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帰還と国宝

順調にフローライトゴーレムを倒しつつ奥へと進む。

幾重にも分かれ道があり、都度都度選択しながら右へ左へ

分かれ道の先に再びゴーレムらしき影が見える。

あーちゃんは光源を操り、それを照らす。

ほんのり赤味を帯びた金属光沢を放ちながら

あーちゃんの魔法光を反射している。

金属の断面にわずかに緑青が浮いているのが見える。

あれは酸化した銅。

つまり正体はカッパーゴーレムだ。

厄介なやつが来たな…

ロトンブレスを使えば急激に酸化し

酸化銅が粉塵や微細粒子として空中に拡散

大量摂取すれば肝機能障害と意識低下を引き起こすだろう。

ましてや私達の身体は子供なのだから影響は大きい。

もしロトンブレスが塩基的な作用だったとすれば?

銅との反応はより激しく、より有毒な形で進行する

ある意味化学兵器と言えよう。

前世の化学知識がこんな所で命に係わる役立ちをするとは…

勉強はしておくものだ。

「先生!ロトンブレスを!」

私は片手を軽く上げあーちゃんを制する。

「詳しくは言えないけど、こいつはロトンブレスを使うと

危険なゴーレムです。迂回しましょう。」

「?!

わかりました!」

翻すと私達は別の道を進む。フローライトゴーレムの場合は倒しつつ

カッパーゴーレムなら迂回する。

そして奥までたどり着いた。更に下へつながる階段が見える。

あーちゃんに確認をとると先ほどと同じ返事が返ってきた。

私達は階段を降りて行く。

階段降りるたび、空気の密度が増す。

魔法の光が照らす坑道の壁面は、くすんだ鉛色の岩肌

所々に滲むような青、鉛と…透明度が低い所を見ると青の塊は蛍石ではなさそうだ。

下って行くと群青色の鉱石の帯が壁を走るように続いている。

ぽつぽつと黄金色に輝く鉱石が見える。

蛍石の同色の場合透明度が高く光が透過していたけれど

これは魔法光を反射しているように見える。

B2Fへと降り立った私達は道なりに進む

左右には灰色の壁が続き、その色合いは

まるで鉱山の名残をそのまま残しているかのよう。

壁には鉱石や宝石が露出しているわけでもなく

ただ不安定な。くすんだ壁が見えるだけ。

目に見える部分は掘りつくした後なのだろう。

いたるところ坑道は崩れかけていた。

その合間に見えるのは、部分的に光る鉱石の欠片。

見える部分は掘りつくされたようだが

その奥にはまだ幾許かの鉱石や宝石が眠っているのだろう。

私は壁に手をやりそう考えていると

ふと気配を感じる。

カリカリと硬い結晶が擦れる音がする。

私は暗闇を指さす。

「あーちゃんこっち!何かいる!」

「はい!」

あーちゃんは魔法の光を操作する

キシキシ…ガリガリ…パキパキッ…

音のする方向にいたのは新手のゴーレムだ。

体は、黄金色に輝く硬質に見える結晶で覆われ

その表面は磨かれた金属のように光を反射している。

六角柱の形をした結晶が無数に並び、光が当たるたびに鋭い反射を見せ

周囲の景色を歪め映し出している。

このゴーレムは何ゴーレムだろうか?

見た目からするに何らかの宝石の原石のように感じる。感だ。

宝石の事に詳しくはないが

鉱物には硬度と靭性があることぐらいは知っている。

硬度は硬さ靭性は衝撃荷重や圧力に対して耐えられる抵抗の事だ。

試してみるか…

私はゴーレムに素早く駆け寄り体重を乗せ慣性を利用し

六角柱の筋部分にカタールの刃先で刺突する!

ガギィッ!

ギギギギッ…バキッ、パキキッ!

刃は筋目に食い込み、隙間を突いたことで割れ

部分的に細かく崩れ落ちる。

ヨシ!

想像通り靭性はそんなに高くない

突いて割り崩せばコアを剝き出しにできる

ガリガリ…ブンッ!ギリリッ!ドズン!!

ゴーレムの鈍重なパンチで坑道が割れてくぼむ

とっくの昔に私は後ろへ飛び退き射程外だ。

「あーちゃん!コアが出てきたらお願いね!」

「はい!」

返事を聞くや否や体重全載せの慣性刺突を繰り返す!

その度にパキッ!ガキッ!と音を立て

割れた部分から破片が飛び散る。

私は哮る!

「アアアアァアァァッ!!」

全身全霊を込めて繰り出した一突き。

その力が、ゴーレムの胸部に突き刺さる。

ガッガガガッ!

硬い音とともに、筋目を割り通す刃。

バキィッ!!

ゴーレムの胸部は砕けコアが露出する。

「あーちゃん!!」

レイピアが宙でヒュン!と弧を描く

それを見た私は瞬時に横へ飛び退く

あーちゃんはレイピアでコアを刺突する

薔薇が穿つ棘の穿孔(エピーヌデュクール)!」

パキィィン!!

コアは粉々に砕け散る

ガラガラ…ゴトッ!ズシャッ

ゴーレムだった六角柱の形をした結晶は

大きな音を立てて崩れ落ちた。

「お見事あーちゃん!」

私達は先ほどあーちゃんが覚えたてのハイタッチをした。

魔法の光に照らされたその破片は、深い黄金色に輝き

まるで太陽を内包したような熱を彷彿とさせる。

透明感はほとんどなく、むしろその表面はしっかりとした光沢を放ち

金属的な輝きに近い。

その堅牢な輝きと、無駄のない筋目が作り出す

自然の芸術のような模様を見て確信した。

これは宝石の原石だ。

「あーちゃん、これきっと宝石ゴーレムだよ!」

「えぇっ!でもつるつるしてないし…」

「それは研磨後、きれいに磨いたあとの宝石。

多分これは磨く前の宝石だよ多分。」

「はぇ~・・。すっごい大きい。」

「あーちゃん今日の所はこれを一度王都の宝石商に持って行って

見てもらわない?もし宝石だとしたら多分すごい値段が付くと思うよ!」

そこそこの大きさの欠片はバックパックに詰め込む。

両手で抱える1メートルほどの大きさの結晶を抱え

手にはリーブの書を既に持っている。

まだ足元には沢山の大きな結晶が転がり落ちている。

勿体ないけど運搬不可能なものは運搬不可能なのだ。

「あーちゃん…腕私にくっつけて…」

「は…はい…」

体の大きさに近い原石を持っているのだ。

二人とも色々な意味でいっぱいいっぱいだ。

あーちゃんと腕がくっついた感触を確かめると

「リーブ!」

私は唱えた。


ー 王都ローゼンシュタット宝石商の前 ー

二人は原石を地面に降ろす。

突然でかい鉱石を抱えて現れた二人に

近くにいた人達は驚いて声を上げた。

「ヒェッ!」

「あーちゃんドア開けてそのまま押さえていてもらっていい?

石は私が運ぶね。んんっ…しょっ…うっ…おもっ…」

店内へ運ぶが重さで床板がギギギと軋む。

「しょっ…。」カウンター前へ石を置く

もう一つも同じ要領でカウンター前へ置く。

「ふえ~」しんどかった。元の年齢なら腰をいわしてた。

床の軋みで人が来たことを知った店主は奥から出てきた。

「こんにちは、この石は宝石ですか?宝石なら幾らぐらいになりますか?」

私は聞いた。

店主が見るは子供が二人。何を言ってるんだかお遊びならよそでやってくれ

という目でこちらを一瞥する。

そして二つの大きな原石に目をやると

店主は目の前の巨大な原石を暫くじっと見つめ、目を細めた。

その表情には、徐々に驚きと興奮が交錯してゆく。

やがてゆっくりと原石に歩み寄るが

震える手は石に触れることを躊躇い空中で止まる。

まるで、目の前にあるのが神聖な秘宝であるかのように。

「こっ……この深い黄金色の色合い……!

まるで太陽の光を封じ込めたような輝き……!」

店主はゴクリと息を呑み、目を見開く。

「これは……ト、トパーズではっ?!

しかも、この大きさ……っ!」

恐る恐る震える手で触れ肌感で振動を確かめる

店主はルーペを取り出し、震える手で慎重に原石の表面へと

視線を滑らる。確信を持ったのか店主は言う。

「……すまないが、これは……私の店でどうこうできるものではない。

いや、どこの商会でも、すぐに買い取れるような品じゃない……!」

店主は額の汗を拭いながら、原石から視線を外そうともせず、ゆっくりと続けた。

「……万が一……いや、万が一だが……。

もし、もしも王様と交渉できようものなら……或いは、な。」

私とあーちゃんは顔を見合わせる。

漫画なら二人の頭の上にはエクスクラメーションマークか電球が出ていただろう。

「わかりました鑑定有難う御座いました。これにて失礼します。」

私達は大きなトパーズの原石を抱え再びAFアーティファクトのリーブを使った。


ー ローゼンガルド城玉座の間の外 ー

私達は大きなトパーズの原石二つと共に、そこに現れた。

玉座の間の手前の通路

突然現れた不審者二名を数人の衛兵が取り囲む。

「何者だ!」

私達は槍を突きつけられる。

二人してフードを脱ぐ

「驚かせてしまい申し訳ありません、悪意はなかったのです

お許しを。」私が言うと

顔を確認した衛兵は

「アリシア殿!」「アメリア様!」

一様に驚きの声をあげる。

衛兵は跪き頭を下げ敬礼をする。

「これ父上に見せたいので手伝ってもらえるかしら?」

あーちゃんことアメリア姫は衛兵に柔らかく命ずる。

「はっ!承知いたしましてございます!」

衛兵は数人がかりで大きなトパーズの原石二つを運ぶ。

「父上!只今戻りました!」

そう言いながら姫様は玉座の間へ入って行く。

私は衛兵達と共に中へと入る。

私は王の御前で膝を折り挨拶をしようとすると

「今は良い。アメリアの友として参ったのであろう

堅苦しい事は抜きだ。

お前達も下がってよいぞ。」

王がそう言うと両隣に控えていた騎士ガルヴァン騎士ゼノン

そして絨毯の端に隊列を成していた騎士数名が礼を執り退出する。

「おーう、アメリアー!どうだった今日は楽しかったか?」

そう言いながらニコニコした陛下は両脇の下に手を入れ姫様を持ち上げる。

「はい父上!これをご覧ください!

本日の冒険の収穫品です!買い取ってもらえませんか?

トパーズの原石?とからしいです。」

衛兵の運んできたものを指さす。

「なんと!これをお前がか?」

「はい!正確には私と先生の戦利品です!」とドヤ顔の姫様。

陛下は姫様を降ろすと顎に手を当て

「……この色味、硬質なこの輝き……間違いあるまい

これはトパーズの原石だろう!

それも、この大きさ……未加工のまま

ここまで完璧な結晶とは……」

低く唸ったあと、ふっとため息をつく。

「ふむ。お前は、これを儂に買い取ってほしいと?」

陛下はアメリア様に問う

「はい!宝石商では無理と言われました。」

アメリア様が答える。

「ハッハッハ!それはそうであろう!!

ちょっとした王国の予算が動くレベルの代物だ!

宝石商では手が出まいて!!」

王は豪快に笑いながら言った。

そこで私が口を挟む。

「姫様恐れ入りますが、わたくしとしましては、陛下へ献上致したいと

存じております。」

「えーそれでいいのー?」姫様は言う

「お忘れですか姫、私は名誉騎士にございます。

王国へ奉仕するのは当然でございます。」

王はふたたび原石へと視線を戻し、そしてゆっくりと私を見据える。

その瞳には、先ほどまでの笑顔とは異なる、王としての深い眼差しがあった。

「……名誉騎士アリシアよ。そなたの忠義、しかと受け取った。」

王は短くそう言うと、胸に手を当てて深く頷く。

「これは確かに王国の宝として預かろう。

忠義に報いぬ王は、王たる資格を失う。感謝するぞ。

ところで…メリアは、それでいいのか?」

後半、陛下は突如として王から親へと戻る。

「先生がいいというなら私にも異存はありません。」

と腕を組み目を伏せ、ちょっと納得がいかない感じで言った。

「そうか!ありがとうアメリア!ワッハッハ!」

そう言うと陛下は大きく笑いながら姫様の頭を撫でた。

不服そうながら、まんざらでもなさそうなあーちゃんを見て

私は口元を手で隠し思わず、くすくすと笑ってしまった。

王族とて親子。この国は素敵な国だ。

私は目を伏せ故郷へと思いを馳せた。

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