休暇の終わりと御褒美
私達はローゼンシュタットの鍵開けダンジョンともいえる
ダンジョンに潜っていた。
やはり鍵開け修行の聖地として知られているだけに
普通モンスターの強さに比して、そのフロアに存在する宝箱の中身の強度は高いのだが
このダンジョンに関しては宝箱の中身の強度に比してフロアのモンスターが比較的弱い。
あーちゃんも実践慣れして来ている為、以前の様に
急な攻撃に対処できなかったり怯んだりする事は略、無くなった。
私達は、この一か月出かける日や買い物、偶の依頼以外
ここでA~Sランクのマジックアイテムが出る宝箱を開けて回っていた。
あーちゃんには『感』を以前より確実なものにしてもらいたかったので
罠解除も鍵開けも全て担当してもらった。
その腕は最早、私を凌ぐのではないかと思うレベルで
鍵開けスピードは私よりも早い
殆どないものの偶々鍵罠に引っかかった時も
ガス系なら即座に後方に飛び退き吸引することなく
毒・麻痺・眠り等状態異常を回避
中から飛び出してくる矢も油断することなく完全回避。
これらの一瞬の判断は実践にも大きく影響すると思われる為
日を追う毎に反射神経系の戦闘技能も磨かれているだろう。
私としては感無量だ。そして宝物の鑑定担当は私。
何か楽をしているようで心苦しい。
「魔読」
私が宝物の鑑定をしていると後ろから突然
「あっ!そっかぁ!」とあーちゃんの声が聞こえた。
「どうしたの?あーちゃん。」私が問うと。
「んーん!何でもないです!」とはぐらかされてしまった。
「気になるなぁ……。」
「ふふっ。」
あーちゃんは悪戯っぽく笑った。
私達は時間まで周回を続けた。
「さて、そろそろ夕方の頃かな。」
「そっかぁ。」あーちゃんは残念そうに言う。
「さぁ帰りましょうか。」
「はい!」
私達はリーブでダンジョンを出る。
そしてマジックアイテムショップで
ダンジョン産のマジックアイテムを買い取ってもらい
何時も通り、そのお金の中からの支払いで夕食を宿屋の1Fで摂る。
「今日はあーちゃん一か月休暇の最終日
奮発した食事を頼みましょう。」
「おー!」あーちゃんは両手を上げる。楽しみのようだ。
「すみませーん!」私が手を上げ声をかけると
例のお姉さんが注文を取りにきた。
食堂は徐々に酒場へと変貌する時間帯で周りは賑やかになってきているし
厨房も忙しそうだ。
「今日は、高級ディナーコースを2人分お願いできますか?」
「あら!今日は何か特別な日かい?」
「こちらの、あーちゃんの慰労会みたいなものです。
ですから、腕によりをかけてお願いしますね!」
そう言うとあーちゃんはペコリと頭を下げる。
「任せときな!取って置きのを作ってくるからね!
楽しみに待っててね。
あとね、高級ディナーコース料理は忙しくたって
うちのメインシェフが説明に来るからね!
その代金も込みだから、遠慮せず説明を聞いてちょうだい。
では暫く待っててね。」
そういうとお姉さんは厨房へと消えていった。
「どんなのが出てくるんだろ楽しみだねあーちゃん!」
「そうですね!ワクワクします!
……それにしても楽しい時間はあっという間ですね……
先生と過ごす時間は本当に早いです……。」
本心なのだろう。私も本心を述べる。
ここでは少し恥ずかしい事を言っても
周囲の賑やかさに、かき消される。
「私もですよ、私は生きるために暮らしてきました。
楽しみは無く金を稼ぐ作業。それを生きる為に作業的にこなしていました。
でもあーちゃんと出会ってから、それは一転しました。
一緒にいると楽しいし可愛いあーちゃんを見守る事が
今の私の一番の楽しみです♪」
私はそういうと、あーちゃん頭にポンポンと手をのせる。
「私は……毎日が虐げられる暮らしで、はっきり言って
何でこんな思いをして生きて行かなくてはならないのだろうと
思っていました……
でも、先生と仲良くなる度に、楽しくなったんです!
先生は私の光です!本当に……先生と合えて……よかった……!」
あーちゃんの目が潤んでいるのがわかる。
「ありがとうあーちゃん。私も同じ気持ちですよ♪」
そう言って微笑んだ。するとあーちゃんも微笑み返してくれた。
そこへ割って入ってきたのはシェフだった。
「失礼します当店シェフのオルヴィン・クレスと申します。
先ずは、この度当店の高級コースを、ご注文いただきありがとうございます。
一つ一つ端正に、おつくりしております
ご説明いたしますので、心行くまで楽しんで頂けると幸いです。」
そう言うとコック帽を胸に抱え軽く会釈をする。
前菜をコトリコトリと二人の前に置いて説明を始める。
「こちらは主菜となります。 獣王鍋と申しまして星の実と麦団子添えになります。
貴重なシラホロウサギの腿肉を、星の欠片のような酸味果実、星実と香辛料でコトコト煮込み。
とろりとしたソースと一緒に、もちもちの白星麦団子をからめて食べる当宿屋の名物鍋になります。
少々甘めの味付けとなっております。それでは次の料理をお持ちするまで
ごゆっくりお楽しみください。」
そう言うとコック帽を戻し厨房へ戻っていった。
「あーちゃんよかったねー甘めだって!」
「うんうん!」
私達はダンジョンでの疲れ、空腹があったので
あっという間にぺろりと平らげた。
シェフは再び皿を持ってきてコトリコトリと置き説明を始める。
「こちら添え皿となります。草花パンと香油葉バター
野香草と華麦粉を練り込んだ小さな丸パン5つになります。」
ふんわり香る優しげな薫り高い香草が食欲をそそる。
「バターで召し上がられ、お口が味に慣れましたら
先ほどの鍋の残り汁を付けて食べられますと、味変となり
二重にお楽しみ頂く事が出来ると思います。お楽しみください。」
一礼するとシェフはキッチンに帰っていった。
「これ普通に香油葉バターで食べても森の香りがして美味しいですね!」
「うんうん、さっきの残り汁つけて食べるのも美味しいですよ!
森の香りに混じってほんのりとした甘さが、じわじわ沁みてきます。」
「はい!こっちの食べ方も良いですね!」
二人は舌鼓を打つ。随分お腹も膨れてきた。
そろそろデザートがいいなぁと思っているとシェフが来た。
皿をコトリコトリと置き説明を始める。
「幻の鳥と言われる月雫鳥契約農場に3羽しかいない為、希少品です
薄っすら光る月卵を使用し、上には蜜灯果の蜜を雫状に垂らし
輝く宝石をイメージしております。
そして皿の余白には微細な甘い花粉の星の粉を満遍なく散らしております。
こちらも食して頂く事は可能です。お好みで食されるもよし。
残されるもよしで甘みを調節ください。
最後は、お飲み物となりますお食事の状況を把握してお持ちしますので
ごゆるりとお楽しみください。」
再び一礼するとシェフはキッチンに帰っていった。
「すごいですね先生!お皿の中に星空が詰まってるみたい!」
「そうですね、早速頂きましょうか。」
スプーンで一掬いして口に運ぶ。
幻の鳥の卵と言われるだけあってコク深く優しい甘み。
それでいて上品な味わい。
星の粉を塗してみても、さらに上品な甘さとなる。
普通、甘さ+甘さ=くどいとなるが、そうではない。
これは素材の力なのかシェフの腕なのか。
恐らくはどちらもだろう。
あーちゃんもにっこにこで食べている。
丁度皿が空く頃シェフは〆の飲み物を持ってきた。
コトリコトリと置く。
「こちらブルーム・ミルテと申します。
味は軽く、すっきりとした草花系の香りとなっております。
デザートの甘味を落ち着かせる一杯になります。
最後までお楽しみ頂き有難う御座いました。
もし、お気に召しましたら、またのご利用お待ちしております。」
シェフはコック帽を胸に抱え軽く会釈をする。
「とても美味しかったです、ありがとうございました。」
「うん!とても美味しかった!」
私達が言うと。
「その言葉が私の最高の栄誉です。」
そう言うとシェフはキッチンへ帰っていった。
グラスに触れると温かい状態で、ほんのり青みがかった透明な液色
花の香りが優しく漂っている。
光に透かすと、グラスの中でゆらゆらと青銀の光が
揺れて見える。綺麗だ。
一枚花弁が乗っており、一際良い香りを醸し出している。
飲み物を口に含むと爽やかな香りと安心感が湧く。リラックス効果だ。
現世で言えばカモミールティーの効果だと思う。
味・香り共に、こちらの方が遥かに上だけれど。
「はぁー落ち着くねぇ。」私のなかのおっさんが思わず出る。
「これは眠る前に飲むとよく眠れそうですね!」あーちゃんが言う。
私達はゆりかごに包まれたかのような一時を味わい
食事を終えた。
会計は通常の10倍、しかし金貨一枚出せば
お釣りというよりも、銀貨へ崩すレベルの安価である。
高ランクのマジックアイテム金策はそれだけ、うま味があるのだ。
「美味しかったねぇあーちゃん。そろそろ城へ帰ろっか。」
「はい!」
二人は連れ立って城内宮廷のあーちゃんの部屋に来た。
「さて、あーちゃんお疲れさまでした。
明日からの勉強頑張ってくださいね!
因みに何を学ぶのですか?」
「うん、実はさっき思いついたんです。
先生がダンジョンで魔読している時閃いたんです!
マジックエンチャント!魔法効果を付与するテクニックを学ぼうかなと思って。」
「なるほど、あーちゃんならあっという間にSSRクラスのマジックアイテム作れそうですね!」
「どうなるか分かりませんが!頑張ります!」
私は気が付いた
トパーズゴーレムを倒した時に大量にバックパックに
大粒の原石を入れていたはずだ。
私はバックパックを漁るとトパーズの原石全てを取り出し
あーちゃんのテーブルに置いた。
「ええええぇぇ!!
先生売ってお金にして生活費にしてください!」
「いいえ、これは学びの為に使ってください
研磨して加工すれば立派な素材になります。
それに、ここ一か月あーちゃんと随分鍵開けで
お金稼ぎましたからね、お金には困っていません。
これは先生として。名誉騎士としての願いに御座います姫。」
私は膝を折りこうべを垂れ恭しく述べる。
「分かりました!ではありがたく頂いておきます!
だからそういう接し方はやめてください!」
あーちゃんは頬を膨らませる。
「ふふ、分かりました。」
私はあーちゃんに近づき背中に手を回しハグをする。
「じゃあまたね、あーちゃん。」
「はい、またお休みの日は会いに行きますね。」
あーちゃんは私の背中に手を回しぎゅっとする。
「それではあーちゃんおやすみなさい。」
「先生も休みなさい。」
そう言うと私はリーブの書を使って宿屋の部屋へと戻った。




