目の付近に影を作る。ヨシ。行くか。

私は街に入ると、ある程度全貌を把握するため外周に近い路を

周囲を確認しながら見て回った。

市内地ならば屋根伝いにでも追える。しかし市街地へ逃げられたなら……

外周近くは把握しておいた方がいい。

中心部には商業施設や露店、都市機能を担う様々な役所が混在している。

これは聞いた方が早いな。

杖を突いた、ご年配の老人がいた。

「あの、申し訳ありませんが、この都市の税務監理局はどちらになりますか?」

「他所から来た方かね?んーあそこじゃよ、あの特徴のある高い建物。」

ご老人は指を指して教えてくれた。

「ありがとうございます。露店許可を出しに行くので助かりました。」

私は商人の振りをする。

「いやいや、いいんじゃよ。でもお嬢ちゃん、まだ若いのに大変だねぇ

頑張るんじゃよ!」

「あ………ありがとうございます。」

励まされてしまった。嘘に対して心配りを受けると罪悪感が湧くものだ。

おじいちゃん嘘ついて、ごめんね。

私は早速教えてもらった建物へ行く。

他の建物よりも外観は立派で高級な資材が使われているかのような様相だ。

私の中で苛立ちが強まる。

私は旅立ちの時に父から貰ったインビジブルローブを着ている。

周囲を確認しフードを顔全体に被せ足回り周辺だけ見えるようにして

心で不可視を願う。するとスッと私の姿は街の景色に溶け込む。

私を視認できるものは誰もいない。

布の表皮にびっしりと隙間なく散りばめられた魔法素材による

いわば光学迷彩だ。

私は内部へ侵入すると、脳内マッピングしながら資料保管室へと辿り着いた。

資料室は薄暗く壁際に幾つか火の灯ったランタンがかけられており

そのお陰で視界は確保できる。

私は不正の証拠を暴く為、不正書類を探す。

2・3時間かけて引き出しを開け探したものの

そういった類の書類は出てこない。

やはり裏帳簿的なものは正規の場所には保管していないか。

本人に当たるしかなさそうだな……。

私は建物を出て路地裏へ移動する

不可視を解き再び建物の中へ入り対応係の所へ行く。

「すみません。こちらにハルド・レイアスさんはいますか?」

「あー局長なら今、外に出ておりまして

何かメッセージなどありましたら伺いますが?」

「それでしたら、また来ます。おじゃましました。」

「いえいえ、お気をつけて。」

私は外へ出る。

外出か、何をしている?取り合えずこの辺りで目撃情報を探るか。

お年を召したおばあさんがいる。

「あの、すみませんハルド・レイアスさん見ませんでしたか?」

「あぁ……さっき話をしましたよ。」

「え?では何処へ行ったか分かりますか?」

「あぁこっちの道を真っすぐ行くと小さな石橋がかかっているから

その辺りじゃないかねぇ。川へ遊びに行くと言っていたからねぇ。」

「ありがとうございます。」私は、お辞儀をするとその方向へと歩き出す。

仕事サボって川遊びとは良い御身分ですなぁ。

暫く行くと街並みは途切れ小さな川が見えてきた石橋もある。

子供たちの燥ぐ声が聞こえる。

「うわぁマジで囲いに入ってるすげぇ!」

「でけぇぞ!」

「ハルドおじさんすげぇな!」

私はその言葉で物陰に身を隠す。あいつか。

「参ったなぁ、まだおじさんって齢じゃないぞ!

お兄さんと呼んで欲しいなぁ。」

「何言ってんだよおじさんじゃんか!」

周囲の子達におっさんと囃し立てられている。

イメージと違うな。

壮年の邪悪なジジイを想像していたのだが。

「ウエーイ」「ウエーイ」「こらっ!やめなさい濡れてしまうだろ!」

子供たちは笑顔でハルドに水をかけている。

あいつ悪いやつなのか?

私は頭を振る。悪人とは表面上、善人を演じている事が間々ある。

「ユーリス!」ハルドは川べりで座っていた女の子に声をかける。

「何匹か取れたぞ、家に戻ろうか!

お前達も捕まえた魚逃さず持ってくるんだぞ。」

一緒に魚を囲い取りしていた男の子たちが魚を持ち川から上がっていく。

ハルドは大きな魚を男の子に渡し、手を服で拭いている。

「さぁお家へ帰ろう。」

ハルドは女の子の頭に手を軽く置きつつ言うと女の子は小さく頷く。

私は気取られないよう後をつける。

行き着いたのは布で作られた家。いやテントと言った方がしっくりくるだろうか。

「ユーリアさん!魚取れたよ!」ハルドはテントの中に向かって言う。

女性が出てくる。

「ハルドさん……いつもすみません甘えてばかりで……。」

そう言うと女性は顔を曇らせる。

「いえいえー!見てくださいよ!坊主たちも楽しんでいる。

何も気に病む事は無い。困った時はお互い様!」

そう言うと笑顔で片手を後頭部にやる。

少女はユーリアさんの子供のようだ。

母親の元へと駆けていくと母親に抱っこされる。

パン!とハルドは手を叩き

「ハイハイ。みんな中へ魚を運ぶ!急げ急げ!」

お道化ながら男の子たちを追い立てる。

「なんだよハルドのおっさん!急かすなよ!運ぶからさぁ!」

そんな子供たちを見てハルドはとびきりの笑顔をしている。

私はそこで踵を返した。

見せかけの表面おもてづらなら、評判を聞けば化けの皮は剥がれるだろう。

私は街中でハルド・レイアスの評判を聞いて回った。

誰一人悪い事を言うものはいなかった。

寧ろ生活困窮者に支援をしたり、公的に手が届かない所は

私財や色々と遣り繰りで市民を気遣う聖人みたいな評判しかない。

欺くために、ここまでする物か?私の中でやっと疑念が生まれる。

最早こうなれば本人に聞くしかない。

命を天秤にかければ命乞いの一つでもするだろう。

……さもなければ、他の線が出てくるはずだ。

時刻は夕方、日も傾き子供たちは家路へ急ぐ。

税務監理局の外で私はハルドが出てくるのを張る。

終業時間なのか多数の人々が帰宅を開始する。

その中にハルドはいた。

私は気配を殺し後をつける。

「ただいま。」ハルドは言う。しかし応答はない。

家族が出かけているのか、はたまた独り身が儀式的に口にするだけの物か。

判断がつかないまま中の様子を見ると、所帯的な感じはしない。

後者か。ならば面倒がなくてよい。

ハルドはジョッキを持ち奥のエール酒用の樽の方へ行く。

エール酒を注ぎに行くようだ。

私は音もなく扉を開け気配を消したまま背中へ駆け寄る。

ローブをまくりカタールを抜く。

その音に気が付きハルドは後ろを向く!

私はその喉元にカタールを突きつけた!

「大声を出したら殺す。変な動きを見せても殺す。

分かったらジョッキを置き、両手を挙げ跪け。」

私はゆっくりと諭すように語り掛ける

ハルドは大人しく従った。

「何で君みたいなお嬢ちゃんが……」

私がカタールの先端を喉に食い込ませると血がツツーと滲み出る。

「余計な事を言うな。次、余計な事を言えば殺す。」

ハルドはゴクリと喉を鳴らす。ハルドの挙げる両手が少し揺れる。

私はローブを脱ぎ捨て胸にかかった冒険証を見せる

「私はSクラス冒険者のアサシンだ。

言った事がハッタリではない事は分かったか?」

私が問うと顔面蒼白でハルドは言う。

「わ……わかった。」

私は本題に入る

「お前は税を私的に流用し暴利を得ているな?」

そう聞くとハルドは若干憤慨しつつ毅然として答えた。

「誓ってそれはない!!」

「ほう……例えば、この場で喉を掻き切られても無実だと?」

現状殺す気はないが殺意を込めて言う。

「そうだ!私は天に誓って断じて、そのような事はしない!

疑うならばこの場で私の喉を掻き切るがいい!!」

凛としている。というのは彼の様な状態の事なのだろう。

この状況下ブラフでは出ない言葉だ。

私は確信を得た。少し血の付いたカタールを払い鞘にしまい言う。

「楽にしていい。」

ハルドは先ほどの威勢はどこへやら、へなへなと床に、へたり込んだ。

「助かった……って事でいいのかな?」ハルドは言う。

「はい。何か事情がありそうだから話を聞かせてもらいます。」

ハルド氏暗殺はギルドの依頼である事。報酬は破格の高額である事。

今日一日、後をつけていた事。

全てを話した。

ギリッ!ハルドは歯ぎしりをする。

「心当たりがある。こっちへ来てくれ。」

そう言うと隣の部屋の鍵のかかった引き出しを鍵を開け

中から書類の束を取り出す。

「これは、王国財務長官ルジェル・エルヴァインの不正の証だ。」

そう言い私に書類を渡してきた。

目を通す。確かに不正帳簿のようだ。

しかし私は専門家ではないので事の真意は見抜けない。

「あいつ……!俺の口を封じるつもりだったんだな!」

ハルドは激怒する。しかしすぐに冷静さを取り戻し

所々熱を帯びるように語り始めた。

「正直な所……私はくそ真面目だ。常に誠実でありたいし不正は恥ずべきものだ!

税を取り扱う者として民の血と汗と涙の結晶を預かっている自覚がなければ

この職に就く資格はないと思っている!

私は元、ローゼンシュタット王国財務管理官として長官の下、働いていた。

ところが、ある日ルジェル・エルヴァイン長官の不正を見付けてしまった!

書類を纏め王へと直訴しようとした矢先!

……私のグランミードへの左遷が決まった。

最早、王様への告発すらできない身分になってしまった……。

証拠を握ったまま諦められず

私はこの地で歯痒い思いをしながら暮らしてきた。」

苦々しい表情で語っていたがフッと優しい表情になる。

「このグランミードの街の人は皆、心が綺麗だ。不正などとは全く縁遠い街だ。

とても居心地がいい。こんな私を頼ってきた皆を私は全力で支援した。

皆も私を慕ってくれていると思う。こんな良い街を私は知らない。

もう……忘れてもいいだろう。

ここの人々と楽しく穏やかに暮らせていけばいいだろう。

王国中枢の宮勤めの変な柵もなく、純粋な人達と心を通わせ

私は、ここで生を謳歌し、そして終えるのだ。出世などはどうでもいい……

私はそう考えている。」

そして悲しくも、はかなげな表情でハルドは更に語る。

「その書類は過去の私の残滓だ。君の好きなようにしてくれていい。

だがもし……もし!可能ならば!あの長官だけは……!

……いや、すまない、これは我儘だな。忘れて欲しい。」

そう言うと半分安らかで半分諦めが混じった表情で俯いている。

「ハルド殿。あなたの期待に沿えるかどうかは分からないが

私なりに動いてみようと思う。あまり期待はしないで欲しい。

が、しかし、私はギルド依頼書よりも貴方に賭ける(ベットする)事に決めた。

書類は預からせてもらいます。いいですね?」

決意を込め私が発言すると

「無論だ……そうか……ありがとう………ありがとう。」

へたり込んでいるハルドの瞳から涙が零れ落ちた。

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