高難易度依頼と友情。その後。
翌日もロディーは来た。
昨日きちんと裾合わせして貰ったらしく
程よいローブの丈になっている。
昨日一応当分の金銭は賄えたとの事で
Fランクビショップのロディーは名声の上がる依頼を
こなしたいという。
名声の上がる依頼は大方、危険な依頼だ。
いや、定義が逆かもしれない。
危険な依頼を成し遂げるからこそ名声が上がるのだ。
「わかってるのか?ロディー。」
私達は冒険者ギルドの掲示板への道を歩きながら会話していた。
「まぁ、そこはお前の能力で、ババッとさ!」
「言っておくが私の能力は万能ではないからな?
先手を打たれたら極めて脆い能力だと理解してくれ。」
「まぁ、なんとかなるっしょ!」
昨日こいつのポジティブさは見習わないとなと思ったが
前言撤回だ。危機管理能力がないのは大問題だ。
「呆れたやつだな……。」
そうこう言っているうちに私達はギルド掲示板の前へと辿り着く。
「じゃあ俺見てくるわ!」そう言ってロディーは掲示板の方へと駆けてゆく。
無茶な依頼を持ってこなければよいのだけれど。
暫くすると依頼書手に戻ってきた。
依頼書を私に見せながら言う。
「これなんかどうだ?」
「どんなの選んだの?」
私は依頼書に目を通す。
緋の峡谷南の小型砦が数十体の魔物に占拠された。
至急討伐の後、奪還されたし。
報酬金貨126枚。っと。
案の定だよ。これ軍というか王国からの依頼のヤバイやつだろ。
「あのね、これは相当やばいよ?手に負えないって。」
「いや、お前の能力使えば楽勝なやつじゃん?」
「私頼りか?」
「そうだけど?補助はちゃんとするぜ!」
「……。」
私は、そのまま目を瞑り考えを巡らす。
まぁ間違いではない。恐らく普通に考えたなら
その通りだと思う。
数が多い驕っている敵を相手に優位を取るのは得意だ。
何故なら相手は基本待ちの姿勢だから
時間を止めてしまえば、後は流れ作業どうという事は無い。
しかし私達にとってイレギュラーな
高難易度の敵が紛れ込んでいた場合は話が別だ。
遺跡の主レヴィアン・クロウヴァーの様なイレギュラー……。
それにしても気になるのは金額だ。
難易度を測るのには報酬を目安にすればいい
金貨126枚はあまりに報酬が高すぎる。
危険度はかなり高いとみるべきだ。辞めるたほうがいい。
私は目を開けロディーを諭そうとする。
あれ?ロディーがいない?どこへ行った?
すると冒険者ギルドのドアが開きロディーが出てきた。
「お前の手を煩わせないよう、俺がサインして受け付けてきたぜ!」
こいつ……。ほんまに……。
「はぁ……命の保証はできないぞ!いいのか?!」
私は強めに言った。
「大丈夫大丈夫!こんなの無敵のアリシア様にかかれば一件落着よ!」
「ばかっ!お前っ!」
周囲がざわつく
「えっ!アリシア様?」「名誉騎士の?」「えっどこだよ?」「どこどこ?」
私はバックパックからリーブの書を取り出しロディーの手をとり
街外れへと跳んだ。
「だから人前で私の名を呼ぶなと言ってあるだろ!しかもギルド掲示板の傍に
私の周知お披露目の名誉騎士人相書きの立札もあるんだぞ!
何の為に目深にローブ被って移動していると思ってるんだ!もう!全く……。」
本当にこいつとPT組んでいて大丈夫なのか?
何か私こいつのせいで死にそうな気がしてきたぞ……。
「すまねぇ!つい口が滑っちまった。許してクレメンス♪」
殴っても、いいかなこいつ……。
私は黙って緋の峡谷南の小型砦へと向かう。
「なぁー……ごめんて!機嫌直しておくれよアリシアちゃん!」
私の目の前で私の足取りを邪魔しないように
速足で歩きながら両手を合わせ頭を下げている。
器用なやつだな。
「あーもういい!うっとおしい!それよりも
マジでお前、命の覚悟できてるんだろうな?
本当に、やばいと思うぞ?この依頼。」
「俺にはアリシアちゃんが付いてるからな
大船に乗ったつもりでいるぜ!」
人任せすぎるだろ。なんか諭すのもバカバカしくなってきた。
イレギュラーさえなければ何とかなるだろう。
さっさと片付けて帰るか。
半日も歩くと小型砦についた。
物陰が無いため草に身を隠し砦の様子を探る。
うん。あれ魔物じゃないな。人型をしているダークパープルの
黒に限りなく近い肌色。魔族だ。
チッ!厄介だな!でも見たところ低級魔族っぽいため
何とかなるだろう。魔物よりはずっと骨が折れるだろうけど。
「補助をかけてくれ。行くぞ。」私はカタールを抜き
砦から目を離さず小声でロディーに話しかける。
「了解。」そう言うとロディーは無詠唱で私にバフをかける。
私の体を光が包み込む。これはブレスだろう。
カタールに光が宿る。これはエンチャントホーリーか
相手が魔族だという事は分かったようだな。知識はあるようだ。
しばらく無言の時が流れる。
「よし、いいぞ。」GOサインが出る。
何かのバフ魔法をプラスでかけたのか?よくわからない。
交戦してからのお楽しみか。
私は草叢から駆け出すと、あえて砦から見やすい位置に立ち叫んだ。
「魔族どもッ!!!こっちだッ!!!」
砦の表に魔族が集結する。魔法を唱え始める魔族もいる。
よし全部出揃った頃か。
クロノコントロール!スタティック!
私は時間を止める。
私は足早に砦に潜入する。
陽動をかけたため魔族は挙って外に出て私が居た場所を見下ろしている。
エンチャントリーディング!魔族の背中に手をかざし
一列に並んでいる魔族の背中をスキャンするように移動する。
一匹目!ザシュッ!パキィン!
魔族の背中部分には命の塊の核が埋まっている
それを砕かれると霧散して跡形もなくなる。
ある意味ゴーレムと似たようなものだが
性質も理論も全く違うものだ。
それぞれ個体毎に位置に若干ズレがあるため
魔力感知で調べればそのズレを補正し100%核を砕ける。
二匹目!ザシュッ!パキィン!
三匹目!ザシュッ!パキィン!
私は流れ作業の様に魔族のコアを破壊してゆく。
1F12体、2F8体、3F10体の計30体の核を破壊。
完了だ。思ったよりスムーズに行ったな。
私の考えすぎだったか。
リリース!
「ふぅ……。」私は一息つくと
魔族は時間が動き出すと思に全て同時に霧散した。
私は砦3Fから顔を出し
「ロディー終わったぞー!何とかなったわー!」と大声で呼びかけた。
さて合流して帰るか。
私は階段を降り砦入口へと向かう。
外にはロディーが待っていた。
杖を握った片手を、こちらに向けている。
杖の先には柔らかい緑の光が集中しているのが見える。
全く……何やってんだか……
「カハッ……?!……」
胸と喉の合間首下に鋭い痛みが走る。
下に目をやると、その部分に何かが突き刺さって私の体を貫通しているのが見える。
声が出ない。意識が遠のきかける。ズッ……。視界に刺さったそれが抜けるのを見た。
何が起こった……訳が分からない……。
次の瞬間、緑の光が私の体の穴の開いた付近を包み込みその部分を再生した。
意識が戻る。バッ!!私は後ろを振り返る!
そこにはニヤニヤと下卑た笑いをした魔族がいた。
多分こうだ、私は魔族の不意打ちを受けた。見た目の状況判断から
ロディーは先手を打ってヒールを無詠唱していた。
そう!私は不意打ちを受けロディーに助けられたのだ!
「貴様!何者だっ!」私は魔族に吐き捨てる。
「おやおや、仕留め損ないましたか……まぁ良いでしょう。
それでは自己紹介。私は、ここの魔族の指揮官……
とはいっても、部下は貴方に葬られてしまいましたがね。
私は悪魔フォリクス。どうぞお見知りおきを。」
そういうと恭しく礼をする。気に障るやつだ。
が、一つ得心がいった。
悪魔なら魔族と違い私に悟られることなく気配を隠す事など造作もない事だ。
「話が出来るという事は、知性があるという事だな。
貴様何の為に、この砦を掌握した!あと、ここの警備兵はどうした!」
私は悪魔フォリクスに問う。
「私はある人間と約束をしました。それが履行されなかったのです。
だからお仕置きをしようとしているのですよ。人間にね……。
そうそう、警備兵はここです。」
やつは芝居がかった風にトントンと胸元を指さす。
「魂は食べました。20ぐらい、いや25ぐらいでしたかねぇ。
もう兵士の蘇生はできないでしょう。この世に彼らの魂は無いのだから。
正直あまり美味しくありませんでしたが、前菜としては
まぁこんなものでしょう。」そう言うと両手を広げる。
「外道めっ!!」ペッ!
私は口の中に溜まっていた血を吐き出しながらそう言った。
「私が!今ここで!お前を殺す!覚悟しろ!」カタールを抜き構えながら
私が叫ぶと光が私の体を包み込みカタールには光が宿る。
分かってるじゃないかロディー!私にバフはかけられた。
「んっふっふっふっふ、私を倒すのは不可能です。
だ・か・ら・教えて差し上げましょう。
私の魂のコアは体の周囲を超速度で
不規則に回転しています
人間の目で捉えるのは不可能でしょう。
さぁ絶望に震えなさい♪」
「バカが!自分から弱点をべらべらしゃべるとは、お頭が弱いな?
一つ聞くが、お前との約定を違えた人間はどこのどいつだ?
お前を葬った後。私がそいつを、お仕置きをしておいてやる!」
「あ~……その人間なら疾うの昔に息絶えていますよ。
私がしているのは人間へのお仕置きです♪」
ザッ!!私は素早く悪魔フォリクスの耳元へと体を滑り込ませ囁いた。
「それは逆恨みというのだよ。フォリクスくん。」
クロノコントロール!スタティック!
「どんなに高速で動いてようとも
時間を止めてしまえば唯の動かぬ塊だ。」
静止しているフォリクスのコアをカタールで貫く。
スッとカタールが通りパキィン!とコアは砕け散る。
なるほど。ロディーのかけたであろう謎魔法
武器の切れ味をよくする魔法だな?
リリース!
「?!……なん……だと……。」
霧散する体を愕然とした表情で眺めながらフォリクスは呟く。
「たかがっ!!!たかだかっ!!!人間風情にっ!!!!
この私がああああああああぁぁぁぁ!!!!」
叫び声は体と共に空しく霧散した。
「やったか?!」ロディーは言う。
「おい!フラグ立てるのやめろ!」私が言う。
ぬるぽガッみたいな定型みたいなものだ。
「まぁでも、助かったよ文字通り。うん。助かった。
あのタイミングで回復がなければ私は死んでたよ。
ありがとうロディー。」私は頭を下げる。
「なんだよ……お前……あの程度しか役に立たないとかさぁ!
やっぱ使えねぇわーとか言わねーのかよ?」
「冗談でもそんな事は言えないよ。
君は間違いなく私の命の恩人だから。」
「キッショ!キッショ!キッショ!
言っとくけどな!お前に、そういうのは似合わねーからな!」
子供みたいに、いや子供なんだけれども
地団太を踏むように悪態をつきながらもロディーは
照れているの丸出しである。
「相棒!お疲れ。」私はカタールを納め、拳を突き出す。
「お……おう。」目線を逸らしながらロディーは拳を合わせる。
友情のワンシーンってところかな。
「さて、かえろっか。」
「おう。」
私達はリーブを使い王都冒険者ギルドへと戻った。
報告を終え確認隊が派遣された。翌日には確認が終わり
直ぐに常駐兵が派遣された。
報酬も支払われ一人頭63枚の金貨を受け取った。
私はSクラスアサシンとなり、ロディーはAクラスビショップとなった。




