礫魂の鉱霊域 1
誤字脱字の訂正ありがとうございます。
大変助かります。
礫魂の鉱霊域入り口
このダンジョンは廃坑を利用してできたダンジョンのようだ
入り口が当に坑道のそれだ。
「あーちゃん用意はいい?」「はい!」
私達はダンジョンに足を踏み入れる。
遠い昔、坑夫が出入りしたであろう朽ちた坑道の入り口は
黒ずんだ支柱と崩れかけの木組みに縁どられている。
「聖なる光よ、その輝きをもって暗闇を退けよ。ホーリー・ルクス!」
あーちゃんは唱えると小さな光球が頭上に展開され
行く手は勿論、周囲を照らし出し私達の視界は確保される。
「ありがと、あーちゃん。」「どういたしまして♪」
照らされた空間には、長らく使われていなかった採掘の痕跡が
埃をかぶったまま静かに眠っている。
古びた木の支柱がまだ所々に残っており
鉱車のレールが半ば地中に沈みながらも、坑道の奥へと伸びている。
壁に当たる魔法の光は、埋もれた鉱石の粒に反射し
小さな星のような輝きを放っている。
「わぁ!夜空に散りばめられた星みたいですね!先生♪」
「そうですね♪」
既にモンスターの住む敵地であるにもかかわらず
その幻想的な景色は私達に、それを一時的に忘れさせた。
坑道内に漂うのは、岩と鉱塵の匂い
それが私達を現実に引き戻す。
そして予想外の静けさに不気味さを感じる。
想像ではゴーレムだらけで鉱石や岩の擦れる音が
そこかしこから聞こえてくるであろうと予想していたからだ。
「とても静かですね…。」あーちゃんが言う
「そうですね。」私を否が応にも緊張感が包み込む。
所々埋まり抗路に露出している抗車レールに沿って奥へと進んで行く。
壁に溶け込んでいた岩が音をたてる。
ゴガゴゴゴ…ゴゴ…
岩が動いている。
あーちゃんが魔法を繰り、光源をそちらに向ける。
脚部・胴胸部・腕部・頭部と人の関節部位が
稼働するモノが岩が擦れる音をたてながら立ち上がる。
「あーちゃん!ロックゴーレム!」「えっ!ど…どうするんですか?!」
ゴーレムの動きは鈍重だ、ある程度の会話の余裕はある。
「ぶっつけ本番だけど、これが秘策だよっ!…ふぅ…」
一呼吸置き私は脳内に刻み込んだ文字を、わざと口に出す
あーちゃんは私が無詠唱魔法を使えるとは思ってないからね。
「万物を蝕む息吹、此処に顕現し我が刃に道を示せ!ロトンブレス!」
私の唱えた魔法によって現れた魔力の息吹は
灰色がかった霧となって対象を包むように前方へと噴出し
ゴーレムの全身を覆い尽くす。
ゴリッ…ゴリ…パキ、パキッ…!
音を立てて、ゴーレムの表面がひび割れていく。
それは単なる崩壊ではない。
岩の一部は黒く変色し、まるで熱されたチーズのように
ドロリと歪み始める。
それは最早岩ではなく、泥の塊かの如く変じていく。
次の瞬間私はカタールを抜きゴーレムへ向かって跳んだ。
ジャグッ!!!
私はカタールでゴーレムの胸部をX状に撫で斬る。
赤黒く光るゴーレムの核が剥き出しになる。
「あーちゃん!」私は叫ぶ。
恐らくカタールで突けば壊せそうだが止めは譲る。
あーちゃんはレイピアを鞘から抜き
背筋を伸ばし en garde ポジションをとる。
Cavazioneをオーバーアクション
レイピアが宙でヒュン!と弧を描く。
私は瞬時に横へ飛び退く
それを確認してあーちゃんは宣言するよう高らかに言葉を紡ぐ
「薔薇が穿つ棘の穿孔!」
次の瞬間コアに向かって踏み込むように跳ぶ!
レイピアの切っ先は空を裂き手首を捻る回転を加える事によって
威力は乗算する。
パキィンッ!
レイピアの先端が触れただけで核は砕け散る。相当の威力だ。
魔力的な制御を解かれたロックゴーレムはボロボロと崩れ落ちる
ヒュッ!とレイピアを一振りし
カチン!と鞘に納め
「Ende。」とあーちゃんは静かに言った。
私は思わず見とれてしまった。
「どうでした先生!」あーちゃんが私に声をかける。
私はハッ!と我に返る。
「あーちゃんすごい!かっこいい!見とれちゃいましたよ!」
私はそう言うとあーちゃんは、ちょっと照れつつ
ドヤ顔とポーズをする。ドヤァ。
カッコいいのに可愛いとか最高過ぎんか?!私は心で呟いた。
私は片腕を直角に掌をあーちゃんに向ける。
「…?」
あーちゃんは一転困惑する。
これはですねー私の地方の風習で、やったね!と互いを讃える時に
パン!と音を立てて掌を合わせる仲間の合図です。」
まぁ前世の風習なんだけどね、ハイタッチ。
でもそんな事は言えないんだよねぇ。
「…こう…ですか?」
パン!あーちゃんも同じようにして掌を私の手に軽く叩きつける。
「そうそう!強く叩き合わせるほど相手への同調を意味します。
とはいっても、強く叩きすぎるのは逆効果ですけどね。」
私はそう言うと。
「なるほど!力加減が難しいのですね!どんな感じがいいのかな…」
自分の手を叩き合わせているあーちゃんは
何か拍手をしているみたいになっている。
「それにしても、あーちゃんに、こんな技があったのは吃驚!」
「はい、実は私の剣の師匠はガルヴァンなんです。
レイピアで突きを反復訓練している時に
手首に回転を加えながら突くと威力が
上がりますよって教えてもらったの!
ちなみに技名を考えたのは私です…」
最後の方もごもごして恥ずかしそうにしている。
わかるよあーちゃん!それはね齢取ってからわかる
黒歴史ってやつなんだよ!
でもカッコいいよね黒歴史。
「あーちゃんカッコいいよ!惚れ直しちゃった!」
「ほ…惚れ…先生は、わ…私が、す…好きなの?」
「そうですよ?今頃分かったんですか?」
あーちゃんはもじもじしている。
「わ…私も…その…好きなん…です…ケド…(ボソッ」
顔を真っ赤にして精一杯という感じで言う。
良い雰囲気ってやつなんだろうけど
ここはゴーレム徘徊する坑道なんだよね。
「ふふ。それでは奥へ進みましょうか。」
「はっ!はいっ!」
あーちゃんは慌てて私の横に並ぶ。
私達は分かれ道を進み
ゴーレムが現れる度に同じ流れで撃破してゆく。
進んでいくと広めの部屋へと出た、中にいた2匹のロックゴーレムを倒し
部屋の端を照らすと下り階段があった。
「どうする?あーちゃん、行ってみる?」
「わっ…私は先生が行くなら、ついていきますっ!」
「ふふっ、では行ってみましょうか。」
「はい!」
想像を超えるようなゴーレムが出てこない限り
問題はないだろう。
そもそも、その時は時間を止め脱出すればいいだけだ。
私達は階段を下って行った。
階段を降りて行くと少しずつ空気が湿り気を帯びてくる。
魔法の光が壁を照らす。灰色の岩肌が青白く反射し
ちらちらと小さく蛍石のような光が見え隠れする。
空気の温度もわずかに下がる。
B1Fに足を踏み入れると、魔法の白い光が壁を照らすと
鉱石が、ほんのり輝いている。
間違いない階段途中でも見え隠れしていた
結晶化した大きな蛍石つまりフローライトだ。
元の世界で川の上流に掌サイズの沢山落ちてた
色とりどりの綺麗な石のあれだ!
進んで行くと坑道中央に塊が見える。
ゴーレムか?
魔法の光が照らしたゴーレムは
ゴツゴツとした結晶が無造作に並び
深い青からブルー、さらには透明へと変化するグラデーションが
まるで夜空を映し出したかのような神秘的な美しさを放っている。
フローライトゴーレムだ。
ズン…!!
一歩動くたびに、その身体魔法の光を透過させ
周囲に鮮やかな明るい青系の光色を映し出す。
「綺麗…」私もあーちゃんもその神秘的な光景に見とれた。
ズン…!!
体に響くフローライトゴーレムの足音に私は我に返る。
「あーちゃん!敵!」私が叫ぶとあーちゃんも我に返る。
二人は後ろへ飛退き距離をとる。
「万物を蝕む息吹、此処に顕現し我が刃に道を示せ!ロトンブレス!」
腐食の霧がフローライトゴーレムを包み込む。
蛍石の結晶が、まるで溶けていくように変色し
青白い光を放っていた結晶は、その輝きを失い
黒く不規則な裂け目が広がっていく。
あぁ…あんなに綺麗だったのに…私はそう思いつつ
あーちゃんの方へ目をやると
明らかにガッカリした表情をしている。
そうなるよね…思いは同じだ。
そして私達はロックゴーレムと同じように屠った。
崩れた結晶の破片は、柔らかく粉状で
湿気を含んだ、ぬるっとした質感に変わり
残骸が不安定に床に広がる。
黒く変色した破片も混じり、腐食した様子が見て取れる。
一部は完全に崩れ落ち、灰色がかった塊となって床に散らばり
光を反射する事も鮮やかな透過をする事も無くなっていた。
これは持って帰るには意味のないドロップだよ…
「あーちゃん…先…進もうか…。」
元気なく私は呟く。
「はい…。」
それにあーちゃんも続く
礫魂の鉱霊域B1F探索は続く。




